第78話 バレバレだあ!!
「唯さーん」
右手を振りながら左に居た女の子がこっちに向かって歩き始めたけど、あれは間違いなく中野さんだ。隣にいたもう一人の女の子もこっちに向かっているけど、あれも間違いなく高坂さんだあ!
おいおい、一体、これで何人目だあ!?どうして今日の俺は運が無いんだ?明らかに呪われているとしか思えなーい!!
でも、偶然とはいえ互いに声を掛け合ってしまったのだから、ここで無視する訳にはいかない。俺は右手を軽く上げて「よお!」と言わんばかりに高坂さんと中野さんを迎えた格好になった。
「アスにゃーん、こんなところで会うなんて思ってなかったなあ」
「それはこっちも同じよー。まさかここで唯さんに会うとは思ってなかったから」
唯と中野さんは互いにニコニコ顔で右手を軽く上げてるけど、俺は高坂さんに右手を軽く上げた。でも、高坂さんは中野さんの後ろにいて俺を黙って見ている。いや、高坂さんも何か言いたげな顔をしてるけど、あえて黙ってるように思えなくもない・・・
「唯さーん、ここで会わなかった方が良かった?」
「へっ?・・・」
「もしかして・・・お邪魔だったかしら?」
「「はあ!?」」
俺も唯も最初、中野さんが言ってる意味が分からなくて思わず間抜けな返事をしてしまったけど、隣にいた唯の顔を見た時に俺は大失敗したことに気付いた!!
そう、俺も唯も互いに懐かしい昔話をしながら歩いていたから集中力が途切れていて、完全にこの距離はヤバい距離、というか誰がどう見てもゼロ距離だあ!!唯もそれに気付いて明らかにさっきまでとは表情が違う!焦っているのが俺の目からもハッキリ分かるくらいだあ!!
思わず俺と唯は体をサッと動かして一人分くらいの距離を空けたけど、明らかに不自然な動きで中野さんは完全にニヤニヤしている!マズイ!完全に中野さんにはバレバレだあ!!でもここで「はい、そうです」などと絶対に認める訳にはいかないのも事実だ。何とかして逃げ切らないと・・・
「おーい、俺は小野寺と茜さんのようなリア充じゃあないぞ!」
「あらー、じゃあ、何をしてるのかなあ?」
「お、俺は本当は今日は寝て過ごすつもりだったけど、唯が俺を荷物持ちなどという訳の分からん理由で強引に連れ出しただけだあ!」
「あらー、じゃあ、そういう事にしておくけどー、どこへ行くつもりだったのかなあ?」
「そ、それは・・・」
俺は唯の顔をチラッと見たけど、唯も焦ってるのがバレバレだ。でも、ここで変な事を言ったら、それこそ火に油を注ぎかねない・・・俺が喋ろうとしたけど、その前に唯が口を開いた。
「・・・あ、あのね、アスにゃん」
「ん?・・・唯さーん、どこへ行くつもりだったの?」
「え、えーとねー、唯が火曜日に持って行った『ギータ』を取りに行くんだよ」
「ギータ?あー、あれね。ハヤマの本店に出したんだよねえ」
「そう、それ!」
「っていうか、それを平山さんに持たせるつもりだったの?さすが『桜高の姫様』は格が違いますねえ」
「だ、だってさあ、今日のたっくんはさあ、何もしないで朝から家の中でゴロゴロしながらテレビ見てるんだよー。そんな暇人は可愛い
「ふーん。じゃあさあ、今はハヤマに行く途中だったのー?」
「そ、そうだよー」
「あれー?赤電で来たにしてもバスで来たにしても、全然方向がおかしいよー」
おいおい、目は笑ってるけど完全に中野さんは疑って掛かってるとしか思えないぞ!というか、唯を相手に揶揄ってるとしか思えない!!日頃から唯に『アスにゃん』などと呼ばれてイジられまくりの腹いせかあ?
「・・・そ、それはですねえ。折角お昼時にここまで来たのにギータを持ち帰るだけじゃあ勿体ないと思って、たっくんに超穴場のお店を教えてもらって、そこで餃子を食べてたんだよ。だから別におかしくないでしょ?」
「ふーん、それってホント?」
「アスにゃーん、そのお店で智樹君と茜ちゃんと一緒だったからさあ、嘘だと思うなら二人に聞いてもいいよー。唯が言ってることが正しいと証明してくれるからさあ」
「あらー、小野寺さんと藤崎さんと一緒だったの?」
「そうだよー」
「それじゃあさあ、ダブルデートなの?」
「だーかーら、ホントは智樹君と茜ちゃんは塾をサボって遊んでる途中だったから口止めされてるんだよー。表向きは今日は休日返上で塾に行ってる筈なんだから、もし唯たちとダブルデートだなんて言われたら、あの二人だって怒るよー」
「まあ、たしかにね」
「それにさあ、もし唯がたっくんのカノジョだったら、山羽君を始めとしたファンクラブの人がたっくんを殺しにくるよ」
「そうだねー。ここはー、わたしの勘違いという事にしておきますねー」
そう中野さんは言ったかと思ったら後ろを振り向いて、何か思わせぶりな視線を高坂さんに投げかけたけど、高坂さんはその視線を受けてちょっと焦ったように感じたのは俺だけだろうか・・・
「・・・中野さーん、何がどういうふうに『勘違い』なんですかあ?」
「あのさあ、平山さんだって、どこぞのゲームじゃあないけど『返事が無い。ただの
「ま、まあ、たしかに『唯さんの
「だよねー。でも、平山さんが本当に屍になると困る人がいますから」
「「なんだそりゃあ!?」」
「まあ、わたしの口からはこれ以上のことは言えませーん。ね、唯さん」
「「?????」」
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