第70話 去年の5月その②・・・『反省しないさい!』と言ってるだけです!怒ってなんかいません!!
そう、全てはお金があって初めてやれるイベントであって、限られた予算内でイベントを執り行わないとルール違反になる。俺は極々普通に手に入る品物をチョイスしたメニューと、過去2年間の
「・・・それじゃあ、いくらクラスの総意として『メイド喫茶をやりたい』と言っても、私が『お金が無いから却下』と言って無理矢理別の物にしてもいいの?」
「あのさあ、さすがにそれをやったら『何の為の実行委員なんだ?』と
「他の方法?」
「簡単に言えば2通りだ。まずは単純に予算を増やす事、あるいは売り上げを見込んで何らかの手段で借金をして見掛け上の予算を増やす方法。だけど、これについては学園祭規則に書かれているから絶対に無理!つまり、このお金しか学校側は出してくれないし借金など言語道断だから、足りない分は俺たち1年F組の生徒の自腹、もしくは個人の所有物をクラスイベントに使うしかない」
「・・・もう1つは?」
「ん?ようするに予算に見合うだけの内容で『メイド喫茶』をやることだ。それが2枚目の紙だ」
「どれどれ・・・」
そう呟くと藍は紙を1枚めくって2枚目を開いたが・・・
「はあ!?これじゃあ、何のためのメイド喫茶なのか分からないじゃあないの!!メニューが1つだけ、ドリンクも2つだけ、しかもメイドの数よりテーブルの数の方が多いなら、まだ普通の喫茶の方がマシよ!!」
そう言って藍は「問題外!」と言わんばかりの表情で紙を俺に突き返した。まあ、藍の反応は事前に予想出来ていたけどね。
「・・・そこで、俺が作り上げた、第3の方法がこれだ」
俺はそう言うと、足元に置いてあった鞄の中から別の茶封筒を取り出し、それを藍の前にサラッと置いた。藍は一瞬だけ「何なの?」という表情をしたけど、黙って封筒を開封した。
そこに入ってたのは・・・
「こ、これって・・・こんな事、やってもいいの?・・・」
「違法じゃあないぞ。そこは母さんのお墨付きだ」
「だからといって、普通の高校生がここまで思いつく?」
「普通の高校生が思いつかない方法なのは藍自身の今の言葉が証明している。だから俺は母さんの知恵と
「たしかに・・・」
そう、俺はいかに低予算でメイド喫茶をやれるのか、考えに考えた挙句、テレビのワイドショーでやっていたネタをヒントにして、この企画書を作り上げたのだ。
「・・・食品業界には、いわゆる『3分の1ルール』というのがあって、製造メーカーが出荷できるのは賞味期限の日数の最初の3分の1までという、日本独特の慣例になっているルールがある。これを過ぎた食品は出荷出来ないけど、廃棄処分すると勿体ないしコストも重むから、このような食品を専門に扱う激安スーパーに卸したり、福祉施設に格安か、物によっては無償で提供したりしている。唯の爺ちゃんの亮太爺ちゃんは浜砂のJAの元会長だから食品業界だけでなく流通業界にも相当顔が利く。だから唯に頼んで亮太爺ちゃん本人と一緒にメーカーの支店や問屋に掛け合って、この値段で、この数量までなら俺たちに卸せるという数字を引き出した。勿論、全て冷凍食品やレトルト品だから本物志向を目指すなら文句を言いたくなるだろうけど、学園祭のイベントでレトルトに文句を言う奴がいるとは思えないから全然気にする必要はないし、だいたい調理担当だってレトルトをお湯で温めるか電子レンジでチンするだけだから、お皿の盛り付け方法を決めるだけでいいんだから、こっちとしても願ったり叶ったりだぞ」」
「・・・・・ (・_・;)」
「・・・一口にメイド服といってもピンからキリまである。クラシカルなメイド服もあれば、それこそ〇葉原で流行りのモデルもあるし、店によってもデザインが違うから多種多様だ。レンタル品もあれば店独自に販売している物もあるけど、母さんの伝手で、倒産したメイド喫茶やイベントショップのメイド服を大量に扱っている商社に直接母さんと一緒に行って、倉庫の奥で埃をかぶった段ボールの山に眠っていたメイド服を見つけ出し、母さんの名前で既に押さえてある。そのメイド服は写真の通りだ。普通にネットでメイド服をレンタルする時の値段の半分以下で、しかも数は倍以上だぞ。だいたいさあ、どいつもこいつも『メイド喫茶』などとデカイ事を書いているけど、どういうメイド服の、どういうコンセプトのメイド喫茶なのかを注文してきた奴は誰もいないのだから、メイド服の色やデザインに文句を言わせない。いや、逆に文句を言うなら『自分でやってみろ』と俺は反論したいくらいだ。このメイド服だって、まともに買えば藍でも『嘘でしょ!?』と絶対に言う値段だから、
「・・・・・ (・_・;)」
「後は藍が『桜高の女王様』の顔を使ってクラスのみんなの了承を取ってくれれば、俺たちはこのやり方でメイド喫茶をやる」
「・・・・・ (・_・;)」
「ま、今回の場合、ゴールデンウィークで一週間も期間があったから作れたのであって、さすがにこれを1日や2日でやれと言われたら無理だったと思うぞ」
そう言って俺は藍に『ニヤリ』としたけど、さすがの藍も何も反論できず、黙って俺が作った企画書を見ているだけだった。
「ただなあ・・・ちょっと言いにくいけど・・・このままだと一人だけ、違うメイド服を着てもらうかもしれないけど・・・」
そう言って俺はチラッと藍を見たけど、その視線に気付いたのか藍は『ハッ!』という表情をした。
「も、もしかして・・・私に見合うサイズのメイド服が無いとか・・・」
「スマン、そういう事だ」
俺はそう言って藍に頭を下げたけど、藍は呆れたような顔をしている。
「で、拓真君。その埃を被っていたメイド服を私だけ使えない理由は?」
藍はそう言って『女王様モード』で俺を睨んだけど、さすがの俺もここでビビっていては話が纏められない。だから恐怖を理性で抑え込んで(?)真っ直ぐ藍に視線を向けた。
「あーいー、俺にそれを言わせる気かあ?」
「いいから言いなさい!別に怒らないから!!」
「ホントに怒らない?」
「怒らないから言いなさい!」
「じゃあ言うけど・・・お前さあ、胸のサイズ、いくつだ?」
「はあ!?」
「だーかーら、このLサイズのメイド服は最大バスト90センチだぞ。こういうとF組の女の子に失礼かもしれないけど、小野寺の言葉を借りるなら『うちのクラスには一人を除いてB以下しかいないのかよ!』なんだからさあ、藍がこのLサイズを着れないなら、一人だけ別のメイド服を着てもらうしかないんだぞ」
「はあああーーー・・・そういう事ね」
「だいたいさあ、E組の場合、逆に唯が一番小さいんじゃあないかって位に大きい子が揃ってるから、小野寺だけでなくF組の男子は『E組の男子が羨ましいぞ』と二言目には言ってるくらいなのは藍も知ってるんじゃあないのか?」
「知ってるも何も、うちのクラスの女子はみんな知ってるわよ!」
「知ってるなら、尚更その理由も分かるだろ?」
「それじゃあ、その答えを言ってあげる」
そう藍は言ったかと思ったら、いきなり立ち上がって顔を俺の目の前に近づけたから俺はマジでビビった!しかも『女王様モード』で顔を近づけるのは反則だあ!
「わ・た・し・は・こ・れ・を・着・れ・ま・す」
藍はこれを静かに言ったかと思ったら、いきなり俺の左の頬を抓ったから、思わず俺は「あーたたたたたた!」と叫んでしまったくらいだ!
「だいたいさあ、こんな大勢の前で超恥ずかしい事を言わせないで下さい!」
「わーかったから、勘弁してくれ!」
「反省しなさい!」
「反省するも何も、さっき藍は『怒らない』って約束しただろ!」
「私は『反省しないさい!』と言ってるだけです!怒ってなんかいません!!」
「はいはい、反省してますからあ」
「『はい』は1回だけ!」
「はい!気をつけます!!」
「分かれば宜しい」
それを言うと藍はようやく俺を解放してくれたけど、多分、鏡で見れば俺の頬は真っ赤になっていたんじゃあないかなあ。
藍はその後、俺の作った企画書と見積書を見ながら、いくつか指摘や修正案、それに女の子だからこそ気付いた点、調理担当や受付担当のルール案についても幾つか指摘してくれた。その修正は今日中に俺がやるという事で打ち合わせは終わりとなり、それを明日のホームルームで提案し、了承が得られれば(というか、藍の提案を蹴る奴がF組にいるとは思えない)放課後までに実行委員会に提出して、まずは第一段階クリアだ。
今日の本題が終わったのだから、残った時間をどう使うかは自由だ。俺は残ったポテトとナゲットをつまみつつ、コーヒーをお替りしようと立ち上がったのだが、藍が「私の分もヨロシク」とか言うから、俺が両手にコーヒーを持ってお替りをもらいに行った。
そのお替りのコーヒーを飲みながら
「・・・ところで藍、同好会には行かなくてもいいのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます