第69話 去年の5月その①・・・やればいいんでしょ、やれば!!
「え?え、え?それってホント?」
「うーん、正確に表現すればちょっと違うかもしれないけどー、去年のゴールデンウィーク明けだったと思ったけど、拓真君と二人だけで話す機会があったんだけどその時に拓真君がね・・・」
そう言えば・・・もう1年になろうとしているのか・・・
俺は正直に言うけど、今でも自分では弁護士に向いてないと思っている。弁護士一家の次男にも関わらず、だ。
あの頃は自分が将来、何になりたいのか具体的な目標が無かった・・・
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「・・・拓真君、何をキョロキョロしてるの?」
「いやー・・・もしかして、誰か知ってる奴がこの店に入ってきたらヤバイかなあって思ってさあ」
「大丈夫大丈夫。どうせ、はとこ同士だってクラスのみんなが知ってるし、それに
去年、俺と藍は1年F組の
表向きは『放課後の1年F組は囲碁部の活動場所になっているから、別の場所で実行委員の仕事をやる』なのだが、俺に言わせれば実行委員の仕事に見せ掛けたデート以外の何物でもない!
その日、俺たちは向い合せの席に座っていたけど、テーブルの上に乗っているはコーヒーとポテトが2つずつ、ナゲットが1つだ。それ以外に
藍はコーヒーを左手に持ちながら寛いでいるけど、俺はまだ何も手を付けてない。
「・・・あーいー、ホントに俺が払わなくてもいいのか?」
「べっつにー。どうせ私の懐が痛む訳じゃあないから」
「だからいって、クレジットカードで支払ったら後で怒鳴られるとしか思えないから、俺は責任を持てないぞ」
「だーかーら、このVIZAのカードはクレジットカードじゃあないわよ」
「はあ!?」
「高校生は基本的にクレジットカードは作れないから、これはデビットカードよ」
「デビットカード?・・・そう言えば母さんが言ってた、高校生でもデビットカードなら作れるって・・・」
「そういう事。一応、キャッシング機能を使えない設定にしてあるから、結果的に毎月口座に振り込まれる小遣いの残高が支払い上限になるけど、これはあいつが私個人に『小遣い代わりに使え』って言って渡したカードだし、それに、親らしい事といえば金を出すくらいしかしてない人が折角与えてくれた物を有意義に使ってあげないとね。まあ、拓真君から見たら小遣いの桁が違うからビビらないで欲しいな。さすがにどこでお金を使ったかは几帳面にチェックしているから下手な店で使えないけど、WcDとかマイスドなら高校生なら友達同士で行くのは全然不思議じゃあないし、だいたい、この程度の金額なら一人で行ったのか二人で行ったのかは請求書を見ただけではバレないから心配しないでね」
「はあああーーー・・・義理とはいえ父親だぞー。ちょっと酷過ぎない?」
「それを言うなら、義理とはいえ娘を半ば放任している父親の監督責任はどうなるの?私が変な道に踏み込んでないだけ有難いと思いなさい、ってあいつに本気で怒鳴りたいわよ」
「わーかった。この話をしていると閉店時間になっても終わらないような気がするから、ここらでやめよう」
「分かってるじゃあないの。それじゃあ本題に入るわよ」
結局、俺が藍の家庭事情について話題に上げたのは、この時が最初で最後だった。この話をすると藍が不機嫌になるのがハッキリした以上、俺の方から話題を振って藍の機嫌を損ねるのはマイナスにしかならないと考えたからだ。ただ、藍の方から話題をほんの少しだけ振る時もあったけど、俺の方も出来るだけ深入りするのを避けたから、俺が藍のカレシで会った間は藍がこの件で不機嫌になることはなかった。
「・・・ところで拓真君、みんなからのアンケートの集計は?」
「はいはい、出来上がってますよ」
「どれどれ・・・」
俺たち1年F組がクラスイベントとしてやること、それは『喫茶店』だ。これだけはゴールデンウィーク前にアッサリ決まったのだが、でも、どんなメニューでやるのか、どんなコンセプトでやるのか意見百出でホームルームで結論を出せず、とりあえず各人にアンケートを取って、その結果から何らかの方向性を出そうという、いわば妥協が成立して、俺が作ったアンケート用紙に各人が記入して連休前に全員から無記名で回収したけど、それを見た俺は仰天した!
で、仕方なく俺は殆どゴールデンウィーク返上で、一部は恥を忍んで母さんと、それとクラスは別だけど唯にも助けてもらって、ようやく昨夜遅くまで頑張ってA4の紙12枚にまとめ上げたのだ。当たり前だけど、藍は「拓真君、頼んだわよ」の一言で終わりだ。(まあ、収取がつかなくなったホームルームを『鶴の一声』ならぬ『女王様の一喝』で収めた藍には感謝しているけど)
「・・・はあ!?男子は一人を除いて『メイド喫茶』って、どういう意味なの!?ふざけてるとしか言いようがないわよ!!」
「だろ?談合しているとしか思えんぞー」
「もしかして・・・男子でただ一人、『占い喫茶』などというアホな意見を書いたのは・・・」
藍は半信半疑で俺の顔を覗き込んだけど、俺は「はーー・・・」とため息をついた後、黙って自分の右手で自分の顔を指差した。
「男子全員、独占禁止法違反で丸1日かけて説教よ! (#^ω^)」
「あーいー、そういう女子だって20人中11人が『メイド喫茶』なんだぜ」
「へっ・・・ちょ、ちょっとー、これって無記名とはいえ酷くない?」
「あのさあ、一応、筆跡でバレバレの奴がいたから言っておくけど、この11人の中に
「マジ!?クラス委員が率先してメイド喫茶をやりたがってるのお!? ( ゚Д゚)」
「つまりさあ、なんだかんだでクラスの4分の3が『メイド喫茶』をやりたがってるというのは事実なんだぜ」
「・・・・・ (・_・;)」
「女子だってフリフリのエプロン姿で『お帰りなさいませ、ご主人様』とか言ってオムライスにケチャップで絵を描きたい子がゾロゾロいるって事だぞ」
「はあああ・・・そうまでして、男子連中はこの私に『お帰りなさいませ、ご主人様』とか言わせたいのお?勘弁してよお」
「いくら談合の疑い濃厚とはいえ、これをたった一人の反対で覆すのは相当難儀だぞ。談合しているという決定的証拠があったとしても、個人の願望までは止められないからなあ」
「・・・はいはい、分かりましたよ!やればいいんでしょ、やれば!!」
「頼んだよー」
「その代わり、私は1時間だけよ!それが絶対条件だからね!!」
「受付だろうが調理係だろうが、ちゃあんとクラスの担当をこなしてくれればいいよー」
「はあああーーー・・・」
俺は正直、藍がアッサリ引き下がるとは思ってなかったからホッとしたけど、さすがの藍も校内だったら『桜高の女王様』の二つ名に恥じぬ(?)女王様ぶりを発揮しただろうけど(既に4月の段階で、藍は2年A組の『桜高の妖精』
でも、俺がにこやかに話してたのはここまでだった。
「・・・でもさあ、口でいうのは簡単だけど、これ、相当難問だぞ」
そう言って俺は傍らに置いてあった茶封筒から2枚の紙を取り出し、それを藍に渡した。
藍も最初は何気なく受け取ったみたいだけど、文章を目で追っていくうちに顔が曇っていくのがアリアリと分かった。
「・・・お金が全然足りない」
「そういう事。俺も正直、試算してみて愕然としたぞ」
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