第6章 全ては思い込みから始まり・・・
第60話 感謝しないといけないねー
『・・・それじゃあ、たっくんは後から来る形になるね』
「仕方ないよなー。一緒に出るのを見られる訳にはいかないし」
『でもさあ、あの場所で誰かにバッタリなんて事はあるかも」
「あの場所は多分大丈夫だけど、問題はランチじゃあないのか?」
『多分大丈夫だよ。りっちゃんとムギちゃんに感謝しないといけないねー』
「まあ、あの二人が俺を色々と引っ張りまわしてくれたお陰だとは思うけど、そのせいで俺は執事君どころか完全に下僕扱いだぞ!」
『下僕じゃあないよ、マネージャーだよ』
「勘弁してくれよお、あの小野寺が『たくまー、芸能人のマネージャーでもお前よりマシだと思うぞ。ありゃあ、完全な下僕だな』とか言って同情する程だぞー」
『まあまあ、芸能人だけでなく政治家やお偉いさんのマネージャーなんてモンはさあ、顎でこき使われた挙句、その時の気分1つで『お前はクビだー!』とか言い渡されるんだよー。
「カズ先輩にも『マネージャー、頑張れ!』とか笑われてるんだぞ!」
『でもさあ、そのお陰で唯とデートしてても誰も怪しまないんだよ』
「それはそうだけど・・・」
『それじゃあ、明日は作戦通りに』
「はいはい、りょーかい」
俺はそれを最後に唯との通話を切り上げた。
えっ?俺はどこで唯と電話をしていた?あー、そのー、まあ、ぶっちゃけて言えば俺は野球部の練習グランドの端で電話していた。ついでに言えば唯はトーテツストアの駐車場で電話していたのだ。
中野さんが5人目の軽音楽同好会の正規メンバーになった事で、俺の校内での立場は『放課後お喋り隊』のマネージャーになった。いや、正しくはお喋り隊のメンバーに顎でこき使われる苦労人マネージャーとして校内では認知されるようになった。
それもその筈、俺はほぼ毎日『放課後お喋り隊』こと軽音楽同好会のメンバーに顎でこき使われるのを学校中の生徒が目撃しているのだから。
放課後は毎日、琴木さんに学校の正門前にある春花堂の支店に連れていかれた挙句、「平山先輩、ヨロシクね」の決まり文句で琴木さんが買ったスイーツを第二音楽室まで運ぶ担当だ。琴木さんは春花堂の支店では相変わらず「お爺ちゃんにツケておいてね」で済ませてしまうお嬢様ぶりを発揮しているし(あの会長、孫娘が毎日どれだけのお金を使っているのか知ってるのかよ!?)購買でも校内で唯一、顔パスで買える『理事のお孫さん』を発揮しているほどだ!
断っておくけど、いくら琴木さんといえども購買で顔パスが効くのは春花堂の商品だけで、昼休みに『おーい、お茶だ』を購買で買っている琴木さんを俺は見た事があるけど、その時は他の生徒と一緒に現金で払っていたけどね。
先輩の方はもっと凄まじく、昼休みは食堂で藍の正面!つまり俺の左隣にドーンと座るようになった挙句「後輩君、お皿を片付けておいてね」「後輩君、購買で伊左衛門を買ってきてくれ」などと俺をパシリで使っているくらいだ。さすがに「あれは目に余る行為だ」として風紀委員長の真壁先輩が指導したようだが、先輩には全然効果がなく、とうとう真壁先輩から「平山君、体を壊さないでね」「平山君、律子のわがままを『ハイハイ』と聞いてくれてホントにありがとう」と真顔で同情される始末だ。
先々週の土曜日は、先輩は「とにかくついて来い!」の一点張りで俺を強引に連れ出した。その行き先はというと楽器メーカー「ハヤマ」の本店で、別に何かを買う訳でもなく俺と一緒にあーだこーだ言いながらドラムを見ていた。昼はマイスドだったけど、しかもホントに偶然ではあるが真壁先輩が先にマイスドで並んでたから「どうせなら一緒に食べていこうよ」と先輩が言い出し真壁先輩も賛成したから一緒に品定めをしているところへ、何と中野さんまで店に来たから、結果的にマイスドの店内で4人で3時間近くお喋りした形になった。あー、でも、先輩はお金を1円も出さず俺が支払ったけどね、とほほ。
まあ、幸いしたのは先輩が公私に渡り(?)余りにも俺を顎でこき使ってくれたから、中野さんからは俺と先輩の仲の誤解が解けたのは何よりだ。というより「律先輩に振り回される平山さんには同情しますよ」と逆に慰められたくらいで少し嬉しかった。でも、放課後は中野さんも俺に「平山さーん、わたしにもコーヒー作ってねー」と平然と言ってるくらいだから、完全にマネージャー扱いされてます、ハイ。
先週の土曜日は先輩が朝から夕方まで俺の家に押しかけてきて、お昼ご飯だけでなく、午前のおやつも午後のおやつも食べ散らかして(?)帰っていった。藍も唯も「昔と全然変わってないね」と半ば呆れてたけど、父さんと母さんは別の意味で「昔と全然変わってないね」と笑っていた。先輩は日曜日も朝から押し掛けてきたけど、示し合わせた訳ではないけど小野寺と茜さんまで押し掛けてきて、さらには午後からは琴木さんや中野さんまで押し掛けてきた!殆どゲーセンと化した平山家だったけど、琴木さんが何を思ったのか「おやつはわたしが出しますよー」とか言って春花堂のケーキを御馳走してくれた!!しかも琴木さんが琴木家専属の運転手!を使って宅配(?)させたんです!!!ついでに言えば琴木さんは父さんと母さんの分までケーキを用意した挙句「後輩の琴木紬でーす、よろしくお願いしまーす」とか言って挨拶するとは、一体、何を考えてるんですかあ!!!!
まあ、先輩と琴木さんが曜日、校内外を問わず派手に俺を引っ張りまわしてくれたから、俺が唯と一緒にいても、誰もデートだと見なくなったのは幸いだ。いや、本多や山羽にまで「たくまー、唯さんにまで顎で使われるようになってお前も大変だなー」と真顔で同情されたくらいだ・・・
とうとうゴールデンウィークに突入した!
浜砂市は5月3日から5日までは全国に名を知られている「浜砂まつり」があるから大勢の人でごった返す。2日の夜からは色々と騒ぎだす事になるからデートなんか無理だけど、1日、つまり明日なら全然問題ない!だから俺と唯は「折角だから、どこかへ行こう!」という事になって、明日は朝から出掛けることにした!!
でも、さすがに朝から二人並んで家を出ると藍に怪しまれる。だから時差をつけて家を出ることにしたのだが、その相談を藍だけでなく父さんや母さんに聞かれたくなかったから、家の中ではなく、学校の帰り道に唯はトーテツストアに寄り道をして、俺は殆ど生徒が残ってない校内をブラブラしながら電話していたのだ。
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