第4章 初めてのライブ
第36話 手詰まり?
週が変わり月曜日。部・同好会合同説明会から6日たった。
桜岡高校、というより徳川学園が運営する桜岡高校など4つの高校の校則では、部・同好会合同説明会が終わった直後から体験入部が認められていて、2週間はどの部、どの同好会でも自由に参加する事が出来る。もちろん、1年生だけでなく2年生・3年生の帰宅部の人も同じだ。
体験入部終了日である来週火曜日の放課後の時点で入部届を出した全学年の人数が10人以上は部、5人から9人は同好会となる。4人以下は①サークル②廃部③休部の三択のいずれにするか4月中に決めて顧問に伝える事になる。活動費が出るのは同好会以上であり、活動費は人数に比例するとはいえ基本単価は部と同好会では違うから、どの部・同好会も必至になっているのはその為だ。当たり前の事だが、例えば美術部と野球部とではお金を使う場所が全然違うから各々の部や同好会で必要な金額を別途生徒会経由で予算申請する事になる。
先輩が公開抽選会で最も悪名高い『13』を引いたのが理由かどうか分からないけど、先週は放課後の第二音楽室に来た女子どころか登下校時、昼休みの時にも藍や唯、先輩に声を掛けてきた女子は誰もいない、というより、男子も含めて誰もいない。
対照的にダンス部には説明会終了直後から女子が殺到しているらしい・・・ある意味、軽音楽同好会はダンス部の前座を務めたような感じになっているのが悔しい。藍も唯も口に出しては直接言わないけど、昨日も「
俺はこの高校に入学以来、弁当持参で登校した事はなく食堂通いの日々だ。まあ、教室や中庭で家から持参した弁当や購買のパンを食べる人もいる。家から持参した弁当を食堂で食べる事も許可されているけど、それは少数派だ。
入学当初の俺は小野寺・藍の同じクラス3人組で昼休みは同じテーブルを囲んでいたが、唯は藍が誘う形で1週間程してから加わった。ただし、校内で唯と一緒だったのは食堂の中だけだった。それくらい、俺は唯との間の
2年生になってもそれは変わらず、今日も俺たちは5人揃って食堂へ行ったけど、俺はお決まりのA定食で今日は『エビピラフと唐揚げのセット』、藍と唯は気まぐれだけど今日は二人ともB定食の『チキンカツサンドセット』、小野寺と茜さんは持参したお弁当だ。ただし、想像がつくと思うけど小野寺の弁当は茜さんが作った手作り弁当だ。
当然だが今年も同じようにテーブルを囲って食事をしている。席は空いている場所を適当に選んでるだけだが、全校生徒の3分の2以上が入れるだけの広さがあるから満席という事は殆ど記憶にない。
我が桜岡高校の食堂はどのテーブルも6人掛けになっているけど、俺たち5人の並び方は2年生になっても変わらなかった。小野寺と茜さんが向かい合う形でテーブルの端に座り、俺はいつも小野寺の左、つまり真ん中の席だ。俺の正面は唯で藍は唯の隣だ。つまり俺の左側、藍の正面はいつも席が空いているのだが、食堂が混雑していても誰も座ろうとしない。女王様親衛隊長の本多でさえも遠慮する程の席だが、本多に言わせると「藍さんの正面に座るなど恐れ多くて出来ない」らしく、これは藍派共通の考えのようだ。ただ、藍派以外の連中に言わせると、山羽の言葉を借りれば「藍さんの正面に座ったら親衛隊の連中に何をされるか分からないから恐ろしくて座れない」らしい。
藍の名誉の為に言っておくが、茜さんが俺たちと一緒に食べるようになるまでは小野寺と唯が向い合っていて藍の正面は俺だった。つまり、俺は食堂で唯一、藍の正面に座った生徒である。本多や山羽に言わせれば「『桜高の女王様』が自分の正面に座る事を許した唯一の人物」として俺は尊敬(?)されているらしいが・・・今日も俺の左側、藍の正面には誰もいない。
「・・・たくまー」
「ん?」
「軽音楽同好会の方はどうだー?」
小野寺は呑気そうに俺に尋ねてきたけど、小野寺は茜さん手作り弁当を摘まみながらだ。小さめのお握り3個はバスケットに入ってるけど、どうやら3個とも小野寺の好物のタラコのようだ。おかずは別の弁当箱に入ってるけど、茜さんには申し訳ないけど冷凍食品の詰め合わせなのがバレバレだ。でも、作ってくれる人がいるだけで贅沢なのだ。それは小野寺だけでなく男なら誰しも思う事であろう・・・
女王様の藍が俺の為にお弁当を作るなど最初から期待してなかったし、実際、付き合ってる事すら認めるような雰囲気ではなかったからなあ。唯は高校生シェフだけどお弁当を作る事は絶対にしてくれない。こちらも付き合っている事がトップシークレットなのだから当たり前か。
「・・・あの同好会に入りたいモノ好きがいると思うか?」
「だろうなー。殆ど絢瀬先輩のステージの盛り上げ役だったとしか思えない」
「分かってるなら言うなよー」
「わりーわりー」
はーーー・・・小野寺はサッカー部をやめた事で帰宅部だから呑気で羨ましいぞ、ったくー。因みに茜さんは『放送芸能同好会』というアナウンサーや声優を目指している人たちが集まる同好会に所属してるけど、部長である3年C組の白石夏美先輩や茜さんがチラッと言ってたが既に入部届を出した1年生を含めると10人になったから、このままなら『放送芸能部』に昇格出来るとしてウハウハらしい。サッカー部もカズ先輩人気で今年は過去最多の部員数になりそうな勢いらしいから、ホント、羨ましい。
「・・・唯、もう女子のみ募集などと拘っている場合じゃあないのか?」
俺は箸を持っている右手を止めて唯に話しかけたけど、唯は優雅にサンドイッチを食べていた手を一度止めた。
「ん?どうして?」
「だってさあ、他の部には体験入部どころか入部届を出した1年生も結構いるのに、軽音楽同好会には体験入部でさえゼロで誰一人として寄り付かないんだぜ」
「まあ、うちの同好会は校内随一のホノボノ集団として知られちゃってるから、せっかちで情熱的な
「分かってるなら改めろよー」
「じゃあ、たっくんに聞くけどー、今から改めたところで体験入部してくれる人が増えるの?」
「そ、それは・・・」
たしかに唯の言う通りだ。軽音楽同好会のホノボノぶりを知らない2年生、3年生は皆無に等しい。今日から真面目に練習に取り組んだところで評価が改まるとは思えないから1年生が集まるとも思えない。ただでさえ高校生の、それも素人の集団なのだからメジャーデビュー出来るほどの実力がないのは誰の目から見ても明らかなのだ。
ホントの意味で手詰まりなのかもしれない・・・
「・・・あのー、ここの席、空いてますか?」
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