第20話 仲が進展しなかった理由 その4
「あれ?また来客なの?」
唯が立ちあがろうとしたけど、それを俺が手で制して立ち上がってインターホンの釦を押したからモニターが写ったけど、そこには桜岡高校の制服を着た女子が立っていた。
俺はこの瞬間、ここに写っている女子が誰なのか気付いた。
「はーい」
『やっほー、
「鍵は開いてるから入っていいよ」
『りょーかいでーす』
そう言うと『ガチャリ』と音がして玄関が開き、「おっはよー!」の大声と共にズカズカと女子生徒が入ってくる音がした。その足音がリビングまで聞こえるようになった時に、足音の主は右手を軽く上げながらニコッとした。
「あにきー、おっはー」
「茜さーん、幼稚園の頃の流行語で挨拶は勘弁してくれー」
「まあまあ、細かいところを気にしてたらカノジョが出来ないわよー」
「へいへい、気をつけまーす」
「カノジョが出来たら、わたしに真っ先に紹介しなさいよー」
そう言うと茜さんは空いてる席、正しくは小野寺の隣の椅子の足元にカバンを置いた。
「あれー、藍さんも来てたんですかあ?」
「おーい、茜。『来てた』じゃあなくて『いる』が正解らしいぞー」
「はあ?智樹、どういう意味」
「唯さんに続いて藍さんも下宿を始めたらしいぞー」
「うっそー、それってマジなのー?」
そう言うと茜さんは俺と藍を交互にマジマジと見たけど、藍も唯もニコッとした後に「ホントだよー」と言ったし、小野寺自身もニヤニヤしながら俺を見ている。
茜さんは「あらあらー」と言いながらも俺の左側に立って俺の脇腹に自分の右肘をゴリゴリと押し付けながらニヤニヤしている。
「平山くーん、とうとう『両手に花』だねー」
「勘弁してくれよー。そんな事を言ったら俺は藍に殺されるぞ」
「そんな事ないよー。わたしだったら感動のあまり毎晩頑張っちゃいますよお」
「何を頑張ればいいんだ?」
「またまたー、平山君も惚けちゃってさあ」
はあああーーー・・・正直勘弁して欲しいぞ。唯はともかく、藍は俺にとって負担以外の何物でもないんだぞ。しかも茜さんは藍が俺の元カノだという事を知らないから好き勝手なことを言ってるけどさあ、藍が元カノだって事を知ってたら言えないセリフだぞ。それにニヤニヤしながら言うのは本当に勘弁して欲しいぞ、ったくー。でも、昨晩は頑張り過ぎたけど・・・
そう、俺と唯の仲が進展しなかった理由その4、この妙にハイテンションな女、
中学までは別の学校だったけど去年は俺や藍、小野寺と同じF組だ。
去年の1年生がいわゆる藍派、唯派の真っ二つに分かれて熱狂していた中で、藍派にも唯派にも属さない少数派の中でもさらに珍しい「中立派」とでも言おうか、とにかく妙にハイテンションで誰とでも接するから『憎めない奴』としてクラスどころか学年でも知らない人はいないとまで言われた一種のお調子者だ。しかも去年は俺のクラスである1年F組のクラス委員をやっていたほどである。
逆に言えばクラス委員をやった事で小野寺と付き合うようになったと言っても過言ではないのだが、その話をすると横道に
藍派でも唯派でもないという事は、学校でも藍にも唯にも持ち前のハイテンションで「おっはよー」などとズケズケ言うし、理由は分からないけど俺に妙に絡んでくるから、クラスでは藍の次に俺と話した女子でもある。それは茜さんと小野寺が堂々と交際宣言してからも変わらなかったから、去年はクラスでは藍、小野寺、茜さんに俺を加えた4人でつるんでいる事が多かった。藍が俺の元カノになってからも変わらなかったから俺としては正直ビクビクしてたけど、俺も藍もそれを顔に出すことはしなかったし小野寺や茜さんが気付いた様子は全くなかった。あー、そうそう、俺が唯と密かに付き合っているという事も気付いた様子はなかった。それは今朝の小野寺や茜さんのセリフでも明らかだ。
小野寺がサッカー部をやめたので休日は必ずと言っていいほど俺の家に入り浸ってたという事は、当たり前のように茜さんも押しかけてきて唯を含めた4人であーだこーだ言いながら過ごしてたのは事実だから、朝から日が暮れるまでハイテンションな連中に付きまとわれたら唯とイチャイチャするなんて出来る訳がなーい!
毎週のように二人で俺のうちに押しかけてきたのに春休みになった途端、パタリと来なくなった理由は容易に想像がつく!どう考えたって小野寺か茜さんの家でベッタリしていたとしか思えなーい!!俺はお前たちが羨ましいぞ!!!
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