第21話 プチリア充
「「「行ってきまーす」」」
俺たち5人は12時20分ころに家を出た。
当たり前だが小野寺も茜さんもドサクサに紛れてマスクメロンとアンデスメロンを食べてるし『真っ白い恋人』も食べてるし、ホントにお調子者は得するなあ。お昼だって、俺以外は関西風『赤色のきつねうどん』で俺だけコップヌードルだったけど、小野寺も茜さんも朝の残り物のおかずをちゃっかり食べてるし、こいつらは俺のうちを便利な食堂かゲームセンターとでも思ってるのかあ!?
まあ、それはいいとして今日の藍と唯は鞄に加えてギターケースを持っての登校だ。お互い個人持ちのギターだから春休み中は家に置いてあったけど、藍はともかく唯が春休み中にギターを取り出して演奏していたのを見てないぞ、ったくー。その話は今は関係ないから横に置いておくとして、藍と唯が並んで俺の前を歩き、小野寺と茜さんが俺の後ろを並んで歩いてるから俺はその間に挟まれる形で一人で歩いている。藍と唯は俺から言わせればクダラナイ世間話をしているようだが、小野寺と茜さんはぜーったいに手をつないでラブラブモードでいる筈だから俺は後ろを振り返りたくない!
そんな俺たちは赤電の踏切に差し掛かったけど、その直前に『カンカンカンカン』と警報器が鳴って遮断器が降りたから俺たちは踏切で足止めされた状態になった。電車は西神島行きだったから、この電車を使って通ってる連中が何人か駅で降りて学校へ向かってるのが目に入った。JR東海道線の浜砂駅で降りて赤電に乗り換えて通学している人もそれなりにいるし、逆に西神島方面からの電車に乗って通学している人もそれなりにいる。ここにいる茜さんは終点の西神島駅から乗ってるけど、西神島までは自転車を使ってるというのだから、同じ浜砂市内とはいえ学校からは相当遠いという事だ。
電車は程なく出発し遮断器も上がったから俺たちは踏切を渡ったけど、渡り終わったあたりで後ろから声がした。
「おーい、たくまー」
俺に呼び掛けたのは小野寺だ。正直に言えば後ろを振り返ればラブラブなところを見せつけられるから俺はしたくなかったのだが、さすがに失礼に当たるかと思って俺は後ろを振り向いた。
「ん?どうした」
「お前さあ、今年は何組になると思う?」
「あと5分もすれば結論が出るぞー」
「結構クールだな」
「ただ単に拘ってないだけだ」
「ふーん」
小野寺は「やれやれ」と言わんばかりの態度だけど、その時に気付いたが二人とも手をつないでラブラブモードでいるかと思ったら決してそうではなかった。肩を寄せ合って歩いている訳でもなかったし、どちらかといえば「友達以上恋人未満」の距離で歩いている。俺の方が意識過剰になっているのかと思って、さっきまでの態度を改める事にした。
「・・・そういえば小野寺も茜さんも春休みは全然俺のうちに来なかったけど、何かあったのか?」
俺は逆質問の形で二人に問い掛けたけど、二人は一瞬だけ顔を見合わせたかと思うと珍しく真面目な顔をして俺の方を見た。
「いやー、実はさあ、わたしも智樹も同じ塾の特別講習に行ってたのよねー」
「ほぼ毎日朝から晩まで缶詰めだ」
「はあ?茜さんならともかく、小野寺が塾に通うなんて信じられない!」
「悪かったな!でも、それは1年生までの話。さすがにうちの親が二人とも『サッカーをやってないなら進学校の学生らしくしろ!』とかガミガミ言うから、俺も塾に行く事にしたんだよ。しかも『特別講習にも行ってこい』などと言い出したから仕方なく毎日塾通いでロクな目に合わなかったぞ」
「わたしもよー。うちも特にお母さんが『あかねー!あんたの成績だとロクな大学に入れないわよ!』とか耳にタコが出来るんじゃあないかと思うくらいにヒステリックになってるからさあ、仕方なく春休みから塾に行く事にしたんだけど、お母さんがウルサイから特別講習に加えて通常の授業にも行ったから毎日缶詰よ。お陰で超がつくほどツマラナイ春休みだったわ」
「だよなー」
「「はーーー・・・」」
おいおい、始業式が始まる前から二人ともため息かよ!?俺はてっきり毎日二人でラブラブモードかと思ってたけど、それはお気の毒に。
あれ?・・・
そういえば・・・同じ塾に行ってたと言ってたなあ・・・特別講習・・・朝から晩まで缶詰め・・・まさかとは思うけど・・・
「あのー、1つ聞いてもいいか?」
俺は恐る恐る小野寺の方を向いて質問したけど、小野寺は「ん?」と素っ気なかった。
「まさかとは思うけど、お前ら、同じ塾の同じ特別講習に行ってたという事だよなあ」
「おー、よくぞ聞いてくれた。オレは嬉しいぞ!」
そう言ったかと思うと小野寺は右手で俺の肩をバシバシと叩いてきたから、内心では「何だかんだ言って朝から晩まで机を並べて特別講習やってラブラブだった奴にツマラナイなどと言われたくなーい!」と怒鳴ったけど、さすがにリアルで言ったら失礼かと思って自重したけどね。
「・・・ところで、平山君はお兄さんやお姉さんのように法学部へ進んで弁護士を目指すの?」
「ん?俺はそのつもりだけど」
「はーー・・・どこぞの誰かに爪の垢を煎じて飲ませてあげたいわね」
「あのー、それってオレに拓真の爪の垢を煎じて飲めって事かあ?」
「あんた以外に誰がいるっているのよ!このアホタレ!!」
「酷い言われようだなー。こう見えてもオレは春休みから生まれ変わった、ニュー小野寺智樹だ。以前までの『北京原人』などと揶揄された小野寺智樹ではなーい」
「「ただ単にスマホも持ってない時代遅れの高校生だっただけだ!」」
「うっ・・・頼むから二人でハモらないでくれー」
「はーーー・・・こいつにつける薬があったら、このわたしが真っ先に知りたいくらいよ!」
「まったくだ。俺はお前が机の前で一心不乱に勉強するのを想像できないからなー」
「はーー・・・オレってそういうキャラなのかなあ」
やれやれ、小野寺の奴、本当に
えっ?俺もリア充の仲間?よしてくれえ、俺と唯はこいつらほどラブラブじゃあねえぞ!俺の場合は『プチリア充』程度だ。
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