第2章 平山拓真を取り巻く愉快な(迷惑な)面々

第16話 仲が進展しなかった理由 その1

「たっくーん、遅いわよー」

「そうそう!高校生なら目覚まし時計が鳴る前に起きてきなさい!」

「わりー、わりー」

 そう言いながら俺はリビングにやってきたけど、藍も唯も既にテーブルの前に座っている。でも、今朝は俺を除いて5人も座っているのだ。

 つまり、俺を含めたら6人になる。

 えっ?人数が合わない?

 たしかにそうだ。タイのバンコクに行ってる父さんを含めても普段の我が家には5人しか住んでないのに、2人多いのはおかしいと思うのが普通だし、それが自然な考え方だ・・・


 そう、俺と唯が同じ屋根の下に住んでいて同じ学校に通っていたにも関わらず5か月もの間、ほとんど仲が進展しなかった理由その1・・・それが俺の席の向かいに座っている人物とキッチンに立っている人物だ。


「たくまー、玉子は新鮮なうちに生で食べるのが一番美味しいにー」

 そう言って自分も玉子を割ってお茶碗に入れた後、醤油を掛けながら混ぜている人物の名前は平山慎之介しんのすけ。年齢は70代とだけいっておこう。名前で分かると思うけど俺の父さん、平山紘一こういちの実父にして平山弁護士事務所の社長だ。

「たくまー、ごはんは大盛りでいいだら?それともいつも通りするけ?」

 そう言いながら俺のお茶碗を左手に持ち、シャモジを右手に持ってキッチンに立っている人物の名前は平山洋子ようこ。こちらも年齢は70代とだけ言っておこう。名前で分かると思うけど父さんの母さんにして平山弁護士事務所の社長夫人だ。当然ではあるが弁護士だけど爺ちゃん同様、既に弁護士業は引退している。

「爺ちゃん、また玉子を貰ったのか?」

 そう言いながら席に座った俺は婆ちゃんに「いつも通り」と言ってから俺も爺ちゃん同様、玉子を割った。

「そうだに。山田さんが昨日の夜に持って来たにー。昨日の玉子だからスーパーで買う物より新鮮でオーガニックだにー」

「はいはい、山田の爺さんにはいつも感謝しております」

 そう言ってる最中に婆ちゃんが俺のところに「はーい、ご飯と豆腐の味噌汁だにー」とか言いながら持ってきてくれたから、俺は早速ご飯に玉子をぶっかけた。俗にいうたまごかけごはんの出来上がりだ。

 爺ちゃんは弁護士事務所の社長であるけど、同時に桜岡町内会の副会長でもあるから顔が広い。山田さんも同じ町内会の人だけど、こーんな感じであちこちから野菜や果物、土産物を受け取るから、それを持って朝から押しかける事も全然珍しくない。夜中や早朝に浜名湾に釣りにいって、その成果を自慢しながら天婦羅や刺身を朝から自分でやる事も全然珍しくなく、ある意味『元気があり過ぎて迷惑この上ないジジイ』の典型だ。

 婆ちゃんは婆ちゃんで庭の大半を畑に変えてネギや大根、白ネギ、玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモなどを所せましと栽培しているし、平山弁護士事務所に所属している若い人たちの面倒見もいいし、『スーパーばあさん』とでも呼んだ方がいいくらいの人物だ。

 しかも俺の家の隣に住んでるし、何だかんだ理由をつけて朝から俺の家に押しかけてきてご飯を一緒に食べるのも全然珍しくないのだ。もちろん、昼飯や夕飯の時も全然珍しくない。アポなしで来る事も全然珍しくないからことなんか出来る訳なーい!

 藍と唯はというと俺の横でテレビを見ながらTKGの朝ごはんを食べてるけど、二人とも既に着替えている。まあ、着替えているとはいえ今日の登校は午後からだからラフな服装で、昨夜のようなトレーナーやパジャマではない(ちょっと残念?)。

「・・・たっくーん、醤油の使い過ぎのような気がするけど」

「TKGにすると薄味になっちゃうからさあ、これでも抑えてるつもりだぞ」

「塩分の取り過ぎは良くないよー」

「はいはい、気をつけます」

「普段から薄味を心がけておかないと駄目だよー」

「りょーかい」

「たっくんは口だけだからねー」

 唯のTKGは俺から見れば『真っ黄色のご飯』だ。俺から言わせれば超薄味のTKG以外の何物でもないと思うのだが、個人の嗜好をあーだこーだ言っても始まらないと思うのは俺だけか?

 藍はというと唯と同じく「真っ黄色のご飯」だけど、昨日と同じく味付け海苔をボチャッと醤油につけてからTKGに巻いてるから、俺以上の醤油味になってる筈なんだけど、本人が『しあわせー』と言わんばかりの顔で食べてるのだから「藍の方が俺以上に使い過ぎだぞ」と逆にツッコミたくなる。けど、俺がその一言を言ったら最後、藍の奴は「はーい、気をつけまーす」とか言いつつ、あとで女王様モード全開で「拓真君!さっきの一言は何だったの!!」とか言ってくるのがオチだから黙っておきます、ハイ。


「ごちそうさまー」

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