第15話 い、いや、触っただけです
結局、その後は電話が掛かってくることなく20分以上経過したあとに脱衣室のドアがガラガラーと開いた。
「ふーー、拓真くーん、お待たせー」
藍が扉が開くと同時に声を掛けてきたから俺は声のした方を振り向いたけど、藍はパジャマ姿で出てきたから正直俺は「ドキッ」とさせられたぞ!
あ、あのー、あいさーん、気付いてるんですかあ?男子高校生にとって、まさに今のお前は目の毒だぞお、直視するのは結構辛いぞお。そ、そのー・・・透けているんですけど・・・頼むからセーターは手に持たず羽織って欲しいんですけど、湯上りで着るのは暑いのでしょうか?
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか藍は俺の隣の席に腰かけたから、俺のところにも唯とは別の香りのシャンプーの香りが漂ってきた。という事は藍もシャンプーしてドライヤーも済ませてきたという事だな。
俺の顔はお風呂に入ってないにも関わらず真っ赤になってたかもしれないけど、それに気付かれたら藍だけでなく唯からもケチョンケチョンに言われそうだから焦りまくりぞ!
「じゃ、じゃあ、俺も入るよ」
「そうしてねー。あー、そうそう、お湯は抜いてないわよ」
「はあ!?」
「拓真くーん、嘘に決まってるわよ」
「心臓に良くないぞお」
「あれー?その口調だと抜かない方が良かったのかなあ」
「あのなあ」
「冗談よ。早く入ってきなさい」
「分かってるよ」
俺は立ち上がると自分の部屋へ行ってジャージを持って再びリビングに戻ってきたけど、その時には藍はテレビそっちのけで唯との会話に夢中になっていた。メロンの話をしているという事は、唯が藍に「明日、マスクメロンとアンデスメロンが届くんだよ」とか言って、藍がそれに興奮してメロンの話に夢中になっているんだろうなあ。
そんな事を思いつつ俺はリビングを通過して、開けっ放しの廊下との扉も通って左側にある脱衣室の扉を何気なく開けた。
が、その次の瞬間、俺は思わず固まってしまった!
ドラム式の洗濯機の前に1つの籠が置いてあったのだが、そこには乱雑に置かれた藍の服が詰め込まれていて、その一番上には・・・水色の・・・あ、あれはー、そ、そのー・・・ブラジャーがあるじゃあないですかあ!
お、落ち着け・・・い、いや、これは最大のチャンスだ。藍のサイズが分かる絶好のチャンスだ・・・そ、そう、これは藍が悪い!唯は「洗濯機を回しておいてね」と言ってたのに、それをやらなかった藍が悪い!だから、俺が洗濯を代わりにするのだから全然悪くない!
俺は後ろ手で扉を静かにしめて・・・よし、これで大丈夫・・・
たしか、ブラジャーは小さい専用のネットに入れてから洗濯するはず・・・あ、あった、これだ・・・だ、だから、このネットに、藍の・・・藍のブラジャーを入れて・・・つ、ついでにこのブラジャーのサイズを・・・
『バターーン!』
俺の後ろで脱衣室の扉が勢いよく開いたから、俺は思わず後ろを振り向いてしまった。そこには肩で息をして鬼のような形相をした藍が立っていた!
しかも、俺の右手には藍のブラジャーが・・・最悪のシチュエーションだあ!
藍はスタスタと俺に歩み寄るとムスッとしたまま右手で俺のブラジャーをつかみ取ると顔を真っ赤にしたままネットに入れて、さっきまで自分が着ていた服をドラム式洗濯機に勢いよく投げ入れると乱暴にスイッチを押した。
そのまま藍は鬼のような、い、いや、完全に『女王様モード』全開で俺の前に突っ立った!
「・・・見たわね」
「・・・い、いや、触っただけです」
「見たわね!」
「・・・はい」
藍は「はーーー・・・」と深くため息をつくと肩の力を抜いて顔を下に向けた。顔をもう1回上げた時の藍は『女王様モード』ではなくなっていた。
「忘れなさい!と言いたいけど、私が洗濯機を回さなかったのが原因ですから、今日のところはこれで終わりにするけど、次は許さないからね!」
「・・・はい」
「以上!」
それだけ言うと藍は脱衣室を出て行ったが、出た直後に一度だけ振り返り「さっさとシャワーして出てきなさい!」と怒鳴ったから、俺も「そうします」としか言えなかった。
結局、俺は普段以上の『
俺と藍と唯はクイズ番組を最後まで見てたけど、番組が終わった時点で誰が言いだすまでもなく席を立った。
「じゃあ、おやすみー」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ほぼ同時に俺たちは言い合うと、そのまま自分の部屋へ入った。
はーー・・・今日は朝から夜まで散々な目にあったけど、ある意味、これから起こりそうな不幸(?)を1日で凝縮したような日だった。これを教訓にして失敗しないようにすればいいかな。
そう思った俺は部屋の明かりを豆球にするとベッドに横になった・・・なんだかんだで張りつめていた物が一瞬で切れて、俺はあっという間に夢の世界に入り込んだ・・・
俺は寝ている筈・・・夢の中の筈・・・だが、どうも息が苦しい。何か押さえつけられているようにも思える。しかも、ますます息苦しくなってきた・・・あきらかに夢ではない!俺は目を開けた!!
だが・・・そこには誰もいなかった。ただ、俺の顔の上、正確には鼻と口の上に何かが乗っている事に気付いた。それを手に取った俺は、豆球の明かりの下、その物が何なのかに気付いた!
ブラジャーだ・・・しかも、あきらかに使用済で微かに汗の匂いがする。
慌てて俺は飛び起きて部屋の明かりをつけた。そして、そのブラジャーを手に取って、それが誰の物か気付いた!
藍だ・・・藍が俺の部屋にこっそり忍び込んで、俺の顔にブラジャーを被せ、多分、それだけした後に部屋を出て行ったんだ・・・
その証拠に、この家でブラジャーを使っているのは母さんと藍、それと唯だが、お世辞にも母さんの胸は大きくない。下手をすると唯より小さいかもしれない。それに、唯は俺の推定でBカップ。だが・・・このブラジャーのサイズは『F65』になっている!しかも色はピンク!!つまり、洗濯機に投げ入れたブラジャーではなく藍のパジャマから透けて見えていた物だ!!!
それにしても・・・あいつ、Fカップだったんだ。俺は推定E、本当はDだと思っていたから、まさかFカップだったとは・・・着痩せするタイプだったんだ。まてよ、という事はAで75だから、78、80、83、85、88だ!マジかよ!?
でも、何で藍は俺にブラジャーを置いて行ったんだ?
おい、まさかと思うが、これをオカズにしろという意味か?それとも、俺に対する嫌がらせかあ!?どっちにしろ、俺はもう寝れないぞ!!!
結局、俺はその後、まともに寝る事が出来ず、外が明るくなり始めるまで寝付けなかったから母さんが俺の部屋の扉を『ドンドン!』と叩いて無理矢理俺を起こしにくるまで目覚まし時計が鳴っていた事すら気付いてなかった。
当たり前の事だが、完全にブチ切れモードの母さんからは「いい加減にしなさい!」と怒鳴られた・・・。
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