旧約 俺の元カノが義姉に、今カノが義妹になって、家も学校も・・・
黒猫ポチ
プロローグ
第1話 天国から地獄へ
そいつが俺とテーブルを挟んだ目の前に座った時、俺は緊張のあまりマジでひっくり返りそうになった。
「き、今日からここで暮らす事になった・・・ので、よろしくお願いします」
「あ、ああ。こちらこそ・・・」
それっきり俺、
そいつは俺の
幼稚園は同じだったけど、小学校、中学校は別の学校だった。高校は同じ私立
ただし、こいつの家庭は色々と複雑な問題があって・・・
「
「そうだぞー、そう身構えられるとこっちが逆に緊張しちゃうからなあ」
「おじさん、おばさん・・・じゃあなかったですね、お義父さん、お義母さん、今日からよろしくお願いします」
「あらー、いつもの藍ちゃんらしくないわねー」
「そうだぞ、いつものようにハキハキしていてもいいんだぞー」
あーあ、あいつも緊張してるのかあ?
い、いや、あいつの事だから完全に猫かぶってるとしか思えないぞ。こいつの本当の性格を知ったら・・・い、いや、やめておこう。それを指摘すると、この場で本性を現すかもしれないからなあ。
とにかく、藍は、平山藍は我が家に俺の姉としてやって来た。
俺の隣にいた義妹は呑気に「やっほー」とか言ってるけど、お前、本当に呑気だなー。
いや、これくらいに呑気でないとやっていけないのかもしれないけど・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どこから話せばいいのだろうか・・・
普通に考えれば、中学の卒業式の翌日の出来事から話すのが分かりやすいと思うのだが・・・
その日の夕食前、父さんは俺に話し掛けた。
「拓真、ちょっといいか?」
「ん?何かあったのか?」
「『ゲーセン部屋』の荷物を今週中に全部片付けてくれ」
「はあ?」
ゲーセン部屋とは、我が家の2階にある空き部屋2つのうちの1つの部屋の通称だ。
その部屋にある物といえば、40インチのテレビと4DSやWoo、PPPなどのゲーム機、人生いろいろゲームなどのボードゲーム、麻雀牌・・・とにかく、娯楽の類が部屋の半分近くを占めている。残る半分は俺の個人的所有物だけど、学校の友達とかが俺の家に来て、この部屋で遊んでるから通称『ゲーセン部屋』と呼ばれているのだ。
もっとも、常連と言えるのは男女1人ずつ。一人はサッカー馬鹿とでもいうべき男、もう一人が・・・俺の母方の
「あー、ゴメンゴメン、言い方が悪かった。別に取り上げるとか言い出すのではない」
「どういう事だ?」
「
「はあ?」
「典弘おじさんがタイのバンコクにある子会社の社長として出向する事が決まったんだ」
「マジかよ!?栄転じゃあないか」
「まあな。それで、悦子おばさんも一緒に行く事にするようだが、唯ちゃんはこっちの高校に進学する事になってるから、母さんと悦子おばさんが相談して我が家に下宿する事になった」
「じゃあ何か、可愛い一人娘を一人だけ日本に残して海外へ行くのは心配だから、俺の家に下宿させろって事かよ!?」
「まあ、簡単に言えばそういう事だ。別に父さんは反対する理由は無いから、母さんの判断に任せた」
「・・・だいたいの理由は分かった」
「じゃあ、決まりだな」
「でもさあ、父さんたちの書斎部屋じゃあ駄目なのか?」
「あの部屋の荷物をどこに移すつもりだ?」
「うっ・・・たしかに、あれだけの荷物を置く場所となると・・・まさか爺ちゃんの家に移せとも言えないし・・・」
「そういう事だ」
母方の再従妹・・・それは唯の事だ。
唯は幼稚園、小学校、中学校と12年間同じ学校だ。ただ、同じクラスになったのは幼稚園の3年間だけで、それ以降の9年間は同じクラスになった事がない。それでも俺に家に頻繁に押しかけてきてたのは事実だから、良く言えば広義の意味での
翌日、俺の私物やゲーム機は自分の部屋の棚やウォーキングクローゼットに移し、麻雀牌やボードゲームの類は1階の客間の押し入れに移し、テレビと元々置いてあった机以外の物は全てゲーセン部屋から撤去した。
唯が俺の家に来たのは入学式の2日前の事だ。
唯が自宅から持ち込んだ荷物はベッドと大型のスーツケース2つ、それと段ボール箱が3つだけだ。まあ、今まで住んでいたマンションを売り払う訳でもないから、あくまで高校生活に必要な物だけを持ち込んだに過ぎない。
だが・・・俺には1つの心配事があった。それは・・・俺と唯は同じ高校に進学する事だ。
入学式の日にクラス分けを見たら、俺と唯は別のクラスだった。
あのサッカー馬鹿はスポーツ特待生として俺と同じ高校に進学したけど、俺の家の事情も知ってたし、俺と唯が
それでも俺は最初は
ただ、唯がアッサリと『
実はもう一人のはとこ、いや、漢字で書けば
しかも、そいつは新入生代表挨拶をした程の子だ。つまり主席入学者にして同じクラスだった。
だからクラスの中で一番最初に声を掛けた人物でもあったのだが、当然だが他の連中は「同じ中学なのか?」「知り合いなのか?」などと聞いてきたが、そいつがアッサリと「
父方の再従姉・・・それが藍だ。
俺は
そのまま1年間が過ぎ、2年生になる前の春休みになった・・・。
だが、俺はこの1年間で父さんと母さんに言えない事実が2つあった。それは・・・
春休みが始まった初日、いや、正しくは初日の夕食前、父さんは席に座った途端に俺に話し掛けてきた。
「たくまー、ちょっといいかあ?」
「ん?何かあったのか?」
「ちょっと大事な話がある」
「大事な話?」
「そう、大事な話」
「別にいいけど、大事な話とは何だ?」
「実は・・・」
「父さん、いつもの父さんらしくないぞ、ハッキリ言えよ」
「じゃあ言うけど・・・聞いて腰を抜かすなよ」
「聞いてもないのに腰を抜かすもクソもないだろ?ハッキリ言ってくれ!」
「・・・唯ちゃんを我が家の養女として引き取る事になった」
「はあ?」
俺はこの瞬間、思わず手に持っていた飲みかけのコーヒーをテーブルに溢してしまったが、そんな事を気にしている余裕は全然なかった・・・
唯はテーブルの上に零れたコーヒーをタオルで拭きながらニコッと微笑んだ。
「まあ、そういう訳だからよろしくね、たっくん。いや、お兄ちゃんだね」
「お前さあ、結構呑気だなあ」
「だってさあ、唯があーだこーだ言ったところで事態が変わる訳じゃあないよ」
「・・・・・」
こうして唯は新たな立場を手に入れた。
唯は
俺はこの瞬間、この世の天国の到来を確信した。
でも、この世の天国は長く続かなかった。
翌日の朝、あの一報がひいお爺ちゃんから届いて・・・それから父さんだけでなく母さんまで振り回されて・・・3日前の夕方、正確には夕食前に、再び父さんは俺の前で、いや、俺と唯の前で爆弾発言をした。
「おーい、たくまー」
「ん?父さん、何かあったのかあ?」
「ああ、ちょっといいかあ・・・」
「別に俺は構わないけど・・・」
俺はそう言って自分の席に座ったけど、遅れてきた唯にも父さんは声を掛けた。
「唯ちゃんもいいかあ?」
「あー、はい、別にいいですよー」
唯もそう言って俺の右の席に座った。父さんは俺の正面のいつもの席に座った。
「・・・あいちゃんの事だが・・・」
そう言って話し出した父さんだが、歯切れは非常に悪い。
「あいちゃん?藍の事か?」
「そうだ、その藍ちゃんなんだが・・・」
「父さん、藍がどうかしたのか?」
「いや、そのー・・・」
「父さん、いつになく歯切れが悪いぞ。ハッキリ言ってくれ!」
「・・・それじゃあ、単刀直入に言うけど、腰を抜かすなよ」
「話の内容を聞かされてないのに、腰を抜かすも何もないだろ?言ってくれ!」
「・・・藍ちゃんをうちの養女として引き取る事になった」
「「はあ?」」
俺は再び飲みかけのコーヒーをテーブルの上に溢したのは言うまでもない。それは唯も一緒だった。
どうして
さすがに今度は書斎部屋を空ける事になった。この件で最終的にGOサインを出したのは爺ちゃんだから、爺ちゃんが自分から「書斎部屋の荷物は全部こっちに移せ」と父さんに言ってきたからだ。ただ、書斎部屋の荷物の移動は俺と唯、それと俺の兄貴の三人で2日かけてやった。というか、爺ちゃんからバイト代という名目で小遣いを受け取った以上、引き受けざるを得なくなったのも事実だけど。
正直、荷物を移すたびに憂鬱になっていく自分に気付かない筈がなかった。
だが、俺の葛藤を無視するかのように時間だけは無情にも流れ・・・つい先ほど父さんが運転する車に乗って、藍は、
しかもスーツケースと段ボールに入ってたのは殆どが学校で使う物で、ベッドや机などの家具類、それと服は下着に至るまで全てクレジットカードで新しい物を買って今日の午前中に宅配便で届いたけど、その理由を俺は痛いほど分かっていた。
あいつは、藍は悲壮感漂う顔で俺の家に来た・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は10日前、有頂天になっていた。まさにこの世の天国の到来だった。
だが、それは10日後の今日、アッサリと終わりを告げ、今まさに地獄へ突き落された。
なぜなら・・・
藍は・・・
俺の元カノが義理の姉として、俺の今カノにして義理の妹と同居するって・・・楽園?ハーレム?冗談じゃあない!こんなの地獄以外の何でもないだろ!!
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