第81話

「な、なにこれ? さっきのグリフォン?!」


 サラが大きな声を上げる。

 周りのメンバー達も下げていた武器を構える。


「違うの。これ、風の精霊よ。信じられない。私も受肉した精霊を眷属に出来ちゃった……」


 ソフィがつぶやく。

 その声を聞いてみな安堵し、肩の力を抜く。


 するとグリフォンの姿をした風の精霊は、ソフィの頭の上に乗った。

 まるでそこが定位置と主張するかのように、四肢を伸ばし、顔を上げ、羽を広げた状態で機嫌良さそうにしている。


「重くないの? それ?」

「受肉はしてても精霊だからね。ほとんど重さは感じないわ。それを言ったらずっとカインさんの肩に乗ってるマチだってそうでしょ?」


 話を振られ、マチは不思議そうに首を傾げる。

 ソフィが得意の精霊との会話を通じて、頭上の産まれたばかりの精霊と意思の疎通を図る。


「この子、性別があるみたい。メスなんだって。名前も決まってるみたいよ。フーちゃんだって」


 嬉しそうにそう言うソフィの前に、気が付くと先程まで地にうずくまって、死を待つだけだったオスのグリフォンが、ひざまずき、頭を垂れた状態でじっとしていた。

 すると風の精霊がソフィに何かを伝えたようだ。


「え?! なんかこのグリフォン、フーちゃんに忠誠を誓うから、連れて行って欲しいって言ってるんだけど……どうしよ?」

「どういう事? ソフィ?」


「ちょっと待ってね……つまり、さっき私達が倒したメスのグリフォンって、この辺りでは最後の生き残りだったみたいのよ。でもグリフォンが次世代を残すにはメスが必要で……」


 ソフィが風の精霊を通して得た知識では、この瀕死のオスは、種族存続のために、メスのグリフォンとして受肉したフーと添い遂げたい、そのために主人であるソフィに服従するということだった。

 なぜ、フーがメスのグリフォンの姿で受肉したかについては、憶測でしかないが、精霊の卵と化したオリハルコンの欠片に、最も近くで最も長く居た生物の情報が伝わったのためだと考えられる。


 そうであるならば、風の精霊が自称した名前も、元々はあのメスのグリフォンの名前だったのかもしれない。

 ソフィはオスのグリフォンの提案どうすればいいのか困ってしまい、クランマスターであるルークと、師匠であるララ、戦友のサラ、そして最も信頼しているカインの顔を交互に見つめた。


「服従するって言うんなら、いいんじゃないのか? グリフォンが人に懐くなど聞いたことがないが、まぁ暴れたらその時対処すればいい」


 ルークがそう言うと、カインも頷く。


「ああ。カリラ婆さんの話によると昔は魔物を使役する才能を持った人々も居たらしい。テイマーって呼んでたね。まぁ、その人達と今回は違うが、問題は無いだろう」

「それじゃあ、怪我の治療が必要ね。人間用の薬がグリフォンに効くのかしら?」


 そう言いながら、ミューは未だに頭を上げずにその場に佇むグリフォンの身体中にある傷口に止血剤を振りかけていった。

 どうやら、上手く薬が効いたようで、流れていた血は止まり、後はグリフォンの生命力の問題になるが、峠は越えれそうだ。


「これで、今度こそ一件落着か? そういえば、あのヒゲがいたって事は、あのじゃじゃ馬が一緒なはずだがどうしたんだ? まさかこの場に連れてきたなどという事は無いだろ」


 ルークが思い出したように、ジュダールと同行しているはずの、ルティの所在を気にした。

 メンバーの一人が気を利かせて、ずっと物陰でブツブツと呟いていたジュダールの顔を上げさせ、ルティの居場所を聞き出した。


 ジュダールの話によると、ルティはこの戦闘には当然参加せず、一人ドワーフの街へと向かっているとの事だった。

 どうやら、ここまでの道程と、ルティが通った道が異なり、行き違いになってしまったようだ。


 ひとまず、怪我の治療が最優先であるから、無謀な戦いを挑んだ冒険者達の唯一の生き残りであるジュダールも連れて行って、一行はドワーフの街へと戻ることにした。

 街に戻ると、治療が必要な者を治療所へ送った後、カイン達は長ドムドムとニィニィが待つ、長の家へと向かった。


 今回の報告と、長の家で待つルティに会うためだった。

 街に戻ると、門番から、一匹の犬を連れた女性を乗せた馬車が現れ、サラの名前を出したため、ひとまず長の家で待機してもらっていると聞いたのだ。


 家に入ると、ドムドムとニィニィが既に報告を聞いたことにより、満面の笑みを浮かべ、カイン達を迎えた。

 念の為カインは今回の顛末を詳細に伝えると、役目を終えた花飾り達をニィニィに返した。


 カインが花飾りを集める際、クランのメンバー達は名残惜しそうな顔をそれぞれに見せていた。

 しかし、初めからの取り決めだったため、誰も背くことなく、素直にカインに付与魔法がかけられたオリハルコン製の花飾りを返していった。


 ニィニィはカインに必要ならお渡ししますと伝えたが、カインは固辞し、ニィニィの手の上にそれらを乗せた。

 ニィニィは頷きながらそれを懐にしまうと、治療を受けている夫のボルボルのことが心配だと、その場を離れた。


 次にカイン達は、ルティが待っているという、一室へ足を運んだ。

 扉を開けると、中には、椅子に座りながらしきりにライヤンの背中を撫でている、ルティの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る