第77話

 残り一体のオスのグリフォンは鳴き声を発し、嘴を大きく開くと、その嘴の間に渦巻く風で作られた玉が作られた。

 その風の玉は、恐るべき速度でメスのグリフォン目掛けて飛んでいく。


 メスのグリフォンはその威力を知っているのか、受け止めることはせず、素早く避けると、お返しとばかりに先程放った無数の漆黒の風の刃を放つ。

 風の玉はそのまま岩山を同じ大きさにくり抜き、その後その岩山を爆散させた。


 一方、メスのグリフォンが放った風の刃は、オスのグリフォンが形成した風の壁に阻まれ、互いに消滅した。

 その瞬間、轟音が鳴り響き、閃光と共にメスのグリフォンの身体を一条の雷が通り抜けた。


 ララがソフィと合同で放った雷魔法だった。

 閃光が落ち着くと、そこには傷一つないメスのグリフォンがこちらに向きを変え佇んでいた。


「だめだ。雷が当たる瞬間、頭上に何かを展開したらしい。雷が不自然に二つに別れたのが視えた!」


 どうやらララとソフィ渾身の一撃は、当たることなく防がれてしまったらしい。

 カインが叫んだ次の瞬間、ルークが連れてきたクランのメンバー達は、みな耳を両手で塞ぎながら、うずくまってしまった。


「なんだ?! どうしたお前ら?!」

「くっ! ルークさんにはこの音が聞こえないんですか?! この音が聞こえた瞬間身体が勝手に!」


 それはメスのグリフォンが放つ怪奇音で、ある程度の実力を持たない者を、強制的に跪かせる効果があった。

 耳を塞いでも、それは脳に直接働きかけ、抗う術がなかった。


「くそっ! なんだってんだ! ミュー! こいつらをどこか安全な場所に運べ! こいつらを守りながらなど戦えん!」

「分かったわ!」


 カインの付与魔法の効果で、腕力が増大しているミューは、七人をそれぞれ軽々と持ち上げると、先程ジュダールを隠れさせた位置に次々と投げ飛ばした。

 カインが怪我をしないように、着地地点の硬度を下げる付与魔法を地面にかけていたため、メンバーは無事に戦いの場から退くことが出来た。


「仲違いしている隙をついてみたけど、あの黒いの強いよ!」

「んなこたぁ分かってんだよ! あっちのでかいのと共闘って訳にはいかねぇだろうが、とにかくなんとかするぞ!」


 自分の声に服従しない生き物が居るのが許せんかったのか、オスのグリフォンなど忘れたかのように、メスのグリフォンはこちらに向かって、風の刃を放ってきた。

 カインにはその魔法はほとんどの視認出来ないが、サラの声で発動を知ったカインは、一瞬遅れてだが、前方に空気の壁を形成する。


 しかし、幾分か威力は落としたものの、カインの作った壁は破壊され、凶刃はカイン達を襲った。

 すかさずボルボルが斧を前に出し、カイン達の前に立つ。


 ボルボルの持つアダマンタイト製の斧の効果で、風の刃は無力化される。

 しかし、全てを防ぐことは叶わずに、ボルボルはその身に刃を受ける。


 ボルボルの四肢から真っ赤な血飛沫が上がり、ボルボルは長い斧の塚を杖替わりに、なんとか倒れるのを拒んだ。

 ミューが慌てて、止血薬を傷口にふりかけるが、この身体では前線で戦うことは難しいだろう。


「ボルボルさん、すいません! 私がしっかりと防げればこんなことには!」

「うるせぇ! こんな傷大したことはねぇ。それよりもあいつを倒す方法を考えやがれ! 今のままじゃジリ貧だぞ!」


 確かにボルボルの言う通りだった。

 空にその身体を浮かばせるグリフォンには、可能な攻撃はララとソフィの魔法だけだった。


 しかし、理由は不明だが、グリフォン達が仲違いをしている隙をついて唱えた魔法も、メスのグリフォンにはいとも容易く防がれてしまった。

 加えて、カインにはなんとかグリフォンの輪郭は視認できるものの、そのグリフォンが放つ魔法までは即座に視ることが出来ないでいる。


 そのため、どうしても対応が遅れてしまい、対処が疎かになってしまう。

 先程の壁ももっと早く感知できていたならば、より強固に作り上げることが可能で、そうであったならば、ボルボルが負傷することなど無かったに違いない。


 カインはなんとか、今ほとんどの集中力をメスのグリフォンを視認するために割いている事実と、彼女が放つ魔法を視るれないことを打開できる方法を探そうと、必死で頭を回転させた。

 何か、視るための補助をしてくれる何かを必死で探し、ある考えに至った。


「ソフィちゃん! 聞いてくれ!」


 カインはソフィにある頼みを伝えた。

 それを聞いたソフィは大きく頷き、カインの要望を叶えるために、必要な呪文を唱え始めた。


 それは今まで使ったことの無い初めての魔法だった。

 恐らく、カイン以外にはなんの役にも立たない魔法だろう。


 ソフィは自身の横に佇む水の精霊、その精霊が教えてくれる通りに呪文を唱える。

 これがソフィの誰にも真似出来ない強みだった。


 従属している精霊から、望む形の魔法を、自分の魔力が許す限り、教えて貰い唱えることが出来る。

 誰も実現したことの無い魔法を今完成させ、ソフィは魔法を唱えた。


「ありがとう。ソフィちゃん。これで視ることが出来る」

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