第66話

 ユートピアのマスター室でルークは一つの手紙を手に持ち、嬉しそうな顔をしていた。

 そこへララとミューが入ってくる。ルークが呼んだのだ。


「なーに? ルークちゃん、急用だなんて」

「うわぁ。マスターきもちわる。なにニヤニヤしてんの」


 ルークは一度、煙を吐き出すと、止まらぬ笑みを浮かべながらこう言った。


「カインからの収集だ。至急動ける奴を全員集めろ。ああ。使えん奴はいい。かなり危険な相手らしいからな」

「なになに?! カンちゃんからの収集って! 面白いことが始まる感じ?!」


「ああ。なんでもあいつらまだドワーフの国でちんたらしているらしい。そこでクランレイドをやるってよ」

「まぁ。カインちゃんも大概ね。クランレイドなんて。ギルドが聞いたら怒っちゃうわよ」


 クランレイドというのは、クランのメンバーだけで行う集団討伐だが、ギルドが発行したものと違い、クエストではないため、報酬は出ない。

 つまり、完全にクラン主体の、クランメンバーの訓練が目的だったり、普通では倒せないような魔物を倒して、その素材を得ることが目的だったりのイベントだ。


 しかし、大掛かりな狩りが必要な魔物となると、当然討伐依頼が出されるのが普通である。

 その過程を通り越してその魔物を狩ることは、ギルドが手にするはずの仲介料を無くす行為になるため、ギルドから良い目で見られなかった。


「そんなことを気にすると思うか? それよりも久しぶりの祭りだ。俺ももちろん行く。お前らもさっさと用意しろよ」

「わー。カンちゃんが立てたギルドレイドなんて、どんな魔物なんだろう。大きいのかな? それとも数が多い?」


「詳細は書いてないから分からんな。しかし強いのは間違いないな。マウンテンワームやギガンテスがイチコロだとよ」

「ちょっと、それを早く言ってよ。じゃあ、連れてくメンバーはAランク以上必須ね。いくらお祭りだからって、死人出す訳にはいかないもの」


「Aランクより上は今クランに何人いるんだ?」

「えーと、私達3人を含めて、11人ね。あと、向こうの3人もSランクだから、全部で14人」


「思ったより少ないな。そんなもんか」

「これでも多い方よ。そもそもSランクの絶対数が少ないのに、6人もいるクランなんてそうそうないわよ」


「まぁいい。それで、明日には出発する。早馬の馬車を出せ。最短で向こうに向かうぞ」

「はいはい。それで、マスター不在のこのクランと街は誰が面倒みるのかしら?」


「それならあいつでいいだろ。受付の女に全権を渡しておけ。逆らった奴は俺が戻ってから相手してやると伝えろ」

「あらあら。知らないわよ。あの子、ストレスで辞めちゃうかも」


「出来ん奴には俺はやらせん。上手く回すさ」

「マスター、着ていく服はどんなのがいいかな?」


「知るか! 面倒くさいから全裸で行け!!」

「むー。マスターのいけずー。スケベー」



「そろそろドワーフの国に着きますぞ。ルティ殿」


 ルティとジュダールを乗せた馬車は、ドワーフの国との国境間近まで来ていた。

 ブルデビルに遭遇した以降は、小さな魔物の群れに数度遭遇した程度で、旅は順調だった。


 しかし、ルティは何度となく、この旅を始めたことを後悔していた。

 あれ以降も移動中、ジュダールの露骨なアピールは続き、身の危険を感じたルティは、膝の上に常にライヤンを乗せることで、なんとか一線が超えられることの無いよう、防御線を引いていた。


 ジュダールはルティに、自分のことをさも素晴らしい人間だと主張を続けるのだが、ルティの中の評価は最低だった。

 ジュダールは確かに一般人として公国近衛兵に選ばれ、騎士として優れているのは間違いない。


 しかし、人間としてのジュダールは到底好感を持てるような人物ではなかった。

 まず、恐ろしく傲慢で、自分は素晴らしく、それ以外の全てを下に見ているかのような発言を平然とするのだ。


 それはルティに対しても当てはまり、面と向かって、「自分のような素晴らしい騎士に護衛をしてもらえるのはたいへん名誉なことだ」と言われた時には絶句した。

 また、そのくせ嫉妬心が強く、同じ公国近衛兵の多くが爵位を持っていることに憤りを感じているようだった。


 同じ貴族であるルティの前で、生まれの上に胡座をかき、親の威光を利用しただけの痴れ者と批判した。

 そう言いながら自身も爵位が欲しいらしく、ルティに声をかけるのは、ルティ本人に興味がある訳ではなく、ルティの子爵の娘という立場に興味があるのが丸分かりだった。


 そして、宿をとるために訪れる町や村での行動も、女性のルティにとっては許せないものだった。

 宿をとった後、ジュダールは必ずある所に向かった。


 いくら小さな町や村でも春を売る女性というのは少なからず居るものである。

 ジュダールは悪びれもなく、隠す様子もなく、毎回そこへ向かうのだ。


 一度たまりかねてやんわりと指摘した事があるのだが、その際の発言は思い出したくもないような内容だった。


『ん? はっはっは。心配は無用ですぞ。護衛に支障を出すようなことは無いですからな。むしろ英気を養っておるのですぞ。英雄、色を好むと言いましてな。夜に強いことも男として重要なことですぞ。ルティ殿もきっと満足することでしょう』


 目的地に到着し、サラに会うことが出来たら、護衛の任を解き、その後はサラ達と行動を共にしようと、ルティは固く誓った。

 抱きしめる力が強くなりすぎたのか、膝の上に乗せたライヤンが、抗議するように小さく鳴いた。

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