第2章

第15話

途中少し残酷なシーンがあります。苦手な方は一つ目の場面転換(◇)の後の文を飛ばしてお読みください。文末にその部分のまとめを書きます。

◇◇◇◇◇◇



 石畳で舗装された街道を馬車は勢いよく走っていた。2人はセレンディアからサラの故郷の村オティスへ向け旅を始めていた。

 サラが故郷に帰省すると話した時、ソフィも同行したいと言ってきたのだ。セレンディアの孤児院で育ったソフィは故郷というものを持たないため、純粋な憧れと、サラの父親に興味があったためだ。

 実際は9割以上父親への興味が理由だった。


「それにしても運がいいわ。まさかSランクの冒険者が護衛してくれるなんてね」


 2人の他にもう1人同行しているシャルルが話しかけてきた。彼女はタイラントドラゴン討伐の際に移動と宿泊先としてお世話になった、大きな商会の会頭の娘だ。


「こちらこそ運が良かったですよ。まさかシャルルさんが私の故郷の隣町まで用があるだなんて」

「あの町、お酒が有名でしょ? その内の1つがここ最近王侯貴族にえらく人気でね。うちも取り扱ってはいるんだけど、中々手に入りにくくなってね。それで今回、間を挟まずに直接私が交渉に行くってわけ」

「あの町、そんな凄かったんですね」


 酒を飲まない2人にとってはよく分からない話だ。あんな苦い飲み物を好き好んで飲む人の気持ちがわからないからだ。それに次の日に調子が悪くなるなんて、もはやあれは毒の一種なのではないかまで思っている。


「それにしてもその歳でSランクなんてすごい快挙じゃない!」

「やっぱりそうですよね。実際私達もまだ実感よく湧かなくて。Sランクになれたのも色々有って、運が良かっただけですし」

「運がいいだけでなれるんなら、今頃巷にはSランクが溢れかえっているわよ」


 2人がセレンディアからオティス方面に向かう馬車を探していた所、偶然居合わせたシャルルが声をかけてきて、知らない仲でもないからこれからの予定を話すと、なんとシャルルもオティスの隣町まで用があるという。

 ほぼ直行便のようなもので、何度か乗り換えを覚悟していた2人にとっては金を払ってでもぜひ乗せていってほしい馬車だった。

 しかし、シャルルは運賃はいらない、代わりに護衛をして欲しいと言ってきた。

 普通Sランクの冒険者に護衛を頼もうとしたら、それなりの額を用意しなければならない。もちろん馬車の運賃など比べ物にならない。

 それを乗せる代わりにタダでというのだからなるほどシャルルも商売人だ。一方、2人は乗せてもらう以上護衛はするべきと思っていたから、特に報酬を渋られたという感情もなく、二の次もなく了承した。

 かくして、故郷までの気ままな女3人の旅が始まった。


「注意してください。前方に複数人、待機しています」


 セレンディアから数日経った、ある日の昼、舗装も荒く背の高い木々に生い茂った道に差し掛かった時である。サラが御者に突如注意を促した。

 どうやら盗賊に狙われたらしい。シャルルの馬車はなるほど大商会の名にふさわしい立派な見た目をしているから、そこに目をつけられたのだろう。


「ど、どうすればいいですか?」

「気にせず変わらずにそのまま進んでください」

「わ、分かりました」


 数分ほど進むと飛来物が馬車を引く馬に向かって飛んできた。矢ではない。石だ。

 恐らく盗賊は馬車も奪う対象にしているのだろう。矢では最悪馬が死んでしまうが、石が当たった程度では、死ぬことはない。

 そこら辺まで考えて行動してくるなど、それなりに場数を踏んでいるのかもしれない。しかし石はソフィがすでに用意していた水の玉に撃ち落とされた。

 それを合図に複数の男が林の陰から飛び出してきた。2人もすでに馬車から降り、男達と対峙した。


「へっへっへ。こいつはついてるぜ。まさかこんな立派な馬車を護衛しているのが、こんな若い女2人だけとはな。さては襲われないと高をくくって護衛料を渋ったか?見ろよあの剣。まるで安物じゃねぇか。ということは・・・がっ」


 何か話を続けようとしていた男はサラに殴り飛ばされ白目を向いて倒れ込んだ。更に、林の中からどさっと何か重たいものが地面に落ちたような音が数回聞こえた。

 林の中から2人を狙っていた盗賊の仲間をソフィが雷魔法を使って感電させたのだ。


「さてと、私今あまり機嫌が良くないから気を付けて口をききなさいよ? 黙って降伏すれば命までは取らないわ」

「ふざけんな! てめぇら! やっちまえ!」


 頭らしい男が明らかに林の方を向いて怒鳴った。しばしの沈黙・・・。

 頭はその後も何度か「どうした? てめぇら! 構わねぇ。やっちまえ!」と叫んでいたが、何が起こるわけもない。

 どうやら彼らには先ほどソフィにやられた男達の木から落ちた音は聞こえなかったようだ。

 ダメな寸劇でも見せられている気分になった2人は微妙な面持ちで、しょうがないとばかりに目の前にいる男たちを気絶させ、馬車に積んであったロープで逃げ出せないよう木に括り付けた。


 さすがに放置するわけにもいかないし、かと言って馬車にも乗せられない。ここに縛っておいて、次の町に着いたら衛兵にそのことを告げ、対処してもらうことになった。

 もし野生の動物や魔物に襲われて命の危険があったとしても、あちらはこちらの命を取るつもりだったのだ。自分が同じ結末になっても文句は言えまい。


 2人は再び馬車に乗り込むと再び旅を続けた。夕方には予定通り町に着き、シャルルは何か掘り出し物がないかと、市場に足を運び、その間に2人は町の詰め所に出かけ、盗賊のことを町の衛兵に伝えた。

 その後3人は宿で落ち合い、町の特産品だという豚肉料理に舌鼓を打ちながら楽しい夜を過ごした。



 それはゆっくりと近づいてきた。

 最初に気付いたのは林から2人を狙ってソフィに感電させられた男だった。林の陰から何かが近づいてくる。魔物かもしれない。

 大慌てで大声を出し、気絶している仲間たちを起こす。その声に何人かが目を覚まし、きょろきょろと頭を動かし状況を理解する。

 そうしている内にそれは姿を見せた。真っ黒い人影。

 男達は最初それを暗闇のせいで黒く見えてるのだと思った。しかし、近づくにつれ、そうではなく、姿そのものが漆黒に染まっているのだと気付く。

 大柄な人程度の形をしたそれは荒い鼻息を立てながら男達に近づく。

 男達は理解していた。この後の自分達の結末を。

 ある者は失禁し、ある者は恐怖の余りまた失神した。

 男の顔に鼻息が当たった。次の瞬間辺りには男達の断末魔がこだました。


 それはまたどこへともなく消えていった。ただ一つの感情、食べたいという気持ちを満たすために。


 翌朝、町から衛兵が盗賊達が縛られていると聞いた場所へやってきた。

 そこに着いた衛兵は怪訝な顔をした。話に聞いた場所には縛られているはずの盗賊達の姿どころか骨ひとつ落ちていなかった。

 辺り一面広がった血の跡を除いては。



 男達が円形に胡坐をかいて座っている。みな神妙な面持ちだ。ウィルが沈黙を破る。


「それで、何かいい案を思いついた奴はいねぇか?」


 今村では臨時の集会が開かれていた。議題は今年の領主に納める税についてだ。

 カインが隣町に行っている間に今年の納税額を決めるために領主代行が村に視察に来た。

 今年来た領主代行は去年まで来ていた老人とは違い、若い男だった。なんでも前の領主代行は寄る波に勝てず領主代行を退いたらしい。

 かなりの高齢だったから、年に数回とはいえ、村々を巡回することは体力的に難しくなったのだろう。

 問題は新しい領主代行が指定した納税額だった。なんと例年の3倍もの税を言い渡されたのだ。


 領主代行が言うには、この村の作物の育ち方は他の村や町に比べ、異常に良く、また、家畜の健康状態も良くそれから取れる羊毛なども良質のものだという。

 つまり、この村は他の村や町に比べ良質な生産を持っていると判断されたのだ。

 加えて、どうやら他の村や町の今年の作物の出来が例年に比べて良くないらしい。

 その結果その村や町の税は減らさねばならないから、そのしわ寄せがこの村に来て、例年の3倍などというバカげた額の納税になったのだ。


 当然、村長であるウィルはその場で抵抗したものの、逆に前領主代行が正当な評価をしなかったことをいいことに、今まで本来よりも少ない税しか納めなかったとして、増やしてもいいのだと脅され、それ以上何も言うことが出来なかったのだ。

 しかし、村で作る作物は例年通りの納税のためのもの以外はほとんど村で消費されるものしか作っていない。

 村で手に入らない物を買うために、わずかばかりの金を得るために少しだけ余分に作ってはいるが、領主代行が言うような他よりも高い値段で売ったことなどなく、足りない分を作物の代わりに金で納めようとしても、村の貯蓄はそんなにないのが現状だった。

 領主代行が言う納税をすれば間違いなく村は今年の冬を越せない。かと言って、納税を怠れば、最悪この村の存続に関わる。

 何か打開策がないか思案していたのだ。



◇◇◇◇◇◇

残酷シーンのまとめ:黒い何かが来て、盗賊達は食べられた

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