第31話

結界の上という不安定な足場なのに問題なさそうに全力でやり合っている

2対1の戦いでシンは互角に渡り合っている


……わぁ、次元が違うなぁ〜


私は呆然と戦いを見届ける

竜巻は全部消え戦いに集中している

2人は攻めきれていない

相手の不可逆によってダメージは永久に続く為受ければ不利となる

全ての攻撃を回避して2人は戦っている

他の魔族がまたこちらに戻ってくれば劣勢になるだろう


「なんだ? これは一体」

「ジギルとムクロ? 何でここに」

「食料調達してた。あれは一体何?」


ムクロは上で戦っている3人を指差して聞いてくる

ムクロの目には魔法が見えるだけで何をしているかは分からないのだろう


「戦ってる。リアと現英雄王がシンって言う魔族と」

「勝てます?」

「分からない」

「ありゃ、誰も手を貸せないな……いや、ムクロ出来るか?」

「出来るけどやらない。下手に入れば死ぬ」

「そうだな、そんじゃ失礼するぞ」


ジギルがそう言って帰ろうとすると結界の一部にヒビが割れ小さな穴が開く

そこから魔法の流れ弾が飛んできてムクロの持っていた袋を貫く

無残にも風穴が開きバラバラになり地面に転がる食べ物たち

ムクロは袋を落として結界の穴を見る


「ムクロ! 大丈夫?」

「私は問題ない……ジギルあそこまで道よろしく」

「……分かった。盾魔法 真紅の盾」


赤い盾が現れムクロは足場に使い結界の方へ向かう

私が止めようとするとジギルが邪魔をする


「なんで邪魔を」

「死ぬぞ、いや、吸血鬼だから死なないか。それでも辞めておけ。あれに巻き込まれると面倒だぞ」

「巻き込まれる? 何の事?」

「大罪の一つ 憤怒の罪、あれは怒りの感情が一定以上高まる事で発現する。ムクロバージョン変化 モデル憤怒」


ムクロは炎を纏い結界の穴を通ってシンをぶん殴る

シンは殴られた勢いでかなりの距離吹き飛ばされる

ムクロの全身が炎に包まれ炎が消えた時には姿が変わっていた

ムクロは18歳程度まで成長して炎を纏った赤髪の美しい少女に変わる

長い赤髪が風になびく

真っ赤に燃え上がる炎を両手に纏い吹き飛ばしたシンのいる方向を見る

吸血鬼の視力で視認できるが他の誰も視認できていない為あの姿を見てはいない


「あれムクロ?」

「変わったか。俺も一度しか見た事はない。膨大な魔力をその身に内包した姿、あれは危険だ」


炎で移動速度を上げてシンの方へ向かう

2人はそれを見て唖然としている


「誰!」

「知らなくていい。死ね」


炎を纏った手刀を振るう

結界の上を炎が一直線でシン目掛けて向かっていく

壁を咄嗟に張ったがそれでも壁と共に吹き飛ばされる

透明化の魔法を使ってもらい私だけでも結界の上へ向かう

ムクロによる激しい攻撃がシンを襲っていた


……食べ物の恨み? 怖すぎない


不可逆を持っていても攻撃を出来ないならその力は意味がない

他の魔族が異変に気付きこちらを遠くから見ている

数人は魔法を構えている

ムクロがそちらの方へ炎の斬撃を飛ばす

ラフィラが炎で攻撃を防ぐ

魔族の1人が瞬間移動してきてシンを抱える


「先輩!」

「駄目よ。来たら殺される」


シンは助けに来た魔族に忠告する

魔族は空間魔法で逃げようと試みるが拳を食らう

吹き飛びシンを手放す

接近したムクロの拳を回避出来ずシンは食らう覚悟を決める


「そこまで! 闇魔法 ブラックシールド」


私が間に入り盾を出して拳を防ぐ

ムクロは私だと認識して攻撃を辞める


「まぁまぁ、食べ物なら後で私が買うから」

「……それで許す」


ムクロの姿は元に戻る

ムクロを抱えシンの方を向く


「取り敢えず撤退してもらうよ。それだけではなく、戦闘は暫くやめてもらいたい」

「分かったわ。こちらも死ぬのは嫌ですもの」

「帰りましょう」


空間魔法を使って2人は撤退する

魔族は全員撤退していった

結界はボロボロになっており直せないので一度再発動させて結界を戻す

私たちは下にいるメンバーに合流する


「大丈夫ですか?」


降りてきた私達にクロルが心配そうに聞いてくる


「問題ない」

「あぁ、それより大罪の力か……これなら魔族は攻撃をしてこないだろう」

「冷戦かな。仕方ない防衛技術を上げるよ。まだ王が来るまで数週間ある。それまでにもある程度は防衛技術をあげよう」

「分かってます。ジギル、ポーションはまず置いておいてこっち手伝って」


ジギルの服を引っ張りムクロは研究所の方へ歩を進める

ジギルは引っ張られながら私の方を向く


「分かってる。勿論、あんたもやるんだよな?」

「悪い、やりたい事がある」

「なんだ?それは」


ジギルが聞いてくる

私は先ほどの事を考えて一つ決めた


「簡単だよ。私は強くなる。その為にここにいる全員に訓練を付けてもらいたい。出来る限り早く強くなりたい、お願いします手伝ってください」


私は全員に頭を下げる

クイナが丁度意識を戻してふらふらと立ち上がり頭を下げている私を見る

クイナは状況が飲み込めず首をかしげる

リアに説明をしてもらいクイナは納得する

この場にいる全員に断る理由はなく全員が頷く


「勿論、俺たちもだよな?」

「えぇ、お願いします」


ヴァーミリアンが城壁の上から叫ぶ

私は頷く

今日はまず休むとして明日から猛特訓が待っている

これほどの人々に一気に訓練を付けてもらえるのは世界中でも私くらいなものだろう

甘えなどない全力の特訓で極限まで自身を高める

血反吐を吐くなど当たり前で何千回でも死んでは立ち上がるを続けて特訓する

肉体の限界など1日目でもう超えていたがそれでも全員は強くなりたいという私の思いに応えるかのように全力で試練を私に与える

基礎的な物から達人クラス技の修行まで全てを叩き込む

時々ムクロとジギル、シエルが手伝いに来てくれていた

訓練に明け暮れているうちに時は過ぎリーレロック王の来る日になった

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