第19話

翌日になり国民が城の前に集まっている

国を一望できる城の一番上に立つ


「クロル」


音響操作で声を大きくさせ話す


「私が王だ」


その言葉に国民は動揺する


「私が王となったのは前王が殺されたからじゃ、今やこの国は世界中の国々の中で最も弱く惨めな国だ、今からこの国を変えるつもりなのじゃが文句ある奴は居るか?」

「降りてこい! 手前みたいなのが王など認めねえ」


1人が文句を言うと他の人々も文句を言いはじめる

言われた通り翼を生やして降りる

地面に着地せずに手の届かないギリギリで浮遊する


「餓鬼が調子に乗るな」


斧を持った男性が切りかかって来る

斧のリーチもあり私に攻撃が当たる距離にあるが斧は途中で砕け男性の腕が斬られる


「何故」

「王への無礼は許されるものではないので、それに私の物に傷をつける事は許しません」

「魔族! 貴様、何を考えている」

「安心しろ、このクロル・ルシフェルという魔族は私と契約している。無闇に危害を加える事はしない……それとあの愚王にこの愚民か納得し得るな」


愚民と罵られたことに国民は怒りを覚える


「ふざけるな」

「まぁ、聞け。私が王にふさわしくないくらい貴様らに言われるまでもなく私が知っている。それで候補を挙げたのだが聞いていけ。私が王として推薦したいのはシエル・ロードロットだ」


……愚王と愚民は正直そう思っているがな


城の一番上に人影が見える

目が覚めたシエルがそこに居た

つい今日目が覚めたばっかりだが説明をしたら理解してやると言っていた


「ロードロット家の長女か。だが彼女は」

「あの時やられて……」

「今日、目が覚めた。城壁が破壊されたあの時この国の為に動いた彼女なら王にふさわしい……相応しいと思うものは拍手せよ。武器を持つなら天に掲げよ」


私が大声をあげ呼びかけると国民は文句がないようで拍手と共に武器が天に掲げられる

調べた結果シエルの家は上位貴族の一つであり国民の信頼を多く得ている

シエルは冒険者という立場にいるがそれでもかなりの信頼を持つ

私が王になるくらいなら国民はシエルを選ぶと知っていたのでこの方法をとった

団長達にあらかじめ今日伝えては置いたがまだ状況が分かっていない者も何人かいる

シエルが目を覚まさなければそのまま私が無理やり王になっていた

私は興味のあった研究開発の技術管理者という重要な任に就いた


……私は王なんてやりたくないのじゃよ。研究か〜何しようかなぁ? 武器? 兵器? 核兵器作ろうかのぉ〜


シエルの元に戻る


「頼むぞ?」

「はい、お任せください。私が責任持ってこの国を変えます。貴女の目的の為にも」

「狂信者は要らぬのだがまぁ、シエル頑張りなさい。お主の力を認めたからこそ私はお主を眷属として迎え入れたのだ」


自分の血を対象に流す事で眷属とすることができる

眷属は半吸血鬼化して一定以上の歳をとらず長い寿命を得る

事実上の傀儡国家の完成である


「期待に応えてみせます」


クロルと共に研究所を作ってもらっている場所へ向かう

まだ時間はかかりそうだがそれでもあと数日で出来るらしい


「おっ、研究長」


その場所に着くとしっかりと働いている人々が見える


「やぁ、ジギル。調子はどうかな?」


私はその中の1人であるジギル、あの時私に話しかけてきた男女のうち男の方に話しかける


「見ての通り今作っている最中で今は問題なく行っている。ムクロは先に研究始めてるぞ」


後ろの方に指を指しているのでそちらを見ると小さな小屋が出来ていた

ムクロとは少女の方の名前である


「ほう、仕事熱心なのは感心じゃな。安全を確保して働くように……所々休憩を入れておきなさい」

「おかしな人だな。体なんて壊れてもいいから働けってのが俺たちの普通だぞ?」

「昔、私が住んでいた場所では私の言ったことが当たり前だったよ。まぁ、奴隷のように働かされる者も居たが……体を壊しては駄目じゃよ」


……私が支配する限り好き勝手にさせない、今や政治なんぞどうでも良いが屑が生きやすい世の中にはしねぇぞ。正直者が馬鹿を見る世界なんて嫌いだ


「奴隷がいたのか?」

「いる国もあったが私が住んでいた国では奴隷制はない。まぁ、平和な国だったよ」

「へぇ、平和か。いい場所だったか?」

「良い場所とは言えないのぉ、平和になれば人が幸福であるなんて考えは甘いぞ? 人なんて生き物は未完成で身勝手で自分を正当化する……私は正当化なんてしなかったがな」

「そういえばその姿だったのか?」

「いや、昔は男であったぞ? お主くらいの身長で非力なそこらにいるような人間だった。そうじゃな、二つだけ特殊じゃった」


置いてある木材の上に座る


「特殊?」

「特殊と言っても唯一無二の存在という訳ではなくここで言う魔法の属性違いと同じような感覚かのぉ? 他にも持っている者が居る力なんじゃがそれの一つで共感覚と呼ばれるものだ」

「共感覚? なんだそりゃ」


ジギルを含め数人が私の話を聞こうと集まる


「五感のうち二つが繋がる現象? まぁ、そんな感じでな。私のは感情の色、そして周りの感情を肌で感じる力だった。綺麗な色は綺麗だし肌で感じる喜びなどの感情は良いものだけど負の感情は醜く恐ろしい言葉で表せないほどの色だった」


思い出すだけでも十分気分が悪くなるがなんとかこの場は平然を装う


「……よくわかんねえが大変だったんだなあんたも、今は無いのか?」

「まぁな、今もあるとはいえ十数年である程度は慣れたのじゃよ。どうもまだ負の感情を見るのは嫌だが生きる上では仕方があるまい、暴走しなければそこまで問題も無いしな」

「暴走?」

「あぁ、私のはちとおかしくてな。一度だけじゃったが突然吐き気を催すほどに気分が悪くなったのじゃ、別にいつもと変わらないはずなのに苦しみが数倍に跳ね上がった」


……原因不明なのが恐ろしい


「想像出来ねえが吐き気を催すって事はかなりヤバそうだな。持ってなくて良かったぜ」

「ちなみに持っていない人にこれを言っても信用されない」

「だろうな、あんたの言葉だから信じるが他の奴から言われても信じられねえよっとそろそろ仕事戻るわ」


ジギルがそう言うと全員仕事に戻っていく

仕事に戻ったのを確認して小屋の方へ向かう

向かう途中に目眩がして倒れかけるが異変に気付いたクロルが透明のまま私を支える


「大丈夫ですか?」

「思い出して少し気分が悪くなっただけじゃよ」

「出来るなら続きを聞かせてください」

「続きとは?」

「肌で感じる方の感情について悪い方は聞いていませんしもう一つも聞いていません」

「しっかりと話聞きすぎじゃないかのぉ? 別に構わんがあまり良い話ではないがな」


歩きながら先ほどの話の続きをする

本当はする気の無かった話であるがクロルは本当に気になっているようで話を楽しみにしている

嫌な記憶の話を楽しみにさせると複雑な気持ちになる

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