インビジブル・ワールド

角砂糖

第1話

ザーザー、ガヤガヤ、ガタンゴトン…騒音が溢れかえる毎日。

(うるせーなぁ…)

俺は河上敦士。高校教師。社会人5年目のおっさんだ。毎日毎日、同じ電車に乗って人混みの中を押しつぶされそうになりながら出勤する。ストレス社会を、上手く生きている方だと思う。現代の若者の中では、強者って所かな。

「センセー!おはよっ!」

声と共に背中をドンっと叩かれた。

「おぉ!おはよー!」

声の主は男子生徒たちだった。

笑顔で挨拶を返す。

ガラ…

「おはよーございまーす。」

職員室の戸をあけ、挨拶をして、席に着く。

「おはようございます、河上先生。」

「あ、矢沢先生、おはよー。」

今年からこの学校に配属された、矢沢弘樹。何故か配属初日から俺に懐いている。まぁテキトーにあしらっておけばいいだろ。

ガタ…

教室の戸を開け、教卓に荷物を置く。

「学級委員!号令!」

「きりーつ、れーい、ちゃくせーき。」

全員が席に着いて、出席を確認する。

(今日の欠席は…4人か。)

このうちの3人は、不登校者。別に放置している訳では無い。学校に来れば対応は何かしらする。だが、俺の知らないところで起きていることまでなんて、関わる義務もないだろう。


キーンコーンカーンコーン

「今日はここまで!復習しとけよー!」

「きりーつ、れーい、ちゃくせーき。」

授業が終わり、職員室へ向かう途中、

「先生!」と、後ろで呼び止める声がした。

見ると、クラスでは大人しめの、どこの学校にもよく居るような、2つ縛りにメガネの女子が立っていた。

「なんだ?」

「今学校に来ていない、美月ちゃんの事なんですけど…」

「うん、三園がどうかしたのか?」

「あの、家庭訪問とか、行ったりしないんですか…?」

(はぁ、またこの話かよ…学校来てねーやつなんてどーでもいいだろ…)

と思いつつも、上っ面のいい俺は一応、

「うーん、先生も行った方がいいとは思うんだが、学校の許可が降りないことには行かれないんだ、悪いな。」

と、お決まりの言い訳で流す。

すると、その女生徒は、

「そうなんですか…すみません、ありがとうございました。」と言って、残念そうな顔をして教室に帰って行った。

(全くよぉ、面倒くせーな。この世の中不登校なんかになって甘えてたって、上手くいくわけねーだろ。上手く生きたもんが得すんだよ。)

と、内心文句を言いながら職員室に戻った。


「お昼の時間です。皆さん、速やかに昼食をとりましょう。」

午前授業が終わり、昼食の時間を知らせる放送が入る。俺がいつもと同じように中庭でコンビニ弁当を食べていると、小さいネズミのような動物が、俺の元に駆け寄ってきた。

(なんだよ鬱陶しいなぁ、ほっとくか。)

すると、俺の足をスルスルとのぼり、スーツのポケットの中に入ってきた。

キーンコーンカーンコーン

その時、いつの間にか昼食の時間は終わり、始業のチャイムがなった。

俺は急いでそのネズミを振り払ったが、全く落ちる気配がないから、仕方なくそのままにしておくことにした。そして小声で、

「いいか、動いたらぶっ殺すからな。」

と言い、午後の授業に向かった。


「お疲れ様でーす。」

定時になり、仕事を終えた俺はいつもの帰路につき、家へと向かった。家に着くと、一日の疲れからか強い眠気が襲ってきた。直ぐにベッドに倒れ込み、数秒後には寝付いてしまった。その時、

「おい!」

かん高い声が耳に思い切り入ってきた。

「わっ、え!?なんだ!?」

ビックリして飛び起きた俺の目の前に、昼間のネズミがちょこんと座っていた。

(やべ、こいつのことすっかり忘れてた、、まぁ、明日追い出せばいいか。)

だが、ネズミが喋るわけもないし、寝ぼけてただけだろうとそのまま、また目を閉じようとした瞬間、

「おい!お前!起きろ!」

またかん高い声が耳をつんざく。

よく聞くと、ネズミの方向から声が聞こえる。

「お前、、今喋ったのか?」

疑い半分で聞いてみると、

「そうだ!寝てないでよく聞け!」

確かに返事を返してきた。

「お、おぉ、分かったからそのうるさい声は勘弁してくれ。」

戸惑いながらも、俺は返事をした。

「勘弁するも何も、我は最初からこのような声なのだ。まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。ひとつ聞こう。お前、クラスの不登校のやつについて、どう思っている。」

と、ネズミが話を移す。俺は何故か、相手がネズミだったからか、この時は本音がでた。

「今の時代、人間関係なんかで不登校になってたらこれから先やって行けるわけねーんだ。こーゆーのは、ほっとくのが1番なんだよ。」

すると、

「はぁ、、」と、ネズミが呆れたようなため息を漏らした。

「な、なんだよ、」

「お前に少しでも後ろめたさがあれば、、まぁいい。すぐに分かるさ。」

「は?何言ってんだ?」

俺がわけも分からずにいると、明るい光が俺を包んだ。

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インビジブル・ワールド 角砂糖 @kakuzatou0203

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