第47話「あいつらが死ねばいいのに」

 学校が終わり電車が来るまで時間がある。することもないので同じ電車の大林君と雑談していた。

「物理のテストどうだった?俺84点。」

「85点だった。」

「うわー負けた。俺動摩擦係数にダッシュつけ忘れたら丸々落としたんだよ。」

「こっちなんて速度にマイナスつけ忘れたらそのあと全部だめになった。」

「そりゃやっちゃったな。そういえば最後のばねの問題解けた?あれだけ本当にわからなかったんだけど。」

「あれは運動方程式を立てて、運動量保存の法則を並立して解けば大体行けた。」

「それはわかるんだけどいくら計算しても合わないんだよ。(2)の仕事と力学的エネルギーの関係出すやつとか。」

「ばねが一回縮んだ後二つの物体が一体化してるから動摩擦力は倍になってたりするから、そこは?」

「…あそっか最初来たときは質量mだけど戻ってきたときは2mだから仕事の量も変わるのか。考えてなかった。」

「それ解けてなかったらそのあと全滅してるのか。」

「そうです。今回は結構頑張ったんだけどな。」

 どうも物理とか数学とかはそういうケアレスミスが目立つ。とはいえ何度も問題集やる気にもなれなくて、テスト期間に一周くらいしかしないんだよな。もっとやんなきゃだめか。

「お、電車来た。」

 ローカルな感じの電車に乗り、ゆらり揺られる。テストの結果が返ってくると大体こういう話をする。大林君は俺と大体同じくらいの成績なので隠さず話すことができるのだ。どんなミスをしたのかとかは一種の自己防衛だが、話すことで記憶に刷り込みに度はしないように気を付けられると勝手に思っている。そんな話も終わると、大林君はスマホで戦車ゲームをし、俺はガラケーでRPGゲームに興じた。グラブルももう始めてから結構たつが、昔のキャラがそう弱くないのですごくありがたい。どっかの毎月強キャラが更新されて手に入れないとクエストがクリアできないようなゲームもたくさんあるがそうじゃなくて本当に良かった。とはいっても別に放置しているだけでできるゲームなので暇になってくる。

「…。」

 そろそろ駅につきそうだ。まだ俺の最寄り駅ではないがこの絶望的に田舎な地域でかつ俺の通学路の駅では一番大きいところだ。あ、止まった。

「……あれって…。」

 ぼんやりと窓の外を見ていたらなんだか見覚えのある人間が見えた。若干茶色がかったミディアムショートヘアの女子生徒…あれ俺が事故った時に突き飛ばしたいじめられっ子じゃないか?

「ちょっと用あるからここで降りるな。」

「?ああわかった。」

 確証はないのだがそんな気がする。人の顔とか全然覚えられないのだがあの時は極限状態だったからか割と鮮明に記憶していたからだ。別に恩を着せようというわけではないが話をしたいので追いかけることにした。


「くそっ…。」

 自分の機動力のなさにうんざりする。鶴田さんにしごかれてはいるもののやはり荷物をもって早歩きはきつい。ミディアム少女に追いつくどころか気を抜けば放されてしまいそうだ。追いかけていくと彼女は何やら使われていなさそうなさびれた大型倉庫に入っていった

「…麻薬でも買うつもりか?」

 ありそうだけどさすがにないか。だけどこんな汚らしい倉庫に女子高校生が入る理由なんて裏取引ぐらいしか思いつかない気がする。冗談半分に考えていたのだが、中は想像以上にひどかった。ドアの隙間からのぞくと少女と同い年か年上くらいの男が三人いた。なんだか不穏だったので旭の件があってから常備するようになったデジカメを録画で使ってみた。

「おいほら、さっさと脱げよ!」

「…。」

「早くしろつってんだよ!」

 男の一人が乱暴に壁を蹴り飛ばす。ミディアムはびくっと体を震わせそしてまた違う男が少女に近づく。

「なら俺が脱がしてやるよ。」

 女に抵抗の意思はない。男たちは群がるようにあれの服を脱がしていく。そして沸き上がったのは嫌悪感だった。

なんだこれ?

気持ち悪い。

なんだ?あの男たちは?

何なのだ?あの女は?

まるでゴブリンじゃないか。

まるで家畜じゃないか。

まるでオークじゃないか。

まるで豚じゃないか。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

「はあ。」

 本当にため息をつかざる負えない。なんでこんな奴らが生きてて、旭や咲があんな目に合わなければならないのだ。ふざけるなよ。本当に気持ち悪い。あれが同じ人間なのか?いや違う。ただのごみだ。

ガン!!

 乱暴にたたいたドアは固い衝撃音を立てて静止した。男たちはそろってこちらを向く。一瞬は警察か何かだと思ったのだろう。その表情はおびえていたが、実際にいたのは小柄な杖突の冴えない学生。すぐにその表情は見下したものになった。

カツカツ。

 自分でも驚くほど足取りは軽かった。こちらを見つめる奴らに言う。

「初めまして。」

 その時の俺がどんな目をしていたかだって?そんなの分かり切っているだろう。

「その女、放してくれない?用があるんだ。」

 男たちの中でもひときわでかいやつがこちらに近づいてきた。

ドン!

 胸をたたかれる。強く殴ったみたいだが大して痛くはない。

「失せろ。」

 背の高い男だ。眼力もある。ビビりな性格なので正直いやなのだが仕方がない。文字通り、ごみを見る目で言った。

「邪魔だ。失せろ。」

 ガン!

 顎を狙って思いっきり殴る。二撃目、みぞうちを決めると簡単にうずくまった。三撃目で低くなった頭を蹴り飛ばした。ほかの二人が身構え武器を持って襲ってくる。

「全員いつか死ぬわけだし、いっそここで殺してもいいかな?」

 昔を思い出す。喧嘩をして相手を倒すたびに得られる圧倒的快楽、自分が上位であることを示す一番の機会。こいつらデカいだけで見掛け倒しだ。いやまあわかってはいるのだ、俺からすると大体の人間はのろますぎる。

「この!」

 ほかの二人が鉄パイプらしきもので殴りかかってきた。

「よっと。」

 適当に拾っておいた小石を投げてみる。大したスピードじゃないけれど素人は簡単に硬直する。これだけ隙があればつぶすのはたやすい。

ガン!ガン!

 まず手、武器を落として次に顔。鼻を強打すればすぐに無力化成功だ。もう一人の攻撃は食らってしまった。失敗失敗。とはいえ懐には入ったので大してダメージはなかった。(てこの原理的に)踏み込んだ時に左足が痛かったけどまあそれは仕方がない。それに一番ひょろかったしむしろ片手で何とかなった。金的してやろうかとも思ったけどなんか気持ち悪いしみぞうちで済ませ、用件を伝える。

「あんたら弱いし、失せたほうがいいよ。…あとさっきのは動画に取ったし警察に訴えるのは自由だけど、不利なのはあんたらだ。だからさ、これ以上怪我する前に消えろ。」

 三人同時に来られたら面倒だしどうしようかなと思っていたが案外すんなり帰ってくれた。まあ地方の不良なんてそんなもんだよね。よかったこれで負けてボロボロに殴られるとか勘弁だったし。これで邪魔者もいないのだから女に話しかけよう。

「あんた、俺のこと覚えてるよな?」

 よくわからん恋愛小説の一場面みたいなセリフだ。残念なら画素のようなロマンティックさは皆無なんだけど。女は座り込んだままこくんとうなづいた。

「質問一。何故ここに来た?」

「…原田さんに呼ばれて。」

「あの日あんたを突き飛ばした女子グループか?」

 うなづく。

「質問二、ここで男どもに襲われて何故無抵抗だった?」

「…楽なのでその方が。」

「…。」

「最後に提案一。原田さんに復讐しないか?」

 意味が分からないとこちらを見上げてくる。楽ねえ、失禁するほどおびえていたくせに何を言う?ただそれ以上に殴られて辛い思いをしたくないだけだろう?一時的には楽なのかもしれないが、長期的に考えれば苦しみが増えているわけで何の意味もなかろうに。壁に寄りかかる女の顔面すれすれに杖を打ち付ける。大きな音が鳴って静まり返った。

「一応言っておくけど、拒否権ないから。それでもいやっていうんならあの男たちに代わって犯して殺す。奴らの比じゃないくらい痛めつけるよ。だけど原田ってやつに復讐するなら俺たちは共通の敵がいる。協力するのが筋だろう?なあ?」

 ぶっちゃけ理論としてはめちゃくちゃなんだけど、脅しに大した論理など必要ない。

「どうする?やるよな?」

「…。」

 女はゆっくりうなづいた。


 その後女は原田達女子グループの説明をした。詳細はどうでもいいので省くけど、原田っていう女が前に見た背高女であと二人の取り巻きとともによく殴られたりするらしい。ほかにも陰湿ないじめがあるようだ。おー今でもそういういじめっ子いるんだとむしろ感心してしまった。顔とかに傷がないことから浅知恵はあるのだろう。でも腹のあたりはしっかり跡があるし証拠には十分か。本当かどうか確認する手間が省けてある意味あのごみどもには感謝?だな。そして思いつきの作戦を伝えた。

「はい。」

 脱いだ学ランを女に渡す。 よくわからんという顔をされるので説明しないといけないらしい。面倒な。

「その下半身じゃ帰れんだろう?それで隠せ。洗って返せよ。」

 まだ夏服とは悠長な女だ。もう十月も終わるというのに…いやそれも隠されたとか?さすがにそれはないのかな?

「…!?」

 その時初めて自らが失禁していることに気づいたらしい。赤面して震えている。へえ羞恥心とかあったんだ。

「じゃあな。明日から作戦通りにな。」

「…ありがとうございます。」

「…そういやあんた名前は?」

「西目忍です。」

「ふーん。俺は白矢。ま、一応自己紹介ってことで。」

 連絡先も交換したしあとは連絡を待つだけなのだが、どうなることやら。倉庫から抜け外に出る。もう日が沈みかけている。日が短くなっているのは明白だろう。

「生きるのが幸せか、死ぬのが幸せか、どうだろうな?」

 最近分からなくなってきた。徐に夕日に手をかざしてみる。どうもひどく歪な形をしているようだった。

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