今日もおっさんは笑顔で世界を歩く

滝米 尊氏

第1話

ある森の中で1人の中年男性が歩いていた。その男はハットとヨレヨレだが元は高い服と分かるものを着て小ぶりながらも旅行鞄を持っていた。

そんなリストラされて行く当てのない元社会人みたいな男が太陽光を遮った暗い森の中にいるのはひどく場違い感が漂っていた。


「ふむ、どうやら私は道に迷ってしまったようだねぇ」


街道からかなり遠く離れて、漸く自身が迷子になって森を彷徨っている事に気づいたようだ。


「どうしようかねぇ。コンパスを見て来たはずなのに、道を間違えた事からコンパスが壊れているのは確実のようだしねぇ」


男は何か無いかと懐や帽子の中、最後に手持ちの旅行用の鞄の中を調べ始めた。


「眼鏡、か。使えないねぇ。金も森の中で何を買うと言うのかねぇ。熊から蜂蜜でも買って腹の足しにするかな?まぁ、私自身が熊の腹の足しになるだろうがねぇ。クックックッ」


男は自身の自虐ネタで笑いだした。常人が見たら狂ったのかと思うような内容だが、男の目には知性が宿っていることからこれが通常の事なのだろう。


「あとは護身用の拳銃に、何故か入っていた女性物のパンツ、おお、借りたまま忘れていた爆弾も有ったとは。ははは、至れり尽くせりだ。食料が無さすぎて笑えてくるよ」


本当に爆笑しながら鞄から次々と何故そんなに入るのか不思議でしょうがないという量の荷物を出して行った。

そして、いくつ目か数えるのも馬鹿馬鹿しい荷物の影に小学生が机の中の隅にくしゃくしゃに入れているテストのような感じに紙があったのを見つけ、作業を辞めて紙を開いてみた。


「おや、こんな物がここにあったとは。物整理も馬鹿に出来ないねぇ」


そう言って男は鞄から小さい紙に書かれた子供が適当に線を引っ張って書かれたような物を取り出した。


「確か親父殿が殺された・・・・年に書いたものだったかな?懐かしいねぇ。それにしても、これも運命的な再会だねぇ。子供の頃に書いた、あるかもわからない宝の地図を持って、コンパスが壊れて森の中で停滞して何も指針がない状態になる。本当、運命を感じるねぇ。まぁ、何も考えがない事だし、この地図に則って歩くのも一興かねぇ」


そう言って男は特にあてもなく、子供の頃に書いたと言う地図かも怪しい紙を持ってさらに道を彷徨い出した。

しかし、いくら歩いても歩いてもあるのはーーー森に居るので当たり前だがーーー伸び放題の草と木だけ。


「熊とか狼が出るよりましだがねぇ」


その言葉を合図にしたかのように叢からガサガサと物音がし出した。男は何が来ても大丈夫な様に懐から銃を取り出し叢に集中すると、


「……ょ、………だめ…ら………か…し…」


なんと小さいながらも子供の声が聞こえるではないか。ここから抜け出すために声を変えようと驚かさない様にそっと近づいて叢を覗くとーーー


「きゃっ!人間!?バレた!?」

「どどど、どうしよう!?」

「おおお、落ち着いて!確かマニュアルに」


なんと人間の子供を手の平サイズに小さくした様なモノが居るではないか。男は森に迷った事には焦ってはいなかったがずっと森の中にいては飽きてくるのもまた人情。という訳でさっさと森から出たかった男は人外のモノでもなんでも良かったので案内して貰うためにとにかく落ち着いてもらおうと話しかける事にした。


「落ち着いて貰えないかねぇ。私は取って食ったりしないからさ。まぁ、他の人は知らないがね」


とまた自分のネタで笑いだした。それは普通の人間の目から見ても不気味に映るのだ。それがかなり小さい知性を持った生物が見たらどうするのか。


「「「キャーーーーー!!!」」」


恐怖に陥り兎に角逃げるに決まっている。小人(仮)は人間よりも足が短いというのに短距離走アスリートの全力疾走に迫るのではないかと思うほどの速度で砂煙を撒き散らしながら走って行った。

男は小人の恐怖に染まった顔を見て小さかったせいか妙に可愛かったと少しほっこりした気分になるがすぐに出会い頭に逃げられた事を思い出し呆気にとられる。


「えー」


男は緊張している小人達を和ませようと自分が・・・よく笑うネタで笑わせようとしたのだろう。そのネタ自身が間違っている事に気付かずに。


「おっと、追いかけなければ折角の手掛かりが無くなってしまう」


だが森から出たかった男は首を振って意識を変えるも先ほどの自身のネタを思い出したのか少しだけ口角を上げながらも3人?匹?を追いかけ始めた。


「「「キャーー!!キターーーー!!」」」


それに気づいた小人(仮)たちは大声で叫びながらさらに速度を上げて走りだした。


「は、速いねぇ…。これでも鍛えてた事があったのに自身が無くなるよ」


と言いつつも小人(仮)たちに追随する男。


「ちょっと待ってくれ〜」

「誰が待つのよ!」

「ふぇぇ、怖いよぉ〜!きっと食べられちゃうんだよぉ〜!」

「焦っちゃダメよ!あとちょっとで着くから頑張りましょう!」


(あとちょっと?目的地がある?今そこを目指すって事は何かがあるんだろうねぇ。そこに入られたら不味そうだねぇ)


男は面倒な事にならない為にさらに速度を上げて小人を追いかけた。


それから時間を忘れてひたすら追っているうちに苔や蔦に覆われてかなり昔に放棄されたと思われる遺跡の前に辿り着いていた。


「この土地にこんなのあったっけねぇ?」


男は興味が尽きないのか辺りを散策し始めた。

だが、誰かは思ったはずだ。何故男は小人(仮)を追いかけないのか?と。


「だって多分ここが目的地だろうし入ったらやばそうだからねぇ。それなら周りを散策してから入っても同じだろうし、そっちの方が私が楽しいからねぇ」


男はまるでマッドサイエンティストが新しい実験対象を見つけて何をするのかを観察しているようにただただ楽しそうに遺跡を調べ出した。

すると、男は遺跡と木の間に影になって見えにくくなっているが小動物が住んでそうな立派な穴を見つけた。


「ふむ、何か入っているのかねぇ?」


と、特に逡巡する事も無く穴に手を深く突っ込んだ。


「何も無いじゃないか……」


男らしい豪快な行動をとったが、何も得られず項垂れるのだった。

だが、項垂れて下を見るとぱっと見何もないように見えるがよく見ると小さな足跡があり、それが遺跡の入り口らしき物へと向かっていた。

じゃあ入ろうか、と行動したいところだが男は入れない。


「さっきちょろっと見た感じ、入り口が塞がれていたんだよねぇ。どうしようかねぇ?」


男は頭を悩ませながら鞄の中を漁り始める。

すると、誰に借りたかも忘れた爆弾を見つけてしまったのだ。


「これで入り口をドカンと……、はダメだねぇ。逆に遺跡が崩れるかもしれないからねぇ。銃でやるにしても、これ護身用だから高性能じゃないしリボルバーだから威力も威嚇ぐらいしか無いからねぇ」


本当に頭を悩ませる。

悩ませすぎて変な踊りを始めるが、本当に悩んでいる。


「小人(仮)らしき姿はここで消えたからどこか道があるんだろうけど、多分あの子達サイズだから入れないだろうしねぇ」


本当困ったよ、と言わんばかりに爆弾をお手玉のように遊びだした。

そして見つけてしまった。

蜂が群がる巣を。

それを見つけた男の表情はなんと言えばいいのだろうか。

一言で言えば気持ち悪いに集約されるが、それを超えた様な不気味な笑顔を浮かべていた。


「くっ、くくっ、くふふふっ、あっはっはっはっはっ」


とうとう大声で笑い蜂の巣に向かって歩き出した。


「君らが悪いわけじゃないんだけどねぇ。くくっ、君らは新しい巣を作ればいいから」


男は懐からソードブレイカーの様なごついナイフを取り出して。


「その巣、全部貰うねぇ?」


巣を切り落とした。






「ぎやああああああああああ!!!!!!」


男はあのあと、巣を壊されてその体から湯気がでるほど怒った蜂から逃げると、蜂蜜を中からくり抜いて周囲にばらまいた。

すると蜂蜜大好き⚪︎ーさんが大量にやってきたのだ。

それは男の目論見通りであり、普通なら喜ぶべき場面なのだろう。


「だからってなんで1分もしないうちにこんなに大量に集ってくると思うかねぇ!?!?」


そう、に来すぎてしまい、隠れる時間がなかったのだ。

その為一瞬でばら撒いた蜂蜜を舐め切った⚪︎ーさん達は蜂蜜の残り香を男から感じ、男がからまだ持っていると思いおっさんを追いかけているところなのだ。


「主食は魚だろう!?君ら蜂蜜が好きすぎるんじゃないかなぁ?!だからそんなにお腹が膨れてるんだろう!?ダイエットした方がいいんじゃないかねぇ!!」


自信が撒いた種とはいえ、やはり長距離死ぬ気で走り続けることはおっさんと言われる年のおっさんには辛いのか、ツッコミを上げた。

だがまた男にとって想定外が起きた。

その⚪︎ーさんたちは実は雌だったのだ。しかも何故か伝わったのか⚪︎ーさんたちはどんどんスピードを落としていき、終いには白目を剥いて立ち尽くしてしまった。

男はあれだけ猛スピードで追っていた⚪︎ーさんたちが急にその勢いを落としたので不思議に思い、ゆーっくりと振り返った。

そして見たのは、


「「「「グァァァァァァァ」」」」

((((ぶっ殺す!!!))))


ヒートアップした怪物だった

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