創造主のスクリプト
シュガーリン
第1話 友達はシュレディンガーの猫
どうして此処にいるのだろうか――。
それは別に哲学的な袋小路に行き着いたとかそんな高尚なものではない。
寧ろもっと矮小で脆弱な不安を言葉にしてみただけのちんけなものだ。
僕は堀川哲哉という名の小説書きを目指す大学生だ。
大学近郊の地獄のような急勾配の坂を登りきったところにある『高井荘』という安アパートの二階が僕の住処だ。家賃からして完全に名前負けしている。
まぁ、それはいい。問題はそこから先だ。
僕は某大学の理学部なのだ。専攻は物理。
どう考えても小説書きとは結びつかない。しかし、それが今の僕のキャラクターステータスなのだから仕方がない。だから――。
だからふとした拍子に思い悩んでしまうのである。僕はどうして此処にいるのだろうかと。
動機は単純だった。僕は高校時代は理科が得意だったのだ。だから担任の先生に此処を受けろと言われて受けてみたらなんとなく通った。元来、僕はそういう人間なのだ。流されやすい。それに小説はどこでも書けるから見地を広げるのもいいと思っていたのもある。
だが現実はそれほど甘くはなかった。理系はとにかく忙しいのだ。
気が付けばレポートは週に四本は書いている。徹夜なんかざらだ。要領のいい奴は適当にやって遊びまくっているようだが、あいにく僕は不器用な人間なのだ。なかなか上手く予定通りにことが運ばない。日に日に僕は小説というものから遠ざかっていたのだ。
こんなはずじゃなかった。文芸学部を受験しなおそうかとも思ったが、もう二回生になったので、さすがに少し気が引けた。親に悪いと思ったのだ。
そんなわけで、僕は高井荘の二階で気が向いた時に小説を適当に書くだけの夢とはほど遠い生活を送っていた。
このままではいけない。とりあえず何か健全な学生らしいことでもと思い、先月からサークルにも所属してみることにした。これもただ隣室の篠町茜音(この字で『しのまち あかね』と読む)という同い年の女の子に勧められたから選んだようなものだ。だいたい入った当初は何のサークルかも知らなかったのだから間抜けな話である。
『ナイト・オブ・ガリレオ』と言うのがサークル名だった。この洒落た名前が気に入って結局は入部することにしたのだが、入ってみれば何のことはない、ただの科学研究会だった。
だが最近気が付いたことだが、”ただの研究会”と言ってしまうには少し事情が違うようだった。メンバーの殆んどが理系学生ではないのである。理系の学生もいるが工学系の学生ばかりだったのだ。つまり、純粋に自然科学を専攻している学生は僕一人きりなのである。
あるとき実験をしてみようということになって選ばれたテーマが、銀鏡反応や液体窒素のようなこの手のサークルにメジャーな面白いものではなく、ジャガイモのデンプンにヨウ素液をつけて紫色にするものだった。それは小学校の実験である。しかも法学部の水橋一郎にいたってはレポートに「紫芋みたいでおいしそうだった。」と、いまどき小学生でも書かないような考察を書いていた。こうなっては科学研究会もへったくれもない。
だから『ナイト・オブ・ガリレオ』は、科学研究会というよりは『ちょっと科学っぽいことが好きな変わり者の暇人の集まり』というのが適切だろうというのが僕の見解だ。
まぁ、そんなわけで僕は今日も今日とてどうして此処にいるのかとかぼんやりと考えてしまうのだった。
こんこん、と部屋のドアをノックする音が聞こえた。
僕は普通の声で返事をする。音の伝導率がいいから無理に声を張り上げなくても外の人まで届くのだ。隣人の陰口なんか叩いた日にはえらいことである。
「哲ちゃん。あたし~。」扉の向こうから女の子の声がする。
隣人の篠町茜音である。茜音は僕のことを『哲ちゃん』と呼ぶ。彼女は僕と同い年で同じ大学に通っているのだが学部が違う。文芸学部だ。こちらに引っ越してきた日が一緒だったので彼女とはよく話すようになった。僕自身が文芸学部に興味を持っていて彼女の方も科学に興味があるようだったから気が付いたら大学でも一緒に行動することが多くなった。いわゆる、よい友達という奴だ。
僕はドアを開けると茜音を部屋に迎え入れた。彼女は白いナイキのTシャツに黒のジャージ姿だった。おおよそ男の前でする格好ではない。髪はいつものように黒のショートカットだ。あまり伸ばしすぎると洗うのが面倒くさいのでやめたのだそうだ。
「やっほ~。元気してる~?」
茜音は僕の前で右腕を突き出してびしっと指を二本立てた。どうやら『宝くじで二等賞が当たりました。』という素敵な意味ではなさそうだ。
「元気してるなら今からあたしとランニングに行こうぜ。」
なるほど。ジャージ姿はそのためだったのだ。別に前のように『僕に会うのに服を選ぶのが面倒くさかったから』とか、いつぞやのように『朝起きたときの服のままだったから』とかではないのだ。なんだか思い出したらちょっと複雑な気持ちになった。
「なんだって急にランニングなんか。」
「ふふ、聞いて驚け。」
茜音が不敵に笑った。
「あたしはこの度ダイエットをすることになったのだ!」
僕を巻き込むな。
だが、茜音には僕のモノローグは届かなかったようだ。
「まぁ、そういうわけで、哲ちゃんにはあたしがより若々しく、より美しくなるのに協力してもらいたいのです!」
茜音は仰々しい手振り足振りを交えて熱烈に演説した。
こうなると僕は弱い。その場の空気に流されやすいのだ。サークルもこの勢いにやられた。
「わかったよ。」
「本当?」
ごろにゃあと猫のような仕草をしながら茜音はお礼を言うと、そのまま僕を置き去りにして外に走り出していった。なんだか本当に猫みたいだ。
茜音が出て行ったあと、僕はひとつため息をついて仕度を始めた。なんだって茜音のダイエットに付き合わなければいけないのだろう。
――今でも充分に可愛いのに。
最後のモノローグはここだけの秘密だ。
公園前の路地を抜けたところで僕は力尽きた。もうかれこれ一時間は走っている計算になる。公園を見ると今日は日曜日ということもあってか子供が多い。
「なぁ、ちょっと休憩しないか?」
僕は前方をシャドーボクシングをしながら走っている茜音に言った。
「なんだぁ?だらしがないなぁ。」
茜音がため息をつきながら言った。彼女はまだまだ余裕のようだ。
「日頃から運動不足なんだから仕方ないだろ。」
「あたしならあと一万kmは大丈夫だけどな。」
それは化け物だ。地球を四分の一周する計算になってしまう。エラトステネスが聞いたらあまりの衝撃にとぼとぼと夜逃げでもしそうな感じだ。
「エラトステネスって誰よ。」
「紀元前に地球の大きさを正確に測った偉い人だ。」
どうやらモノローグを思わず口にしていたらしい。とりあえず僕は何事もなかったかのように無難に答えておいた。
「まぁとりあえず、少しは休憩しないと、もう僕、限界なんだ。」
肩で息をしながら僕は必死で訴えかけた。
「仕方がないなぁ。」
茜音は仰々しく『やれやれ』というポーズをとると僕のジャージの袖をつかんでずるずると公園のベンチへ引き摺って行った。小柄で華奢な身体つきの彼女にいったいどこにそんな力があるのだろう。こいつなら本当にあと一万km位は走れるかもしれない。
僕は公園のベンチに力なく腰掛けた。
ベンチはちょうど木陰になっていて涼しい。
雲ひとつない快晴だ。最近は空気がよどんできているという新聞か何かの報告が嘘のように、空は突き抜けるように蒼い。こんな日にペットボトルロケットなどを飛ばしたらブラックホールのように空に吸い込まれていくのだろう。そこから失速して落ちてくるロケットの姿はなんだか間抜けで愉快だ。
こういういい天気の日は、何もかも忘れて呆けているに限る。こういった時にこそアイディアのような宇宙からの特殊な電波を受信できるのだ。最近はあまりアンテナを伸ばす機会もなかったから久しぶりにチューニングを合わせてみようかと思った。
さて、うまく受信できるものかどうか。
僕は軽く眼を閉じ、空想の中に入り込む。おぼろげながら何かが見えてきた。これだ。この何かを掬い取り、形にして僕は小説を書く。最近書いてないけど。
じじじ。ざざざ。
頭の中で勝手になんとなく受信しやすそうな感じの効果音を鳴らしてみる。もし口に出していたら間違いなく警察のご厄介になることだろう。
じじじ。ざざざ。
見えてきた。もうすぐだ。
これをもっと具体的な形に―――。
どかっ。
何かが僕の顔面にぶつかった。とっても痛い。
その瞬間、具象化しつつあったイメージが霧散していく。
あぁ。僕の、僕の大事な電波ちゃんが。
僕は眼を開き、受信を妨害した卑劣な何かを探した。
地面にはころころとスポーツドリンクの青い缶が転がっている。これがぶつかったのだ。
「こらぁ!なんでちゃんとキャッチしないんだ!」
黄色い色の炭酸飲料の缶を片手に少し離れたところで茜音が叫んでいる。
そうか。僕の大事な電波ちゃんを苛めたのはあいつか。
「ぶつけたのはそっちだろうが!」
僕は叫び返す。
「あたしはちゃんと投げるよ~って言いましたぁ!どうせまたなんか変な妄想の世界に浸っていたんでしょ!だいたいなぁ。あたしがいることを忘れて妄想に没頭するって一体全体どういう了見だ、こらぁ!」
それを言われては返す言葉も無い。
「せっかく、あたしが哲ちゃんのために飲み物を買ってきたのに。さいて~。」
茜音がジト眼でこちらを見てきた。僕はとりあえず『ごめんなさい』と頭を下げた。
「わかればよろしい。」
茜音はにっこりと頷くと転がっている青い缶を拾い上げて僕の頬にぴたりとくっつけた。冷たくて気持ちがいい。
「これが哲ちゃんの分。炭酸嫌いだったでしょ。」
「よく覚えていたな。」
どうやら僕の好みで選んできてくれたらしい。
「まぁね。ちなみに奢りじゃないからね。」
茜音はにっこりと微笑むと僕に缶を渡した方の手を犬に『お手』をするように差し出した。
僕は大きなため息をついて小銭入れから百二十円を取り出した。
「手数料は?」茜音が不満そうな顔を見せる。
「強引に人を連れ出しといてそれを言うかお前は。」
僕は茜音を睨みながら百二十一円(うち手数料一円)を手渡した。
彼女はそれを受け取るとどっかと僕の横に腰掛けた。
「はい、じゃあかんぱ~い。」
茜音はからからと笑いながら缶のプルタブを開けた。僕もそれに倣う。
運動の後の冷たいジュースは確かに美味かった。イオンバランスを調整された低温の液体がごきゅりごきゅりと爽快な音を立てながら流動し、火照った喉の熱を急速に冷やしていく。その熱平衡に達する際のエネルギーの移動が体中の乳酸も一緒に取り払ってくれるような錯覚に陥る。至福の一杯とはこのことだ。
僕は持ってきていた煙草を一本取り出した。
「あぁ、いけないんだぁ。哲ちゃんはまだ未成年でしょ。」
茜音は時々こういう小さいことに拘る。自分だって未成年の癖に酒を飲むじゃないか。
しかし口に出したら面白くないことになりそうだったので、僕はばつが悪くなってそのまま素直に煙草をポケットに仕舞った。
「ところで、なんで一緒に走るのが僕なんだ?ダイエットなら『ガリレオ』の大沢さんや舟越さんだっているだろうに。むしろそっちの方が適任じゃないのか?」
少し汗が引いてきた頃、僕は当初からの疑問を口にしてみた。ちなみに僕らは『ナイト・オブ・ガリレオ』を略して『ガリレオ』と呼んでいる。傍から聞いたら意味不明だ。
「うん。そうだね。確かに和乃や舟越先輩の方がいいよね。なんでだろう。我ながら不思議ではあるな。」
茜音はそう言うとロダンのあの有名な彫刻みたいなポーズで考え込んだ。
なんだか馬鹿にされているようでちょっと腹が立った。何か気の効いた嫌味でも言ってやろうかと思案していると、茜音が顔をこちらに向けてにっこりと笑った。
「なんちゃって。少しは気が晴れたでしょ?」
僕は思わず思考を停止した。
なんだ?彼女は何を言っている?
「哲ちゃん最近忙しそうにしていたからね。なんだか凄く疲れた顔をしているし。」
そんな、そんな顔をずっと僕はしていたのだろうか。
僕はそんなに疲れて見えたのだろうか。
「ストレス溜め込みすぎなんだよ。もう。」
茜音が駄目な子供を見る母親のような眼で僕を見つめてきた。
「まぁ、がんばれなんて無責任なこと言わないけどね。最近、小説も書いてないでしょ。」
その通りだ。
最近小説を書く時間がない。
違う。それは言い訳だ。
書く自信がないのだ。
書けば書くほどに文章が稚拙に思えてくる。
文芸学部の先生に指導を仰ぎに言ったこともあった。
結果はこれまで小説家人生全てを否定されるほどに酷いものだった。
小説は人それぞれの形がある。
頭では判っていようとも僕の小説はそれ以前のものに思えてくる。
周りの反応も、全てその不安を肯定するようなものに見えてくるのだ。
自信がない。
スランプとは少し違うのだろう。
書けないわけではないのだ。
僕はそんな想いが表出しないように眼を閉じた。
目蓋越しに茜音の声が聞こえる。
「あたしは、哲ちゃんの小説が一番好きだから。書いて欲しいんだな。」
いつもの彼女からは想像もつかない位に静かな口調だった。
ちくり。
なんだか得体の知れない何かが肺の辺りに刺さったような気がした。
僕は思わず眼を開けて彼女の顔を見る。
既に彼女はいつものように笑っているのか僕をコケにしているのかよくわからない表情をしていた。
僕は彼女に気付かれないように小さく深呼吸をする。
肺に刺さった何かが呼吸を妨害している。
無理に呼吸をしようとするとまたちくりと痛みを与えてくる。
僕は深呼吸をすることを諦めてもう一度眼を閉じることにする。
瞼の裏には昼の穏やかな日の光が残像として、僕には眩し過ぎると訴えながら炊きついていた。
残像は最初、赤や黄色のようなエネルギーの小さい暖色系からエネルギーの大きい寒色系の色へと、まるでスペクトルを見ているように移行していく。
このスペクトルグラムはいったいどんな意味を持つのだろうか。
やがて残像は量子状態のように点滅を繰り返し、本質はそこにあるかもしれないという確率的な意味合いしか持たなくなっていく。
その馬鹿馬鹿しさに、そしてこのくすぐったさに、
僕は思わずくしゃみをした。
茜音は残った炭酸飲料を一気に飲み干すと、まだひんやりとしている缶をまたも僕の頬にぴとりとあてがった。僕は思わず痙攣のような動きをする。
「よし、それじゃあ愛しい我が家に戻るといたしますか。」
茜音は楽しそうに瞳を大きく見開くと立ち上がって背伸びをする。
僕はそれを見て軽く微笑む。彼女はそんな僕を見て怪訝な顔をすると一言「気持ち悪いな。」と言った。僕は一つため息をつく。
彼女はゴミ箱の方へとつかつかと歩き出した。そして缶を捨てるためにそれを一瞥すると何故だか急に顔色が悪くなった。
「おい、コラ。堀川哲哉。」
茜音が不機嫌そうに僕を見る。僕をフルネームで呼ぶ時は危険信号だ。
「ど、どうした?」とりあえず返事をしておかないと後が怖いので僕は返事をした。
「この炭酸飲料、一本で一日の摂取予定カロリーを軽くオーバーしているじゃないか。どうしてくれるんだ!哲ちゃんのせいだからね。」
いったいなんなんだ、その理不尽な言い分は。
そもそも一本で一日の熱量を軽く越えてしまうとはどれだけ高カロリーな飲料だったのだろう。油と砂糖でできているのだろうか。もしくは彼女が予定カロリーを低く設定しすぎているのか。絶対に後者だ。
だいたい食べ物のエネルギーはどうやって測るのだろうか。しかもエネルギーの単位はいまや世界中でジュールに統一されつつあるのに食べ物だけは未だに断固としてカロリーを使い続けている。これは食べ物に対する一種の冒涜ではないのだろうか。疑問は尽きない。
なんだか関係のないところに思考が飛躍してしまった。
まぁ、それはともかく。
僕は視線で必死に抗議をするが茜音はそれに気付いているのかいないのか口を尖らせて僕に空き缶を投げつけてきた。
僕はそれを紙一重で避ける。
缶がベンチにぶつかり、スケカーンと小気味よい音をたてた。『アキカーン』とかいう音だったらネタになったのだけれど。いや、くだらないか。
「なぜ、なにゆえに避ける!」
茜音が無茶苦茶なことを言う。だが眼だけはなんだか楽しそうだったので僕は彼女なりの愛情表現なのだと思っておくことにした。
というより実はこの手の扱いには慣れていたのだ。悲しいことに。
次の日の昼、僕は大学の学生食堂で昼食を食べていた。
今日は身体中が痛い。筋肉痛である。
昨日はあの後、実に三時間という気の遠くなるような時間を経て僕らは高井荘に帰りついたのだった。それというのも来た道を戻ればいいものを「帰り道は上級者コースで。」などと言う茜音の勢いに負けたからだ。
僕の時速を5km毎時とすると合わせて二十kmもの距離を走り抜いたことになる。これはハーフマラソン並ではないだろうか。
その当の茜音は今、目の前で実においしそうにうどんを食べている。
こちらは箸を持つ手すら怪しいというのに彼女は平然としている。彼女はもしかしたら本当に化け物なのかもしれない。もののけ姫よりはおっことぬしさまの方が似合いそうだ。
茜音が唐突に言った。
「ふぇっふぁん。わふぁふぃっふっふぇふぁぁ。」
「とりあえず口の中の物を飲み込んでから喋りなさい。」
茜音が、うぐぅ、と口いっぱいに頬張っていたうどんを飲み込む。
そしてコップの水を飲んで喉を落ち着かせて言った。
「哲ちゃん。あたしってさぁ。」
「なに?」
「小野小町に似てるよね。」
いきなり何を言い出すんだこの女は。
「そういうわけで今日から哲ちゃんはあたしのことを『おののしのまち』って呼んで。」
ごろわりぃ~・・・。
ではなくて!ちょっとそれは理不尽とか言うレベルを軽くK点越えしているのではないだろうか。彼女の思考回路を疑ってしまう。
多分、猫ではなくて茜音を箱の中に閉じ込めたとしたら科学の世界は大変なことになっただろう。観測されても予想すらされないような彼女までもが同時に存在していることになってしまうのだから。学者は箱の蓋を開けてみても判らない茜音の姿に頭を悩まし、量子猫は尻尾を巻いて逃げ出すだろう。量子猫ではなく量子茜音か。ちょっと面白い。この思考実験を『堀川の量子茜音』と名付けよう。
僕がどうリアクションをとっていいのか(あと全く関係ないことが三割)について脳味噌をフル回転させているのを尻目に、彼女はずっと笑顔だ。
もしや、これは。
「なぁ。」
「なんであそばしますか。むらさきてつや殿。」
茜音が小野小町を気取ってすました表情で言う。
そうなのだ。ただ単に彼女は『おののしのまち』というさっき思いついた駄洒落が言いたかっただけなのだ。
しかし僕はそんな親父ギャグみたいなものよりも、小野小町の真似をしながら言った『むらさきてつや』という言葉が面白くて先を続けることができなかった。
友達はシュレディンガーの猫 完
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