少年は魔術師になる

空知音

第1話 少年、異世界に留学する

 ボクの名前は、畑山翔太。小学六年生だよ。

 でも、ボクはみんなと一緒に小学校には通っていないんだ。なぜかというと、異世界に留学しているから。


 地球がある世界から、パンゲアって言う世界に来てるんだ。

 ここは、その世界のアリストという国だよ。この国は、ボクのお姉ちゃんが国王をやっているんだよ、すごいでしょ。

 その国のお城がある町には、「アーケナン魔術学院」があって、そこがボクの留学先なんだ。


 ボクが住んでいるところ?

 実は、お城に住んでるんだ。お姉ちゃんが女王様っていうこともあるんだけど、いつの間にかボクは「プリンス」っていう名前を付けられちゃったんだ。


 でもね、本当の理由は、お城にいるエミリーと言う女の子を守るためなんだ。

 これは、絶対に話しちゃいけない秘密なんだけど。

 どうやって守るかって?

 ボクは魔術が使えるんだ。


 地球からこの世界に来た人は、「覚醒」というのをすることがあるんだ。

 ボクは魔術師に覚醒したんだよ。レベルは30。

 ボクの年で、魔術師レベル30は、珍しいみたいだよ。


 今日は、ボクが初めて学院に行く日だから少し緊張してるんだ。



 お城の地下からまがりくねった秘密の通路を通って、行きどまりの地下室に着いた。


「プリンス、足元が悪いですからご注意ください」


 そう言っているのは、ここまでボクを案内してきたルイっていう人だよ。

ルイは軽くウエーブがかかったブロンドの髪をした小柄な女の人で、十六才なんだ。

 彼女もアーケナン魔術学院の生徒だから、ボクからしたら先輩になるね。

 顔つきは、地球の白人っぽいかな。


 地下室から石段を上ると、木造の質素な室内に出た。

 木製の机と椅子が置いてあって、地球でいうと六畳くらいかな?

 窓を閉めているから、ちょっと薄暗いね。


 暗くても周囲が見えるのは、ルイが唱えた魔術のお陰なんだ。

 光るボールのようなものが、空中に浮いている。

 地下通路を進む時も、この灯りで足元を照らしたんだ。


「こちらです」


 ルイは、そう言ってドアを開けた。

 まぶしい朝の光が入ってくる。ドアの外は、小じんまりした庭となっていた。


 ボクは、ルイの後について町の中を歩いた。

 ヨーロッパの歴史ある町のような雰囲気で、お姉ちゃんは「中世みたい」って言ってたっけ。

 パンを焼く匂いかな? 美味しそうおな香りが漂ってくる。


 ルイとボクが歩いていると、町を通る人やお店の人が、みんなボクの方を見るんだ。

 これは、お姉ちゃんから言われていたから分かっていたことだけど、この世界では、黒い髪がすごく珍しいんだって。

 だから、みんなが注目するんだね。


 石畳の道は、革靴のボクには、少し歩きにくかった。

 学校までもう少し遠かったら、足が痛くなっていたと思う。

 地下を出てから十五分くらいで魔術学院に着いた。

 学校の門は凄く立派で、レンガのようなもので造られていた。 

 門柱には継ぎ目がないから、もしかしたら魔術で造ったのかもしれない。


 門の前に茶色いワンピースを着た三十才くらいの女性と、白いあごヒゲのおじいさんが立っていた。

 おじいさんは、ルイが羽織っているような黒いローブを着ている。


「学院長、マチルダ先生、おはようございます」


 ルイが二人に挨拶した。


「おはよう」

「うむ、おはよう」


 異世界の言葉が理解できるのは、右手の中指に着けている魔道具の指輪が言葉を自動で翻訳しているからなんだ。

 すごいでしょ。


「そちがショータじゃな」


 白いあごひげの男性が、ニコニコ顔でこちらを見ている。でも、目がちょっと怖いかな。


「はい、ショータです。よろしくお願いします」


 ボクが、頭を下げようとすると、ルイに止められる。


「ショータ様、むやみに頭を下げてはいけませんよ」


 ルイが顔を近づけてきて耳元で囁く。

 なんの匂いだろう。ふわりといい香りがする。


「まあまあ、礼儀正しい男の子ね。私が担任のマチルダです。今日からよろしくね、ショータ君」


「は、はい、よろしくお願いします」


 ボクとルイは、マチルダ先生の後について校舎の中へ入ったんだ。


 ◇


 教室は、日本の学校とすごく似ていた。

 広さでいうと日本の学校と同じくらいかな。そんな教室には、机と教壇がある。

 生徒の人数は、二十人くらいかな。

 そして、生徒の年齢もいろいろみたいで、ボクより少し年長に見える人から、ヒゲを生やした、どうみても大人の人までいた。


「きゃーっ! 可愛い!」

「黒髪! かっこイイっ!」

「こっち見てーっ!」


 女の人たちから、声を掛けられる。

 でも、ボクは別に動揺しなかった。

 日本でもそうだったから、慣れているんだ。


 マチルダ先生が、ボクを紹介してくれる。


 「今日から、君たちと一緒に学ぶ、ショータ君よ。学園都市世界からの留学生ね」


 「うわー! ショータ君凄い! 異世界留学じゃん」


 「ショータ~、こっち見てー」


 「可愛い上に優秀なんて、もう最高!」


 皆がうるさいから、ボクは自己紹介しても聞こえないだろうね。


 バンッ!


 ボクの後ろに立っていたルイが、いきなり黒板を叩いた。

 教室は、シーンとなった。


 「ショータ様、ご紹介を」


 「学園都市世界から来た、ショータです。よろしくお願いします」


 ボクは学園都市世界っていうところから来たってことになってるんだ。

 地球世界から来たってのは秘密なんだって。

 ボクの自己紹介が終わると、ルイは教室を出ていった。彼女は、この学校の二回生のはずだから。

 ボクは、教室の一番前の空席に座わるよう言われた。


 マチルダ先生が、さっそく魔術の授業を始めた。

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