第51話 3月7日 呪い、新婚生活、核で世界を変える

 翌3月7日月曜早朝、鷹姫は介式と剣道場で起床し短時間の朝稽古をすると、制服姿で始発の連絡船に乗るため港へ向かう。民宿に泊まっていた男性SPたちと、さらに鮎美と夜間当番だったSPたちも港で合流する。島の港には県警が派遣している制服警官もいるので一気に風景がものものしくなるけれど、鮎美も鷹姫も慣れている。

「鷹姫、おはようさん」

「おはようございます、芹沢先生」

 連絡船で本土の港に渡ると、鮎美とSPたちは党の車両と警察車両で新幹線に乗るため井伊駅に向かっていくけれど、それを見送った鷹姫は一人で路線バスに乗り、学園前を過ぎて、六角駅から在来線で三上駅まで行き、また路線バスに乗って琵琶湖岸にある運転免許センターまで来た。

「………必ず一度で合格しないと…」

 東京へついていかなかったのは自動車運転免許取得のためだった。陽湖や鐘留に少し遅れること、いよいよ筆記試験を残すのみになっている。鮎美の秘書として忙しい中、落ちて再試験というわけにはいかない。剣道試合前と同じく気持ちを落ち着けて挑むと、午後には運転免許証を手にしていた。制服で写真撮影されたので、いかにも高校新卒の取得者という免許証になった。

「……これで今から一人で運転できます……」

 あまり実感がなく、さほど嬉しいとも思わなかった。またバスに乗って東京へ向かうため移動していると、携帯電話が鳴った。バス内なので遠慮して会話する。

「もしもし、芹沢鮎美の秘書、宮本です」

「同じく秘書補佐の月谷です」

「ご用件をどうぞ」

「シスター鮎美宛てに、ちょっと困った感じの郵便が届きました」

「また、毒物や刃物ですか?」

「ただの手紙ではありますけど、恨みの手紙なんです。石永さんにも相談しましたけど、あまりシスター鮎美に見せたくない内容ではあるものの、亡き朝槍先生の恋人からなので見せないわけにもいかない、という判断になりましたので、シスター鷹姫へ送信するので見ていただいて、夕方にでもシスター鮎美に見てもらってください。手紙の原本は、一応、指紋鑑定などのために警察へ送ります」

「わかりました」

 電話を終えた鷹姫はタブレット端末でメールをチェックすると、陽湖からメールが来ていて、手紙の内容を読む。

 

 私の那由梨を殺した芹沢鮎美へ

 

 那由梨が殺されたのは、あなたのせい。

 呪う。呪う。呪う。

 ずっと呪う。

 あなたに不幸が訪れますように。

 人の不幸のあとに結婚したあなたに罰がくだりますように。

 

 世界で一番あなたを憎む小山田清美より

 

 読み終わった鷹姫は眉をひそめた。そしてバスが三上駅に着くと、電車待ちの時間に陽湖へ電話をかける。

「これを芹沢先生に見せるのですか? 反対です。私たちで処分した方がよいです。それでなくても御心労が重なっているのですから、このような手紙があったこと自体、伏せておくのが最良です。知ったところで、どうにもならないことです。もし、この者が危害を加えようと企てるなら、それは警察の手にゆだねるべきことですし、他の不埒な手紙と同様に芹沢先生を煩わせること無く捨て置くべきです」

 普段は口数の少ない鷹姫が一気に話した。陽湖は予想された反応だったので、予定していた答えを言う。

「私と石永さんも同じことを考えました。けれど、他のイタズラ手紙と違って、朝槍先生の同性愛者としての恋人だった人ですし、私たちで隠してしまってシスター鮎美に知らせなかったと、あとで知れば、シスター鮎美は怒るか悲しむかする性格の人です」

「それは……そうかも……しれませんが……この手紙の内容は……実に不快で……気持ちの悪い……」

「牧田さんに…いえ、芹沢詩織さんには伝えない方がいいとは思います。彼女は現場にいたわけですし、そっとしておくのがいいと思います。けれど、シスター鮎美は自分が知っておくべきだった、と考える人です。私たちで伏せることは簡単ですけれど、それをすると秘書と議員の間での信頼関係が崩れることにもなると石永さんが言われるのです」

「………」

 もう鮎美宛に届く郵便物は本人が直接開封することは少なく、女性秘書たちの仕事になっている。誰からの手紙であっても開封してくれていい、と鮎美が許可しているので私信でも検査している。そして、大半はくだらない内容なので報告もせずに捨てていたりするけれど、今回の場合は報告しなければ、鮎美からの信頼を裏切ることにもなった。つい先日も鮎美の遠い親戚が静岡や茨城にいるらしく、会ったこともないのに借金や援助を願い出る手紙をよこしてきたので、鮎美に見せた。鮎美はタメ息とともに、玄次郎へ一任したし、父の玄次郎でさえ会ったこともない親戚へ援助の必要無しとして、静江が代筆して国会議員は金銭を融通することは法で禁止されていると断っていた。他にも鮎美が以前に在籍していた大阪の高校や中学の生徒や関係者から、親が離婚して困っているので助けてほしい、親がリストラされて学費が払えない、といった金銭の無心が来る。それらも氏名と概要を鮎美へ報告し、陽湖が担当して丁寧な返事と金銭援助はできないが、国や大阪府が行っている助成金の紹介をつけて返信していた。ただ唯一、鮎美が迷ったのは北砂夕子(きたすなゆうこ)という後輩女子からの手紙で、はっきりとは書いていなかったけれど陽湖も静江も一読して以前に鮎美と交際していたのだろうと見当をつけたし、内容は両親が別居状態で生活費が苦しいから少しでも援助してほしい、という金銭の要求だった。これに鮎美は迷い、実は金銭援助も借金という形で借用書を作れば法的に不可能でもないので援助を考えたけれど、静江が鮎美の未練を見て取り注意してやめさせている。数多く届く手紙のどれを報告し、どれを黙って捨てるか、そこには鮎美と秘書たちの間に、高度な信頼関係が必要だった。

「私も石永さんの意見に反論がありません。ただ、オブラートに包んで説明しておく手もあるそうです。いきなり手紙の写真を見せるのでなく、ぼやかした内容で、そういう手紙が来ていることだけ伝えるという手も。それでシスター鮎美が、どうしても手紙を確かめたいと言うのであれば、ショックを受けないように、気にしないように、と前置きしてから見てもらう、という手段です。これは電話では難しいのでシスター鮎美の表情を見ながらシスター鷹姫にやってほしいのですが、できますか?」

「……わかりました。善処します」

「あと、いただいたお電話に別件で恐縮ですが、一ついいですか?」

「はい、どうぞ」

「シスター鷹姫も、おもらしすべきです」

「………は?」

「私は一週間のオムツを着けての生活に耐えました。それでシスター鮎美と同じ体験をして多くの新しいことに気づきました」

「……」

「あなたも逃げてないで同じ体験をすべきです」

「………」

「これから一週間、オムツを着けて生活してください。トイレは禁止です」

「…………しゅ…修学旅行もありますから…」

「オムツなら、おもらししても見た目には、まずわかりませんし、もしバレて、からかう生徒がいたら私が守ります。校則の特別事項で修学旅行中、生徒の信仰を代表する私の権限は飛躍的に高まります。場合によっては他の生徒を退学にもできるほど」

「……それほど…」

 鷹姫は日本国憲法や民法刑法、行政法などは、鮎美といっしょに勉強したけれど、在学している学校の校則は詳しく読んだことがなかった。

「今、オムツはもっていますか?」

「……はい…」

 もし鮎美に長時間トイレに行けないような事態が急に生じた場合にそなえて鷹姫はカバンにオムツを入れていた。

「では、それを今から穿いてください」

「っ……こ、ここは駅のホームなので…」

「トイレに入れば済むことです。あ、トイレでオシッコをしてはダメですよ。今から一週間、シスター鷹姫はオシッコは必ず我慢してください。我慢して我慢して、どうにも漏らしてしまうときだけ、出していいです、オムツに」

「…………」

「では、電話を切りますから、オムツを着けたら、また電話してください」

「……………」

 鷹姫は返事をしなかったけれど、陽湖は電話を切った。もともと幼い頃から宗教の勧誘活動に参加していたので、穏やかそうな性格に見えて押しの強さもあり、自分が正しいと信じる道を他人にも歩かせようとすることに迷いは無い。

「…………」

 ずっと無言で携帯電話を握っていた鷹姫は言われた通りにトイレへ行くこともなく、まして駅のホームでオムツを着けることもなく、電話でもたらされた二つの案件について悩んでいたけれど5分して、陽湖から電話がかかってきた。

「オムツを着けましたか?」

「……いえ…」

「どうして着けないんですか?」

「……………嫌です…」

「その嫌なことを、シスター鮎美も私も耐えて成長しました。あなたも成長するときです」

「…………。も……もう電車が来ました。切ります」

 動揺気味に鷹姫は嘘をついて電話を切った。けれど、すぐに陽湖から電話がかかってくる。

「…………………」

 かなり迷ってから、別の緊急案件だと困ると思い、受話した。

「嘘をつきましたね。井伊方面行きは、あと10分は来ません」

「っ…」

 都会と違って平日昼間はJRでも本数が少ない。ダイヤは誰でもネットで見られる。陽湖の口ぶりはネットで調べた感じだった。

「シスター鷹姫、自分の胸に手をあてて、よく考えてください。何が正しいのか、何が罪なのか」

「…………」

「嘘をついて逃げることは罪です」

「………」

「まだ時間はあります。トイレに行ってオムツを着けてください」

「………………せ……芹沢先生に相談してから…」

「そうやって逃げる気ですね。シスター鮎美が自分にだけ甘いのを知っていて。あなたは卑怯です」

「っ………私は……」

「さ、オムツを着けなさい」

「……嫌です!」

「嫌でも着けなさい」

「嫌です嫌です!」

「………。少し落ち着いて考え直しましょう」

 相手が強く拒否したときは一旦は引いて切り口を変えるというのは宗教勧誘でも常套手段だった。

「シスター鮎美を尊敬していますか?」

「……はい……尊敬しています」

「では、彼女と同じことをするのに、どうしてためらうのです?」

「………わ……私と芹沢先生は違う人間です。すべて同じにはできません。私には女性を性欲の対象とすることはできません。あなたも、そのはずです」

「……。だとしても、おもらしについては同じはずです。シスター鮎美も本心では、私たちがオムツを着けることを望んでおられます。私は彼女の導きを受けました。そして新しい喜びを見つけました」

「…喜び?」

「はい、喜びです。おもらしすることで人は解放され、幸福になります」

「……………」

「おもらしすれば、幸福が実現するのです。おもらしは純粋無垢な行為です。幸福のおもらしを私といっしょに体験しましょう。私も、ここでいっしょに我慢してあげます。おもらしの証人になります。お互いのおもらしを讃え合いましょう」

「…………私には月谷の頭がおかしくなったようにしか聞こえません。粗相など幼児か愚か者のすることです。一人前の人間がすることではありません。恥を知りなさい! 愚か者!」

「あなたの言葉はシスター鮎美の玉座も打っています。おもらしはシスター鮎美もなさいました。それを愚か者と愚弄するのですか?」

「くっ…芹沢先生は負傷や選挙でやむにやまれず恥をかかれたのです。忘れて差し上げなさい!」

「忘れるべきは、人の世の常識です。真実の幸福は、おもらしとともにあります」

「あなたは一度、専門の医者に診てもらった方がよいです。頭の病気か、発達障碍などが隠れているのかもしれません」

「導きの声は、ときとして耳に届かないものです。けれど、確かに真実なのです。シスター鷹姫も、シスター鐘留も、この真実に気づき、喜びに目覚めてください」

「私も緑野も嫌なものは嫌です。とくに緑野は、あの歳でいまだ夜尿が治らないことを気にしていますから余計に嫌でしょう。わかってやりなさい! 人には触れられたくない傷があるのです!」

「……。え? シスター鐘留はオネショをするのですか? いまだに?」

「あ……月谷は、このことを知らなかったのですか? ……他言無用に願います」

 鷹姫は初めて三島が陳情に来たとき同席していたけれど、陽湖がいたか、いなかったかを明白に覚えていなかったし、鐘留から鮎美のように重ねて他言しないよう警告されたわけではないので、うっかり話してしまった。

「…シスター鐘留がオネショを……いまだに………、でも、どうしてですか? 普通、私たちの歳ならオネショしないと思いますけど」

「………。心理的な問題というか、ご家族のトラブルというか、……親子関係の問題のようなものです。詳しくは言えません。とても深刻な問題を抱えています。それも解決はしない類のもので、変えようのない過去の出来事に悩んでいるのです」

「……そう……ですか……」

「本当に電車が来ますので、失礼します」

 鷹姫は電話を切って3分ほどして来た列車に乗り、井伊駅に着き、新幹線に乗り換える間に駅弁を選んでいたのに、また電話が鳴った。あまり着信表示を見る習慣は無かったけれど、今回は見てから受話した。

「もしもし、芹沢鮎美の秘書、宮本です」

 着信表示は党支部の固定電話からだったのに、響いてきたのは陽湖の声だった。

「月谷です」

「………。ご用件をどうぞ」

「あなたは責任を取るべきだと思います」

「……何の責任ですか?」

「シスター鮎美が都知事選初日に個室で、おもらししたのはシスター鷹姫に大きな責任があります」

「……」

「しかも盗撮されてしまって、そのときの動画はいまだにネットに流れています。シスター鮎美は精神の強い人ですから耐えておられますが、もともとの原因をつくったシスター鷹姫が何の責任も取らないのは罪です」

「………私に、どうしろと…」

「今日これから、ずっとオシッコを我慢して東京へ行き、シスター鮎美の前で、おもらししながら謝るべきです」

「…………」

「責任を取り、心から謝罪する気があるならオムツは着けず、そのまま下着で漏らしてください」

「……そんなこと……嫌です……。そんな恥ずかしいことできません……」

「議員宿舎なら二人きりのはずです。シスター鮎美は全国におもらししたことがゴシップ誌でバラ撒かれ、全世界に動画が配信されているのです。その恥ずかしさを想像してあげたことがありますか?」

「………いえ……とても……想像が及びません………」

「もし、自分がそんな目に遭ったら、どうですか?」

「…………二度と……外を歩けません……」

「そんな目に遭わせたことの責任を少しでも、あなたは感じていますか?」

「………はい…」

「シスター鮎美は優しい人です。あなたが誠心誠意謝れば許してくれます。誠意には証拠が必要です。おもらししなさい、シスター鷹姫、その恥ずかしい姿をシスター鮎美に見てもらい、そして心から謝るのです。いっそ、泣きながら謝りなさい。心を真裸にして、赤ん坊のように、声をあげて泣きながら謝るのです。それでこそ償いです」

「………………」

「いいですね。今からトイレに行ってはいけませんよ。これは罪の償いなのですから」

「……償い……」

 電話を終えた鷹姫は食欲が無くなったので、三つ買うつもりだった駅弁を一つにして新幹線に乗った。お茶は買わなかった。昼食を終えた頃に名古屋を通り過ぎたけれど、ときおり陽湖からの確認メールが届いてくる。東京に着くと、また陽湖から電話で咎を受け、夕方になって自眠党本部で行われる連続した会議に出席する鮎美をサポートするはずだったけれど、もう動き回ると漏らしそうだったので鮎美へはメールと電話で案内をして、ビジネスホテルの部屋で一人我慢を続けた。夜になって、いよいよ昼から我慢していた鷹姫は青白い顔で議員宿舎に向かう。部屋の前で介式が鷹姫の顔色を見て、懸念を抱いて問うた。

「宮本くん、顔色が悪いぞ。どうかしたのか?」

「……いえ……何も…」

 鷹姫は顔を伏せ、介式と目を合わせず、落ち着かない様子で答えた。介式の懸念が大きくなる。

「……。こんな夜に芹沢議員へ何の用だ?」

「……報告事項が……あります…ハァ…」

 また目を合わせずに答えると、介式はSPとして行動する。

「君へ身体検査をする」

「っ…やめてください!」

 鷹姫が身を固くして両脚を閉じ、腹部を守るように両手で防御すると、介式はさらに疑いを強くした。主治医と秘書、すでに2度も鮎美にとって身近な人間が狙われ、暗殺の道具に仕立て上げられている。家族を人質にされるパターンだった。鷹姫の父親は剣道の達人で拉致が容易とは思えないし、ずっと島に居るので家族の拉致も難しいはずだけれど、別のことで脅されているのかもしれない。何より鷹姫の顔色の蒼白さは、明らかに普通ではなかった。まるで呪いでもかけられているような虚ろな表情で、いつもポニーテールにしている髪もおろし、顔を隠すようにしている。

「宮本くん、誰かに脅されているのか?」

「……いえ……」

「ともかく身体検査をする。拒否するなら芹沢議員には会わせられない」

「…………」

 介式は鷹姫の身体に触れて刃物や毒物、爆発物などを持っていないか調べる。他の男性SPは鷹姫のカバンを調べるし、さらに別のSPは静かに離れて鷹姫の家に電話をかけ家族の安否を確認した。鷹姫は危険物はもっていなかったけれど、一つだけ不審な点があった。おろした髪で隠すように携帯電話に接続したハンズフリーマイクを着けていて、イヤホンを片耳に入れていた。通話しながら自動車運転もできるので忙しい政治家秘書が持つ物としては珍しくない事務用品だったけれど、今現在も通話中だった。

「誰と通話している?」

「……月谷…です…」

「秘書補佐の子か……なぜ、通話しながら芹沢議員を訪ねようとした?」

「………」

「私が話してみるぞ」

「……はい…」

 鷹姫はハンズフリーマイクを抜いて携帯電話を介式に渡した。

「もしもし。警護中の介式警部だ」

「こんばんは。月谷です。いつも、お勤めありがとうございます」

 陽湖は穏やかに挨拶した。

「宮本くんの顔色が悪い。何か事情を知らないか? そして、なぜ、通話しながら芹沢議員に会おうとしていた? いかに同級生とはいえ、非礼に過ぎるし不自然だ」

「シスター鷹姫はシスター鮎美に対して償うべきことがあります。なのに、シスター鷹姫が逃げようとするので私が導いていたのです」

「…償う? 宮本くんが何かしたのか?」

「はい。そのためにシスター鮎美はつらい思いをしました。その責任を取らせるべきなのです。シスター鷹姫は心からの謝罪をし、誠意を見せるべきなのです」

「…そうか……それで顔色が……、わかった。そういう事情なら、私は立ち入らない」

 事務所内部のことだと判断したので介式は介入をやめた。携帯電話を返してもらった鷹姫は暗い顔でハンズフリーマイクを接続し直し、イヤホンを片耳に入れた。そしてカードキーで入室しようとすると、介式が言ってくる。

「宮本くん、不安なら、いっしょに入ろうか?」

「っ……どうか……見に来ないでください……お願いします…」

 鷹姫に弱々しく泣き出しそうな顔で言われたので介式は引き下がる。

「そうか………」

 介式も自分が悩んでいたときのことを思い出した。知念と桧田川が性交したという情報に触れたとき、部下がしたことの責任は自分にあると悩み、どう上へ報告すべきか、どう責任を取ればいいか、思い悩んで目の前が真っ暗になった。どういう失敗を鷹姫がしたのかは不明だったけれど、これまでもSPとして要人についてきて、その秘書が大失敗をして要人に謝罪する場面は何度か見てきた。みな一様に暗い顔をして処刑台に登る前のような表情だった。そして、それを要人が寛容に許すか、激怒するかで、天国と地獄にわかれている。介式は心配ではあったけれど、見られたくない、という鷹姫の気持ちは理解できたので入室をやめた。せめて一言いっておく。

「芹沢議員は、さきほどまでは機嫌は良かったぞ。国会でも大きな問題はなく、むしろ問題は鳩山政権側にあり、また党本部の会議でも、そのような話題で自眠党議員たちの雰囲気は悪くなかった」

「そう…ですか……」

 虚ろに応えた鷹姫が一人で入ると、鮎美は入浴直後のようで裸で髪を拭いていた。

「あ、鷹姫。報告って何? 髪おろしてるんや。……顔色、悪いよ? どうしたん?」

「……まずは……亡き朝槍先生の恋人から、不穏な手紙が来ておりました」

「朝槍先生の……」

 そう言われると鮎美の顔色も曇る。鷹姫は顔色が悪いまま話す。

「恨み言を書いた手紙で…、脅迫とまでは言えないものですが…、ともかく、報告だけ…いたします…。次に、私の運転免許ですが、合格いたしました」

 サラっと手紙のことを報告して、直後に一応は朗報である自分の免許取得を口にしたけれど、もともと9割の受験者が合格する試験であり、陽湖も鐘留も筆記は一発合格だったので、やはり鮎美は朝槍の恋人のことに気が行く。

「うん、合格はおめでとう。で、どんな手紙が来たん? 中身は?」

「…手紙は、すでに警察へ送ったそうです…」

「コピーか、写真くらいあるやろ」

「……ありますが…ご覧になっても心労を…重ねるだけかと…」

「うちには、それを見る責任があると思うわ。見せて」

「…………では……これを…」

 見せたくなかったけれど、鷹姫はカバンからタブレットを出して画像を表示すると鮎美へ渡した。読んだ鮎美は表情を暗くして、左手の薬指にしている指輪を重く感じた。

「…うちの……せいで…」

「芹沢先生のせいではありません」

「……。とにかく、返事は書くわ。忘れんうちに」

 鮎美はパジャマを着ると、便箋を前に考え込む。忙しいので、すぐに書いておかないと大津田からのラブレターへ返事するのを忘れたように、大切なことなのに忘れそうだった。とはいえ、さらさらと書けるような種類ものでもなく文面を悩む。代筆を頼むのもありえなかった。文章を悩んでいるうちに鮎美は、鷹姫の様子がおかしいことに気づいた。

「……ハァ……ぅ………」

「鷹姫、オシッコでも我慢してるん?」

 一目瞭然だったので問うた。鷹姫は顔を伏せたまま答える。

「………はい…」

「身体に悪いよ。トイレへ行き」

「…………」

 鷹姫の目がトイレの方を見て迷い、それから何か言われたように暗く曇ると、震える声で言う。

「……このまま……漏らします……罪を償います…」

「………。誰かに操られたみたいな目ぇして……」

 鮎美は鷹姫を見て、おろしている髪から見えるハンズフリーマイクのコードに気づいた。

「その線なに?」

「……」

「ケータイにつながってるやん。誰と話してるん?」

「………月谷です…」

「陽湖ちゃんか……ってことは、おもらし勧誘されたんやね。うちと陽湖ちゃんで話すし、あんたはトイレへ行き」

「……」

「病気になるよ! 身体も心も!」

「…ですが……罪の…償いを…」

「ええから、行き」

 鮎美は鷹姫をトイレに押し込むと、ショーツをさげて便座に座らせた。お昼から我慢していた鷹姫は雪山で遭難していた登山者が救助隊の担架に載せてもらったときのような安心と脱力感に包まれる。鮎美はイヤホンを自分の耳に挿入した。

「もしもし、陽湖ちゃん?」

「はい。あと少しで、おもらしだったのに……トイレでしてしまうと、わからない快感なのですよ」

「あんたは宗教といい、変な趣味といい、人に無理に勧めるのやめい!」

「シスター鮎美なら、わかってくれると思いましたのに残念です」

「二度と鷹姫に、おもらし強制せんといて!」

「私は導いただけで強制してませんよ。我慢していたのも漏らそうとしたのもシスター鷹姫の意志です。ハァっ…ぁ…」

「そんな風に宗教勧誘のマニュアル流用せんとき! あんた、また我慢してるね?! どこで、どういう状態?!」

「ハァっ…2階の部屋で…ハァっ…布団の上です……オムツはしていません…ハァ…下着なので、おもらしすると大変かも…ハァ…この状態で、どこまで我慢できるのか…ハァっ…」

「うちの家でジャージャー漏らさんといてよ! あんまり何回も漏らしたら母さんも対処を考える言うてはったからね! どうしても漏らしたかったら、風呂場でやるか、オムツ穿いてやり!」

 このド変態! と言いたいのは、さすがに今まで自分も何度も言われたことなので遠慮した鮎美は電話を切り、鷹姫にも言っておく。

「もう陽湖ちゃんの言うこと聞いて、おもらししようとせんでええよ」

「……ですが……あのとき……私がトイレを塞いでいなければ……あれは、私の罪…」

「妙な罪悪感も持たんでええから」

 しばらく時間をかけて説得すると、鷹姫も陽湖による言葉の呪縛から解放された。鷹姫の目が新興宗教のセミナーにまかり間違って参加してしまい真っ直ぐな性格につけ込まれて入会しかけていた若年者のような目から、誠実な政治家秘書の目に戻った。鮎美は昼食の駅弁以後、何も食べていないという鷹姫にチャーハンを作って食べさせる。

「ごちそうさまでした」

 食べ終わった鷹姫が食器を片付けているうちに、鮎美は呪いの手紙への返信を書いていた。

「これで静江はんに見てもらってOKやったら送っておいて」

「わかりました。……読ませていだたいて、よろしいですか?」

「うん、どうぞ」

 鷹姫は返信を読んでみる。

 

 小山田清美様へ

 前略 小山田様よりいただいたお手紙を拝見いたしました。

 たしかに私が居なければ、朝槍先生がヤクザに殺されることもなく、今でも生きてご活躍であったと思えば、お恨みを受けることは当然と思います。

 また、人の幸せを壊しておきながら、結婚した私のことを軽蔑されるのも当然です。

 朝槍先生のことも、そして小山田様に恨まれていることも一生忘れません。

 申し訳ありませんでした。ごめんなさい。

 どうか、今回の出来事から、あなた様が立ち直ってくださいますようにお祈りいたします。早々 芹沢鮎美

 

 読み終わった鷹姫が言う。

「二つ言わせてください」

「うん」

「一つ、やはり朝槍先生を害したのは反社会勢力の仕業です。これをもっと強調され、芹沢先生を恨むのはお門違いだと主張しておくべきです」

「……二つめは?」

「今回の手紙は不問とするが、より脅迫めいたメッセージを送ってきたり、何か害のあることをする場合は、即時警察が対応することを知らせておくべきです」

「うん、うちも同じことは考えたけど、文面には入れんかったんよ」

「なぜですか?」

「うちが直接に朝槍先生を殺したわけやないことなんて小山田さんも重々承知やろ。そんなん言うても責任逃れにしか聞こえんよ。あと、警察って言葉を出して相手の動きを封じるんも脅迫というか警告というか、脅迫と警告は似たようなベクトルやしね。実力行使をちらつかせて相手を黙らせるんは、今回の場合、しとうないよ」

「ですが、言っておかなければ短慮に出て、介式師範らがおられますから危険は少ないにしても何かあるかもしれません」

「そこまでアホな人なら仕方ないよ。……言っておいてあげる方が、未然に犯罪を防げるかもしれんけど……うちの心情的にも、こっちから警察のこと言うて黙らせるのは、しとうない。あと何回か恨みの手紙が来ることくらい受けるべきやと思うわ。この点、静江はんにも伝えておいて。それをふまえての文面やと」

「……わかりました」

「遅くまで、おおきにな。もう休んで」

「はい、私こそ、夕食までごちそうになり申し訳ありません」

「ええんよ。鷹姫が食べてるとこ可愛いし」

「……」

 頬を赤らめた鷹姫は一礼して退室する。部屋の外で介式に声をかけられた。

「芹沢議員は許してくれたか?」

「はい、寛大な方ですから。お優しく私へチャーハンを作ってくださいました」

「そうか。よかったな」

 心配していた介式も、鷹姫の顔色が良くなったので安心し、鷹姫が去ってから延長していた勤務を終え、深夜番と交替した。

 

 

 

 翌3月8日火曜朝5時、詩織は議員宿舎の鮎美の部屋へカードキーで入った。鮎美は15分前に起きてシャワーを浴びて剃毛した後だった。二人とも性行為のために出会ったので挨拶代わりにキスをして、鮎美は匂いを嗅ぎながら詩織を脱がせていく。

「うちのお願いした通り、ずっとお風呂に入らんといてくれたんやね」

「金曜に出会って以来ですから、もう五日目です」

 詩織は脱がされながら鮎美が腋の匂いを嗅いでくるので顔を背けて頬を赤くした。

「私は温暖なハワイに行って帰ってきたんですよ。週に2回、ジムでトレーニングもするのに、その後もシャワーを浴びてないなんて、帰りの飛行機で隣になった人に嫌な顔をされました」

「ごめんな、でも、詩織はんの匂い最高よ」

「匂いフェチに応えるのも、ここまでくると軽くSMですね。私はMって苦手です」

 自分でも不快と思っている体臭を嗅がれるのは詩織の羞恥心に響くようで赤面しながら舐められている。とくに決めたわけではないけれど、鮎美が前半は攻めという雰囲気になった。脱がせた詩織の全身を舐めて楽しみ、二人でシャワーを浴びると受け攻め交替する。

「詩織はんにも、お好みのプレイとか性癖ってあるよね。うちに言うてないようなこと、まだあるんちゃうの?」

 何度かの絶頂の後に鮎美が甘えながら問うと、詩織は怪しく微笑んだ。

「そのうち求めますよ」

「なんか怖いわぁ、もうテレビカメラの前にリモコンローターを入れられて出演するのは嫌よ。どうしても、って言うなら応じるけど、手加減してほしいわ。せめて連合インフレ税がうまくいくまでは、うちを失脚させんといてね」

「ええ、鮎美には歴史に残る人になってほしいですから。信長よりもガンジーよりも女性でいえばジャンヌダルクより」

「そこまで立派な人と並べられると恥ずかしいわ。けど、三人とも途中で亡くなってはるなぁ……あの三人、生きてたら、もっとビックになったんちゃうかな」

「それは、どうでしょうね。ある意味、あの絶頂期に殺されたがゆえ、より人々の記憶に強く、そして美化されて残ったのかもしれませんよ。ガンジーをしてインドパキスタンの分裂を止めることはできず、ジャンヌをして英仏の争いに決着はつけられなかったでしょう」

「信長が生きてたら、全国統一は20年早かったんちゃうかな。朝鮮出兵は……あったかな……島津氏の琉球進出も……。世界史は、もっと大きく変わったかも」

「いい方に変わるとは限りません。彼はキリスト教の布教を許していましたし、それが続けば次第に日本が日本でなくなったかもしれません」

「詩織はんもキリスト教、嫌い?」

「どうでもいい存在ですが、押しつけがましいところが嫌いです」

「そやね……詩織はんは神様っていると思う?」

「いたら会ってみたいものです。キリストを刺したロンギヌスが羨ましいくらいです」

「神様を刺すん?」

「ええ、神様なら痛くも痒くも無いはずです。どんな顔をするのか見てみたいです」

「神様はともかく人の身で刺されると、めちゃ痛いよ」

 鮎美がそう言うと詩織は舌を出して、鮎美の下腹部の斬られた傷跡を舐めた。もう跡は残っていないけれど、どこだったのかは覚えている。

「刺されたとき、どんな感じでしたか?」

 興味津々という顔で詩織が問うた。

「う~ん……最初は、そんなに痛くなかってん。もちろん、痛かったけど、あとから来た激痛に比べたら、ぜんぜん。で、じわじわ痛くなってきて立ってられんようになって、血まみれやし、身体も冷たくなってくるし、うちはもう死ぬんや……そう思ったわ」

「ということは、鮎美は、いずれ二度目の死の体験をすることになりますね」

「そやね……90年くらい先であってほしいけど」

「フフ、けっこう長生きするつもりなんですね。フフ」

 嗤いながら詩織は鮎美を舐め続ける。鮎美は快感を覚えつつも会話も続ける。

「うちが言い出した連合インフレ税を世界各国が受け入れてくれるなら、そのあと、どうなるか、見届けたいやん。できるだけ長く。きっとケインズもマルクスも、長生きしたかったと思うよ」

「マルクスはドイツの供産主義思想家でしたね。ユダヤ人弁護士の子供でベルリン大学へ行っています」

「唯物史観やったらしいね。今から200年前に産まれて神さんを否定するのは、けっこう大変な立場やったかな。ダーウィンと、ほぼ同じ年代を生きてはる。日本でいえば井伊直弼の世代あたりかぁ…んっ…あんっ…」

 詩織が的確に舐めてくるので鮎美は身悶えした。

「フフ、可愛い」

「井伊直弼は側室の子やったから、本来は家を継ぐことはなかったんやけど、兄の病死で継ぐことになって、天皇の勅許なしの日米修好通商条約を結ぶのと、安政の大獄、これで大きく歴史が変わってる。もし、薩英戦争みたいにペリーと一戦やっておいたら、勝てんとしても、所詮は太平洋を越えて兵站ままならん大遠征で来ておるんやから、日本占領なんかできんかったやろ。ハワイ人かてクック提督を討ってるんや。いっそ、一戦やっておけば、1945年の敗戦はなかったかも。んっ…ハァっ…」

 詩織が舐めながら言う。

「やたらと日本人は敗戦国という気分が抜けないようですが、日本は冷戦の勝利国ですよ。1991年のソ連解体では戦勝国側にいます。大きな戦闘がなかったので実感が薄いのかもしれませんが、WW1では漁夫の利、WW2で一敗、冷戦で勝利側という具合に世界の三大戦争で2勝1敗と、いい立ち回りをしていますよ、ドイツなんてWW1もWW2も連敗、冷戦時も東西に分割されていて、ようやく1990年に統合ですから」

「なるほど、ドイツ人クォーターに言われると説得力あるわぁ。立場によって、ものの見方、ホンマに変わるもんや…ハァ…あんっ…となると、今は冷戦から仲露が立ち直ってくる復興期という見方も…んっ…これからの人類が行くべき方向性は…んっ…イスラームの台頭もあって…んっ…唯物史観からの揺り戻しで…それぞれの宗教での争いに…あんっ…」

「鮎美は色々と考えすぎです。とくに宗教なんてテキトーでよいのです」

 詩織は舐めるのに加えて右手の指を鮎美の膣へ、左手の指を鮎美の肛門へ挿入していく。二つの穴を同時に攻められると、鮎美は下腹部が灼熱するのを感じた。

「ハァっ…ぁんっ…」

「鮎美は般若心経を知っていますか?」

「色即是空、ぅ、空即是色? んっ…ハァ…」

「そうです。人が感じている存在なんて不存在と、たいして変わらない、生も死も、煙か蒸気のようなもの、なのに、いろいろ悩むのは、バカらしい、悩むより、とりあえず念仏を唱えて、幸せな気分になっておきなさい、人生を楽しみなさい、という究極の教えです」

「あっ、あんっ、はんっ…んうっ…」

「フフ、もう思考がまとまらない状態ですね。悦楽の涅槃へ堕ちなさい」

 詩織は指使いを激しくしたり、緩慢にしたりする。鮎美に訪れる絶頂の波が繰り返すように加減して責め続けると、もう鮎美は喘ぐだけになって何も考えられない。呼吸さえときどき停止するほどの快感で、汗とヨダレを流した。

「んああああ! ああなあああん! ふああああん! はんはんはーーん!」

「フフ、そんな大声で喘ぐとSPが心配して入ってきますよ」

「んううぅ! あはっ! くはあああん!」

 喘ぎ声を我慢しようとしても、抑えきれなかった。脳髄で大輪の花が咲いて散るのを繰り返すような快感で、いったい何回絶頂したのか、快感の波が連続しすぎてわからないし、いっそ、このまま死んでもいい、と想うほどの快感継続だった。

「ハァんん! んううん! くんううう! ひ死にそぅ、んんんっ!」

「フフ、まだ続けてほしいから、そうやって脚を開いたまま喘いでいるのでしょう。おしいですよね、終わってしまうのが。もっとイキたい、もっとイキ続けたい、この欲張りさんめ。続けてほしいなら、喘ぎながら自分で自分のヒダを広げなさい。そうしたら、もう話なんかしないで、舐め続けてあげます。快感で失神するまで」

 詩織は言葉でも攻め、鮎美は快感が欲しくて言われた通りにした。蕩ける時間が続き、ぐったりと鮎美が目を開けているのに、眠っているような真っ白に燃え尽きた状態になった。全身から力が抜け、もう指一本動かすのさえ、億劫になっている。

「フフフ、次に鮎美と会えるのは修学旅行からの帰国が3月11日金曜で関空ですし、土曜が卒業式、そのまま地元で……。私とは、また火曜朝まで、一週間は会えませんね」

 再会と快感がもらえるまで、一週間もかかると聴いて、鮎美の中に欲望が湧く。

「詩織はん………再会までの一週間、お風呂やめてほしいって頼んだら? あかん?」

「このヘンタイ」

「やっぱり、あかんよね……」

「ま、考えておいてあげます。我慢できなくなったらやめますけど、忙しくて入浴の時間が無い日もありますから。それに卒業証書を手にする前の正真正銘の高校生としての鮎美と抱き合えるのは今が最後、その鮎美が願うことですから、耐えてみてあげます」

「やった。おおきに」

「でも、夏場は絶対嫌ですよ」

「夏になったら、詩織はんと新婚旅行に行きたいわ。国会も休みあるやろし」

 鮎美が左手で詩織の左手を握った。それで二つの指輪が触れ合う。

「詩織はんに出会えて、うちホンマ幸せよ」

「ええ、私もです」

 そう言ってキスをすると、また燃え上がって抱き合う。今度は受け攻めを決めない、攻め合い、感じ合いだった。それが終わって息をついた鮎美はベッドサイドに置いてあった水を飲んでから問う。

「他言せんといて欲しいんやけどね。最近、陽湖ちゃんが変な趣味に目覚めたみたいなんよ。どうしたら、ええかなって、詩織はんなら何か知ってる?」

「あのキリスト教の子ですか。どんな趣味に?」

「オシッコを限界まで我慢して漏らしたり、人前でわざと垂らしたり、それを他人にまで求めたりしはるねん。もともとは、うちが選挙中にオムツやった苦痛を理解してよ、ってことで一週間オムツを強制したら、なんか目覚めたみたいで……どうしたら治るやろ?」

「ウロフィリアですか。きまじめな性格の人が、逸脱行動として堕ちやすい性癖ですね。趣味嗜好の範囲から性的倒錯まで進むこともあります」

「うちには、ただのヘンタイとしか思えへんにゃけど」

「腋フェチさんが、それを言いますか、フフ、あのナポレオンも伴侶に入浴しないよう頼んだらしいですから、政治的才能が濃い人は、趣味も濃厚なのかもしれませんね」

 詩織が手のひらで長い髪を前から後ろへ撫でつける動作をして、あえて腋を鮎美に見せると、吸い寄せられるように鮎美が顔を近づけ、つい舐める。

「本当に好きですね。シャワーの後ならともかく何日も洗わないでほしいとか言う人が、オシッコ遊びする人をヘンタイよばわりですか。どっちも、どっちだと思いますよ」

「え~……オシッコって排泄物やん。汚いやん。それを嬉しそうに垂らしてる姿、もうド変態としか、思えんにゃけど」

「風俗店でも聖水プレイは定番に入りますし、男性の中には女子のオシッコを喜んで飲む人もいますよ。まれにビアンでも」

「う~ん………たしかに、哺乳動物とかはメスの成熟具合を尿や体臭で判断するけど、陽湖ちゃんはオシッコ垂れることそのものを楽しんでる感じやし……まあ、好きな男の前で、わざと垂らすよりはマシやけど、ほっといたら、それさえやりそうな勢いやわ。ウロフィリアかぁ……ペドフィリアよりは救いようがあるんかな。治療法って無いの?」

「性的倒錯の治療方法は確立していません。ですが、条件付けで対処しています。ペドフィリアなら、当然、警察に捕まりますよ、という学習をさせるのです。ウロフィリアだと、それほど大きな違法性はないですから、難しいですね」

「ロリコンは即逮捕やけど、オシッコ垂らしたくらいで逮捕はされんもんなぁ。場所によっては器物破損かもしれんけど」

「逮捕以外では、周囲から冷たい目で見られる、バカにされる、といったことがありますが、それさえ喜びに変えてしまう場合もあるでしょう」

「ドMやん……」

「まあ、放っておくしか、ないのではないですか? 本人が楽しんでいるなら余計なお世話かもしれませんよ。鮎美も腋フェチの治療をされてみたいですか?」

「う~……」

「フフ、人間、やりたいことをやって生きるのが一番ですよ、どうせ、いつか死ぬのですから。生即是殺、殺即是生、腋即是尿、尿即是腋(しょうそくぜさつ、さつそくぜしょう、わきそくぜにょう、にょうそくぜわき)です」

「そういう場合、ワキよりエキって読む方がええよ」

「フフ、さすが腋フェチさん。ほら、どうぞ」

 再び詩織が髪をまとめる仕草をして両腕をあげて腋を見せた。同性が髪をまとめる動作をするのが、鮎美の性的興味を喚起するのに気づいていた。一番そそられる動作で見せられると、鮎美は吸いついて舐める。そのまま詩織を押し倒して、鮎美が攻めで性行為を再開した。今朝は鷹姫へギリギリまで顔を出さないように言っておいたので、本当に遅刻ギリギリになって部屋を出る。その寸前にもキスをした。やっと自分の性的指向と合う相手に出会えて結婚した喜びで鮎美は一秒でも長く、いっしょにいたかった。欲望のままに求めても、応えてくれる詩織と名残惜しく抱き合って別れた。

「ほな、また来週ね」

「はい、ごきげんよう」

「芹沢先生、急いでください。遅刻になります」

 鷹姫に急かされて国会に出席すると、直樹が言ってくる。

「おはよう。キスマークがついてるよ」

「っ、どこ?!」

 鮎美が慌てて首筋に触れるのを、直樹と音羽が可笑しそうに笑った。鮎美が悔しそうに言う。

「ぅう……カマかけおって…」

「アユちゃんの新婚生活、どうなの? ラブラブ?」

「……うん…まあ…まあ…」

 多忙で時間が無く夜より早朝に抱き合っているとは言えないし、自分の趣味嗜好で何日も入浴しないでいてもらっているとも言えない。鮎美がお茶を濁していると音羽が言ってくる。

「一応言っておくし、アユちゃんに横取りされるとは思わないけど、アユちゃんと直樹はもともと仲が良かったし地元いっしょだから黙っておくのもなんだからさ」

 そう前置きして音羽が鮎美の耳に囁いてくる。

「私と直樹、付き合うことにしたから、よろしくね」

「え?! 眠主党と供産党やのに?!」

 大きな声は出さなかったけれど、かなり驚いた。

「恋愛に党は関係ないじゃん。性別まで関係ない人が今さら驚くこと?」

「意外というか……何の前触れもなかったというか……いきなりやん」

「アユちゃんが見てないとこで、いろいろあったの♪」

「そらま、そやね。ついクラスメート気分やったけど、学校とはちゃうからね。で、いつ結婚すんの?」

「そんなアユちゃんみたいに電撃ではやんないよ。まだ付き合い始めただけ」

「ま、ボクの3年後の国民審査次第かな」

 仲良くなった男女を鮎美は微笑ましく見て国会スケジュールを終え、鷹姫と修学旅行のために夜の羽田空港に来た。最終便で関空へ飛ぶつもりだったけれど、搭乗口手前で2社のマスコミにカメラを向けられた。

「芹沢議員、明日から国会を欠席して修学旅行に出られるのは本当ですか?」

「はい」

 想定していた事態だったので冷静に答えた。

「国会議員として、本会議もある中で欠席されることについて、どうお考えですか?」

「できるだけ欠席したくないと思っていましたし、寸前まで迷っていたのですが、私の高校は修学旅行に出席しないと、大きく単位を落としてしまう教科があり、結果として高卒資格を得られないか、かなりの多数回にわたって行われる補講に出る必要があり、やむなく修学旅行だけは行かせてもらうことにしました。あと土曜の卒業式をふくめて4日、国会議員としての活動をお休みさせていただきます」

「それで国民への責務を果たしたことになると、お考えですか?」

「はい。今後、クジ引きで選出される議員にしても、衆議院議員にしても、どこまで私生活を犠牲にして議員活動を行うか、という問題に直面することと思います。この問題が今まで、産休や育休の問題を含めた女性議員の増加を阻んできた側面もおおいにあると考えますし、また男性議員の家庭生活での不在化ということも出てきます。結果として、おおむね子育ての終わった時期である50歳以上の男性ばかりという議員社会が出来上がるわけです。多くの社会経験を積んできた50歳以上の男性の国政参加は、きわめて重要ですが、彼らばかりというのは、どうでしょうか? そう考えたからこそ、無作為に選出される参議院制度が始まったわけで、幅広い年齢層と男女半々で構成される参議院においては、大学生大学院生は当然、私と同じくギリギリ高校生で当選ということもでてきます。そのとき、卒業式や修学旅行など大きな行事と国会出席が重なったときどうするか、と迷う局面も出てくる中で、最初の一歩になる自分の歩みを、非常に迷いましたが、のちのち広く開かれた国会と持続可能な議員活動ということを考えたとき、修学旅行と卒業式への参加を決めました」

 考えていた長いセリフを言い、一礼して飛行機に向かった。国内線なので身体検査だけでパスポートなどは出すことなく座席に座った。隣に鷹姫、そして周囲にSPという形になり、周りに聴かれない声で鷹姫に言う。

「思ったよりマスコミ少なかったね」

「内閣が外務大臣が抜けたことで不安定ですから、そちらへの批判と取材が多く、芹沢先生の欠席はニュースにならないかもしれません」

「微妙なとこやもんなぁ……国会と卒業式、修学旅行、どっちが大切やねん、となったとき、どっちにも理由はあるし。ま、鳩山内閣がガタガタのときでなくて、他に大きなニュースも無い時期やったら、もっと集まってたかもしれんけど、ある意味、鳩山総理さまさまやね」

「この分では関空では取材は無いかもしれません」

「そやね。とりあえず着くまで寝ておこか」

「はい」

 そう言ったものの、鷹姫は初めてのフライトだったし、鮎美も飛行機に乗ったのは家族旅行をふくめて数えるほどしか無かったので眠くなる前に、大阪の関西国際空港へ着陸していた。すでに時刻は23時前だったけれど、まだ合流するはずの他の生徒たちを乗せた修学旅行バスは来ない。陽湖からメールが来ていて名神高速道路の事故渋滞のために予定より遅くなるようだった。

「渋滞なんや、しゃーないな。ま、最悪でも飛行機が待ってくれる飛行機やし大丈夫やね。学校が飛行機を所有してるとか、すごいな。どんだけ寄付金あってんろ」

「正確には、教団の世界本部が所有している飛行機で、それを一年を通じて世界各国にある教団所属の学校に貸し出し、聖地エルサレムへの巡礼に使っているそうです」

「ふーん……いわば、うみのこの世界版のようなものやね」

「………」

「うみのこ、って名称やんね? 県内の小学校5年生を乗せて、琵琶湖を周遊して船内で一泊させる県教育事業の環境学習船」

「…はい…そうです…」

「うちは大阪府民やったから体験できんかったけど、鷹姫は乗ったんやろ? 県内すべての5年生を乗せて回るため、一年を通じて運行されてるんやし」

「…はい…」

「どうやった? 県教育の目玉事業やん」

「……大きな船です…」

「なんか、もっと感想ないの?」

「………ありません…」

「……。まあ、ええけど」

 いい思い出やないのかな、鷹姫って島の小中学校でいっしょやった同期生とは、あんまり関わらんよね、人口が少ないから10人弱のはずやけど、みんな下宿して公立高校とか行ってるし、出会うことも少ないからかもしれんけど、うみのこ事業やと、他校の小学生と人数的にも、いっしょにされたやろし、ケンカでもしたんかな、めちゃ話したくなさそうな顔してるわ、と鮎美は表情の硬い鷹姫へ、これ以上は問いかける気になれず、話題を変える。

「学園の飛行機は、どんなんやろね?」

 そう言いつつ修学旅行のしおりをめくった。

「ふーん……エアパスのA321……最大乗客220人……けっこう大きいなぁ。学年全員と先生ら、さらに、うちのSPを乗せてもらっても余裕あるやん。めちゃ手荷物を制限されてるから、ボロい飛行機やったら怖いと思ったけど、まともそうやね」

「分類としては中型ジェット機のようです」

 鷹姫が答え、二人で話ながら空港玄関あたりを歩いていても取材は無く、鮎美には多数のSPがついているので通行人のうちで日本人である者は芹沢鮎美の名を思い出したし、外国人ビジネス客や観光客たちは、いったいどういう少女なのだろう、という顔で見ていく。まだ鷹姫の顔が硬いので、鮎美は喜びそうなことを言ってみる。

「小腹が空いたね」

「はい」

「ミクドでも入ろか」

「はい」

 鷹姫と空港内のファーストフード店に入った。もちろん、SPたちもついてくるし、非番のSPはいっしょに食べる。当番だった長瀬、前田、知念は周囲の警戒にあたり、介式はこれから修学旅行中の女子更衣室利用などで、ずっと鮎美につくことになるので疲労しないよう当番であっても、鮎美の隣に座っている。

「みなさん、さすがに、よぉう食べはりますね」

 鮎美は太りたくないので軽めにミックチキンナゲットと紅茶にしているけれど、鷹姫や介式、SPたちは筋肉量の多さもあってバーガーを二つ以上食べている。ゆっくりとチキンナゲットを食べる鮎美は店のマスコットキャラを見つめた。白人少女をキャラクター化したもので壁に大きく描かれている。

「ミクドナルド・トランプか。大統領選に出るの、確実になったみたいやね」

「はい。そのようです」

「クスっ、鷹姫、唇にソースついてるよ」

 そう言って鮎美は指先で鷹姫の唇を拭くと、そのソースを舐めた。

「……すみません…」

 恥ずかしそうにする鷹姫が可愛くて鮎美はナゲットを一つ、鷹姫の口に運んだ。

「鷹姫、ミクドナルド・トランプについてわかってる情報は?」

「はい」

 返事をした鷹姫は紙ナプキンで口元を拭いて、ナゲットを飲み込んでから答える。

「14歳からアイドルとして活躍し、また経営にも優れた手腕を発揮して家業であったファーストフード事業を盛り立てています。ですが近年、チキンナゲットに異物が入っていたなどの出来事から低迷を見せています。とはいえ、いまだ世界トップのファーストフード系列であることは確かです。その低迷を補うため、不動産事業にも着手していますが、まだ結果は出ていないと聞きます。その状態で39歳のミクドナルド・トランプはアイドルとしての知名度も利用して、米大統領選に挑戦するようです。白人層から強い支持を集めていますが、黒人やメキシコ人移民層からは敵視されています。彼女はメキシコからの不法移民を追い出し、アメリカとメキシコの間に壁を造ることを公約としていますから」

「現大統領のオパマはんが黒人やもんな、揺り戻しかな」

「そう思われます」

「39歳で大統領選に挑戦かぁ、若いなぁ」

「プッ…」

 知念が笑いそうになって手で口を押さえている。鮎美は18歳の自分が39歳を若いと言ってしまったことを笑われているのだと気づいて言う。

「はいはい、わかってますよ。うちの方が子供やし。お前が言うなちゅー話やね。ミクドナルドはん、14歳の頃は可愛いけど今は、どうなんかなぁ……」

 鮎美が壁に描かれたマスコットキャラを再び眺めていると、スタッフオンリーの扉が開いてボディーガードらしき白人男性2名と、高身長の白人女性が出てきた。

「っ…まさか……本人…」

「………Ayumi?」

 向こうも鮎美に気づいた。白人女性は180センチを超えそうな欧米人らしい高身長な上、ハイヒールを履いている。そして、マスコットキャラと同じツインテールに金髪を高く結い上げていたし、ノースリーブの上着にミニスカートだった。アームカバーとニーソックス姿なのもマスコットキャラと同じで、この季節だと寒いのに、それを感じさせない季節感無視の気迫があった。明らかに最高経営責任者であるミクドナルド・トランプ本人だった。そして、鮎美に気づいて近づいてくる。

「Hi! Do you have a minute?」

 お時間いいかしら、と簡単な英語で問うてくるので、鮎美も静江や詩織ほどでないにしても英会話できるので英語で応じる。

「はい、大丈夫です」

「私はミクドナルド・トランプよ。あなたは芹沢鮎美かしら?」

「はい、そうです。はじめまして」

「ああ、やっぱりそうなのね。はじめまして。会えて嬉しいわ」

 ミクドナルドが握手を求めてくる。彼女が鮎美に接近するまでには当番SPと、彼女についている白人ボディーガードとの間に強い緊張感があった。ミクドナルドが連れているのは私的なボディーガードのようで、さすがに日本国内で銃は帯びていないけれど、元警察か、元米軍という雰囲気だった。鮎美は屈託無く右手を出した。

「こちらこそ、光栄です。アメリカ大統領選挙に挑戦する人が、こんなところで何を?」

「あら、私は経営者でもあるわ。とくに空港にあるお店は、その国での私たちの顔なの。それをチェックして回るのは当然の仕事なのよ。でも、その仕事は今日で終わり。経営は他の人に任せて大統領選への準備に入るわ。そんな話より鮎美に会えて、とても嬉しいわ。あなたの考えた連合インフレ税、とても素敵よ。私が大統領になったら大賛成するわね」

「それは、どうも、ありがとうございます。けれど、大富豪から見ると反感を持ちませんか?」

「いいえ。たしかに通貨価値が実質半減するのはダメージであるけれど、あなたも言っている通り、私たちのような飲食や不動産といった紳士な商業にはプラスも大きいの。きちんと申告している企業は恐れることはないわ。恐れているのは、裏でお金を動かしている連中よ。だから、タックスヘブンに逃げている資金へ、きちんと課税されないと、私たちのような真面目な企業へばかり課税されて、日本でも消費税の増税が繰り返されそうな勢いでしょ。だからこそ、連合インフレ税には大賛成なの。あなたの言うベビーインカムや欧州で言ってるベーシック・インカムは消費を喚起するから、大賛成よ」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

 どうしても英語で対応するため、鮎美は語彙が少なくなってしまう。ネイティブの英語を聞き取るだけでも大変だった。

「ねぇ、鮎美、あなたと二人きりで話がしたいわ」

「え……二人だけで、ですか…」

 鮎美が戸惑うと、ミクドナルドが妙に気を回した。

「誤解しないでね。私は異性愛者よ。政治の話がしたいの」

「そういうことですか……」

 鮎美は介式へ日本語で問う。

「介式はん、うちから離れられる? この人と二人で話したいし」

「私は英語が苦手だ。どういう話の流れになっているのか知らないが、芹沢議員から離れることはできない。そもそも公式な会談でないのだから、似ているというだけで本人でない可能性もある」

 介式の口調でミクドナルドは日本語が理解できなくても内容を察したようで、アメリカ人らしい大袈裟なジェスチャーで肩をすくめた。

「いいわ。残念だけど、私のプランは、まだ秘密にしておくわ。私も鮎美のように世界を大きく変えるプランを考えたのだけれど、まだ言わないことにする」

「それは…………」

 鮎美が猛烈に聴きたそうな顔になると、ミクドナルドは微笑して前屈みになる。鮎美とミクドナルドには頭二つ分ほど身長差があり、屈むとようやく同じ高さになる。二人の顔が近づき、黒髪へ金髪が触れた。そして小声の英語で囁いてきた。

「鮎美はお金、紙幣で世界を変えるみたいね。でも、私は武器、核兵器で世界を変えたいの。あと、これは私見だけど、アメリカは日本の防衛を負担しすぎね。私が大統領になったら、在日米軍は大きく減らすつもりよ」

「……核で……世界を……」

「また会いましょう。そのとき私は大統領になっているわ。あなたは、どうなっているかしらね」

「………ご健闘をお祈りします」

「ありがとう。あと」

 そこまでは英語で言ったミクドナルドが覚えている日本語で言う。

「当店をご利用いただき、ありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております。お肉もシェークも、みっくみっくにしてあるよ♪」

「ははは…」

 短い会談が終わり、鮎美は冷めたチキンナゲットを食べきる。日付が変わる頃になって関空のバスターミナルへ、修学旅行バスの列が到着した。

 

 

 

 

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