あくやくれいじょうはなかまをてにいれた

「ハンナ?」



私がおそるおそる声をかけるとハンナは我に返ったように目をパチパチさせた。

それから再びページをめくり始めた。



「お嬢様、これをお借りしても構わないでしょうか」



「いいけど…何に使うの?」



「目に焼き付ける時間が欲しいのです」



親バカならぬ侍女バカなのか。幼女の描いたクロッキーがそんなに微笑ましいか。いや、これは逆にチャンスか。



「好きなの持ってってもいいよ。その代わりこれからもハンナのことを描かせて欲しいっていうのとハンナのことをもっと知りたいっていうお願いを聞いて欲しいな」



「その程度でよろしいのですか?」



ハンナがキョトンとした顔をした。それから熟考するようにページをめくっては戻した。



「ぜん…5枚目でお願いしてもよろしいでしょうか」



今全部って言いかけたよね。別に全部持ってってもいいけど1枚しか選ばないとはハンナはなかなか慎ましやかな性格なのかもしれない。

私はハンナからスケッチブックを返してもらい、ナイフを取り出すとハンナが変な声を出した。



「お嬢様?!そんな危ないものをどこに隠してお持ちになっていたのです!」



「腰のリボンのところ。ポケットの代わりにちょうどいいの。あ、鉛筆削り用のなまくらだから心配しなくても大丈夫」



鉛筆削り用だけどしっかり綺麗に手入れはしてるけどね。削りかすを拭かずに放置したカッターの切れ味の悪さは悪夢だ。このナイフは長く大事に扱いたい。

スケッチブックから1枚目と3枚目、5枚目を切り離してハンナに手渡す。1枚目と3枚目はサービスというか事前投資だ。



「これからも一緒にお茶しようね」



「喜んで」



ハンナがなかまにくわわった ▼



そろそろハンナの休憩の時間なのでハンナとのお茶会はお開きにして私は部屋に戻った。


スケッチブックを開き、人間の女性の素体を正面、背面、側面に分けて描く。素体に現在の侍女の制服を記憶を頼りに描く。うん、地味。

前世でいうメイド服は黒地に白いフリルエプロン、ヘッドドレスが定番だった。現在の侍女の制服は模様も飾りもなく、首元や手首がしっかりと覆われたモスグリーンのワンピースだ。

これは伝統的に公爵家の使用人のみが着用を許される色だという。侍女の制服は男爵家、子爵家、伯爵家、侯爵家、公爵家の順に黒、赤茶色、茶色、灰色、深緑色となっており、辺境伯家と王家は別枠でそれぞれ赤と紺だ。

つまり公爵家である私の家の新侍女制服のベースカラーは深緑にしなければならないということだ。

まずは型だ。手元がすっきりしたほうが作業をしやすいのはわかる。しかし現在のものの肩から手首までぴっちりさせるスタイルはいかがなものだろう。見た目も地味で可愛くはないし、窮屈そうだ。

そこで肩をふんわり膨らませ、袖もぴっちりではなく少し緩めに、袖丈を短めにして手首のあたりをぴっちりにした。手首には白地の折り返しをつけることを忘れない。レースもつけたら華やかだ。襟も詰襟からバリモアカラーのように長く白い襟をつける。襟の先に何か刺繍があってもいいかもしれない。ついでにブローチ付きのスカーフも。

もちろん白いフリルエプロンは必須だ。

今の制服を改造してもいいのだが改造するには難しいし生地から選びたい。

今度布の専門店まで行ってみよう。いや、仕立て屋でもいいかもしれない。仕立て屋なら店員さんと話せばもっと細かく作り込めそうだしハンナのサイズも把握できるかもしれない。

私はスケッチブックを閉じると外出の許可を取るためにお父様の書斎に向かった。

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