悪役令嬢はお近づきになりたい

私はヴォルグ様の肖像画をカルトンの中にしまうとスケッチブックを持って庭園に向かった。今度はちゃんと鉛筆を持って。

庭園には様々な植物が植えられており、それらを丁寧に世話する庭師がたくさんいた。

私はバラが植えられている場所にある二人用の小さなテーブルセットに腰を下ろすと、後ろからついてきていたハンナに紅茶を二つ淹れるように頼む。

ハンナは一度下がると、魔法のティーポットとティーセット、お茶受けを乗せたカートを押して戻ってきた。

ハンナが紅茶を淹れ始めたのを見て私はすかさずスケッチブックを開いてその様子を#速描き__クロッキー__#する。ハンナは手際がいいので一つ一つの動きが早くて描き留めるのが難しい。なかなか勉強になりそうだ。

私はハンナの動きを線で追う。ティーポットに手を添えるハンナ、スプーンで茶葉を投下するハンナ、そしてメインはティーカップに紅茶を注ぐハンナ。



「後でどなたかいらっしゃるのでしょうか」



「そうじゃなくてハンナの分。向かいに座って」



「恐れながらお嬢様」



「いいから早く座って!冷めちゃうじゃない!」



私はハンナを強引に座らせると再び鉛筆を握る。しかし、ハンナはなかなかお茶に口をつけない。私が先にお茶を飲んで見せてもだ。

どうやらハンナは私と同じ席でお茶を飲むことが恐れ多いことだと思っているようだ。まあ、雇用主の娘だしね。

どうしても飲みたくないのなら私には考えがあるのだよ。



「ハンナ、ティーカップを持ち上げて」



「こうでしょうか」



「そうそうそのまま止まってて」



私はティーカップを持ち上げるハンナのクロッキーをする。



「あの、先ほどからお嬢様は何を」



この質問を待っていたのだよハンナ君。



「ハンナを描いてるの。紅茶を飲んでる姿も描きたいから一緒にお茶してくれないかしら?」



「…そういうことでしたら喜んで」



ハンナは少し迷うようなそぶりを見せたが了承してくれた。

実はクロッキーはハンナと一緒にお茶をする口実でしかない。私は野望のためにもハンナと仲良くなりたいのだ。

ハンナは美人である。少し地味ではあるがメイド服である。

お分かりいただけただろうか。

そう、美人メイドだ。素晴らしい被写体を前にして写真を撮らない写真家がいるだろうか。それと同じだ。私はハンナを着飾らせてモデルにしたいのだ。

そのためにはまず仲良くなってスリーサイズを失敬せねばならない。決していやらしい意味ではない。断じてない。



「できたよ」



私はスケッチブックを一番はじめのページに戻してからハンナに渡した。



「一枚目からティーポットに手を添えるハンナ、スプーンで茶葉を投下するハンナ、ティーカップに紅茶を注ぐハンナ、ティーカップを持ち上げるハンナ、最後に優雅にお茶を嗜むハンナ!」



スケッチブックを受け取ったハンナが固まった。お気に召さなかったのだろうか。

しばらくするとものすごい勢いでページをめくりだした。

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