安らぎの十字架
ほら。あそこに、安らぎがあるよ。
そういって兄さんは、西洋人の墓を指差した。
みんな、古来からあそこに安らぎを求めたんだよ。
世俗的に見れば、私は社会不適応者であり就労していない、
いつ施設にぶち込まれるかわからない危うい身分だ。
しかし、私は実相の立場から見ればニルヴァーナ一歩手前にいる。
苦労に苦労を重ね、ここまでたどり着いたんだ。
誰も、たどり着くものなどいないのに。
そもそも、夜が明けてみれば、ありのままのが悟ってるって気づいただけだった。
すべてのものが知性を持っており、動物も植物も鉱物も、みんなそれぞれに一生懸命生きる存在であった。
万象が悟っていた。
幾度となく生まれ変わってきた。
これからも幾度となくうまれ変わるだろう。
現象としての不幸や輪廻が消えることはない。
しかし、それに対する態度は変えれる。
月女よ! 暗黒の母よ!すべての物質に知性、渇望として宿る女神よ!
思えば、女性が優しくて平和を好むなんて思想に疑いを抱かない時期もあったな。
女!
下等な生き物さ。しかし、その下等な生き物がいなくては一刻も生きる意味を感じれない自分がいた。
もうここらでいいかい。
もう十分生きたろ。
自我の切腹を果たすときだ。
運命よ!ありがとう。
それにしてもなんてすばらしい人生だったんだろう。
走馬灯のように、わが人生を振り返った。
苦しみと痛ましさに満ちていた。
直視するとロトのように石になってしまうから、振り返るのはやめた。
思い出した。
私は、自分の家族、そして友人や周りの人たちを導き鼓舞するために、
解脱してから戻ってきたんだ。
そして、今、みんなのなかにいて調和し溶け込んでる自分がいる。
客体の光と合一し、勝義の光明が見える。
来い!わが正午よ!
思考も自我も本能も、全部、本能だったんだ!
本能の中に、本能を妨げることなく、統合された自我と思考。
闇に落ちていく。
傷に戻っていく。
歯のついた膣に飲み込まれる!
キリストやディオニュソスやヘラクレスのように、黄泉より戻ってきた。
見た目は変わっていない。
けど、何かが違う。
兄さんが聞いてきた。何か?
ううん。何でも。
闇という女をしり、それを直視し、そこにとどまり、闇の生き証人となった人類史上千人の超人たちの足跡が、私を出迎えてくれる。
後、もう少しだ。
私は喀血し傷口を抑えながら山道をのぼっていった。
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