第6話

詩書きの死



 「僕は言葉のことを誰よりも愛していたのに、言葉は僕のことを愛してくれなかった」


 走り書きの文字と一冊の日記帳を遺して、侘しい詩書きは逝ってしまった。僕は彼の遺灰を少しだけポケットにくすね、ブルーブラックのインクに混ぜて、彼の日記帳の続きを書いた。


 「君は言葉のことを誰よりも愛していたからこそ、言葉に愛されなかったんだ」


 僕はそのページをおもむろに破り、ちいさく手折って檜の木陰に差し込んだ。いずれ秋風がひどく華奢な言葉を連れて、彼に手紙を届けるだろう。残りのインクはそのへんに振りまいておいた。


 次の日にもなると、そんなことはもうすっかり忘れてしまっていた。

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