第4話 丸底フラスコに恋をして

 「ねえ、飽きた」

唐突に口を開いたのはミル。

レナが横になりながら返事をする

「仕方ないでしょ。捕まっているんだから」

「それはそうだけど」

俺たちは今、牢屋にいた。疑いが晴れるまでここにいなければならないらしい。

「しっかし、いつになったら出られるんだ?リク、いつだと思う」

「知るかよ。でも、俺たちをここに連れて来た兵士は散々道に迷っていたからな。国内でも牢屋の存在が知られていないんじゃないのか」

つまり、王様さえもここの存在は知らないがあの兵士たちは誰かからの口伝でこの牢屋を知っていて俺たちを連れて来たと。

「なるほどな。そうなると出る答えは一つだ。はい、レナ答えて!」

「―このまま忘れられて出してもらえない」

「正解!」

ミルは半泣きになる

「そんなの嫌だよ~」

もちろん俺もいやだ。でも、都市伝説だと思っていた牢屋が本当にあったからとりあえずこいつらを入れておこう、みたいなノリでさっきの兵士たちが俺たちをここに入れたのなら。まず王様は助けてくれない。

「ミル、呪文でどうにかして」

「ううっ、どうにかしてと言われても。勇者の魔法でどうにかならないの」

「俺の呪文じゃこの状況はどうにもならないよ。魔法使いの方が高度な呪文を使えるでしょ」

そう。勇者と魔法使いでは呪文のレベルに雲泥の差がある。

「そういわれても・・あっ、そうだ。チーズトロトロぐにゃぐにゃぼん!」

一見、何の変化も無いが・・

「何かした?」

「鉄格子をチーズに変えてあげました。さあ、魔王の出番です」

よいしょっ、と、ケージから魔王を取り出す。

「さあ、鉄格子を食べてあげなさい」

言い終ると同時に魔王が鉄格子を猛烈な勢いで食べ始める。

カジカジカジ・・・

「うん、良い食べっぷり」

食べ終わるのを待つ間は暇である。暇なので必然的に実況が始まる。

「さあ、始まりました”鉄格子早食いチャレンジ”。私は実況を務めるミル、そして解説者のレナさんです。レナさん、今日はよろしくお願いします」

だが、レナは魔王が鉄格子を食べる姿に両肘で頬づえをついて見とれている

「かわいい」

「えーっ、レナさんが仕事を放棄したので私が一人で進行いたします」

ミルが身振り手振りを交えて実況を行う

「いや~かわいいですねえ。そして早い!あっという間に格子が消えていきます。

そして今、フィニッシュ!!記録1分30秒!流石ですね」

俺は伸びをして口を開いた

「それじゃあ、王様の所へ行きますかね」

オー!と拳を突き上げる一同。

 以前、宿屋や武器と防具の人としか関わっていないという話をしたが、実のところこの城の要人と王様には面識がある。なので「俺たちは以前この国を救った者だ。王様に面会したい」と城の兵士に伝えると覚えていてあっさりOKしてもらえた。たぶんさっき捕まったのは、門番の兵士が新人で俺たちが勇者であると知らなかったからだろう。

王様は俺たちの姿を認めると破顔した。王様はいまだに俺たちが捕まったことは知りません

「よく来たな」

俺は笑顔で返答する

「お久しぶりです。国の警備が以前よりも厳重ですが何かあったのですか」

王様は顔を曇らせた

「―実はな・・」

王様の話によるとこの頃毎晩のようにフランケンシュタインが城へ来て暴れ回るらしい。そのため襲撃に備えて必要以上に厳戒態勢になったらしい。だとすると俺たちが捕まったのも門番が俺たちをフランケンシュタインの仲間だと思ったせいか。この世界ではフランケンシュタインはゴーレムよりも知能が高い。ゴーレムが絶対服従なのに対してフランケンシュタインは自我が強いため反抗することがある。だとしても何故この国を襲うのか

「分かりました、俺たちがそのフランケンシュタインを倒しましょう」

「そうか、やってくれるか」

「任せて下さい」

 夜まで宿屋で談笑する。そうして門の外でフランケンシュタインが来るのを待つ。

レナがフランケンシュタインを見つけた

「来ました」

つぎはぎだらけの体に頭のボルト、間違いない。手に持っているのは・・マジックハンドか?

フランケンシュタインは意味不明な言を言っている

「ガラス・・ガラス・・」

ミルが首をかしげる

「カラス?」

レナが突っ込む

「ガラスでしょ。それでもこの状況では意味不明だけど」

「何か作りたいのかねえ。リク、捕まえてこい」

「え?いや、でも・・」

「何だ?ビビったのか」

「違うけど・・」

「なら、行って来い!」

リクの背中を押す

「わっとっと」

リクが前のめりになりマジックハンドに捕まった。

俺は思わず「あっ」と言ってしまった。

フランケンシュタインはくるりと向きを変えてそのままリクを連れ去ろうとする

「待て!そいつをどこに連れて行くつもりだ。勇者の力を見せてやる」

精神を集中させる

「くらえ、ヴァンパイア・イリュージョン」

全身から放たれた光が相手を包み込む。この呪文は相手を吸血鬼に変える。そのあとで十字架で止めを刺すのが俺の必勝戦法。ちなみに、人間相手でも普通に有効なのでいたずらにつかうのは止めましょう。俺が使える呪文はこれと日常あるあるを想像させて感情を操作する呪文だけ。やっぱり万能な魔法使いには敵わない。

リクが怒鳴る

「待て、お前!」

吸血鬼になったフランケンシュタインはリクの腕にがぶりとかみついた

「ぎゃあ、痛い!!」

「やばい・・」

それはね、目の前に生き物がいたら血を吸うよね。特にこの呪文で変身させられた直後はそれまで満腹でも空腹になるし。

ミルが怒る

「何やっているんですか、まったく」

今度はミルが精神を集中させる

「くらいなさい、ハムハムドリーム!!」

再び光が包み込む。これも見たこと無い呪文だ。

「この呪文は?」

「相手にハムスターと戯れる夢を見せます。これで力が緩んだ隙にリクを救出します」

なるほど。これなら相手も安らぐわけだ。安らぐはずなのだが・・?

俺は首を傾げた。

「? あいつ、苦しんでいないか」

ミルも不思議そうだ

「まさか。この呪文で苦しむはずは・・本当ですね」

フランケンシュタインはもだえている

「・・浮気は嫌だ。嫌なんだ・・」

フランケンシュタインの姿が次第に薄れていき最後には消えた。

リクがふらふらとこちらへ来る

「リク、大丈夫か」

俺が駆け寄ると頭にげんこつを食らわされた

「痛い」

「あほかお前は。味方が捕まっている時にヴァンパイア・イリュージョンを使うな」

レナが目を丸くする

「吸血鬼に噛まれて平気なの?吸血鬼になっていないの」

「ああ、そういえば今まで噛まれたことないか。解毒呪文を使ったから平気だ。ミルの呪文と重なって気づかなかったか?俺も簡単な解毒ならできるからね」

「とりあえず、今日はもう帰りましょう?フランケンシュタインは消えたし、情報収集をしないと次に進まない」

俺たちはミルの意見に賛成して宿屋へ戻ることにした

 翌日の昼下がり。俺たちはフランケンシュタインに関する情報を集めるために城下町を散策していた。すると男性二人組がこんな話をしていた。

「あのフランケンシュタインにも困ったものだ」

「毎晩襲撃に来るやつか?」

「そう。お前、どうして奴が来るか知っているか」

「いや、知らん」

「知り合いに奴の過去に詳しい旅の商人がいてな。その商人が言うには奴は丸底フラスコに恋をしていたらしい」

「丸底フラスコに?」

「うん。まあ、あれはきれいだからな。で、その商人が数日経ってから奴の根城にもう一度行ったらその丸底フラスコが壊れていたらしい」

「誰かが忍び込んで壊したのか」

「たぶんな。奴は壊したのが一番近い位置にあるこの城の関係者だと思い込んで毎晩奇襲にくるらしいぜ」

「はた迷惑な話だな」

全くだ、と頷いた。

レナが挙手をした

「なるほどね。それなら私の回復呪文で直してあげればいいですね」

俺は頷く

「それはそうだけどね。奴の根城がどこにあるか分からないからな」

「じゃあ、あの人たちに聞いてみようか」

とことこと階段を下りて俺が声をかける

「あの、すみません」

「なんですか?」

「フランケンシュタインの根城ってどこですか」

途端に男性2人の顔が曇る。そっか、盗み聞きされたら嫌だよね

「盗み聞きしてすみません、ハムスターも聞きたいそうなので教えて下さい」

今までは小型のケージを頭の上に持ち上げながらリクが運んでいたのだが、持ち運びやすさと魔王の幸せを考えて中ぐらいのペット用のキャリーバッグで飼うことにしました。中はおがくずいっぱいで魔王も大喜び。どちらが飼うかでミルとレナがちょっと喧嘩したがミルにはドラゴンがいるためレナが飼っている。そんなわけで魔王を取り出すとハムスターは直立したまま「はむ?」と鳴いて首をかしげる。

更にびっくりする男性2人。しまった、逆効果か。

「わかりました、教えますよ。フランケンシュタインの根城は―」

 あの二人が場所を知っていてよかった。フランケンシュタインの根城はこの城から少し行った巨大な洞くつの奥。そうして俺たちは今その入り口に来ている。

リクが拳をあげる

「それでは、レッツゴー!」

中は驚くほど何も無かった。ただ土壁が続くだけ。きれい好きなのか?いい子だな。

しばらく歩くと鉄の扉が現われた。

リクが拳に力をこめる

「この奥に、フランケンシュタインが・・」

でも、俺はあくまでも平常運転

「開けるよ、せーの」

簡単に開いた。扉と言うよりはドアなのか。

リクが更に力を込める

「フランケンシュタイン、覚悟・・」

全員、言葉を失った。

「フラスコ、フラスコよ!!なんで壊れたんだ。俺は毎日欠かさず君を磨いたのに。俺が君に何かしたか?ああ、どうしてだ。俺は君がいないとダメなんだ」

・・・これだけ大切に想っているのならハムスターと戯れるだけでも苦痛になるだろう。それで浮気は嫌だと苦しんでいたのか。吸血鬼になっても恋心が消えないとは。本当にいいやつだね。

何にしても丸底フラスコを直してあげよう。泣き崩れる様を見る趣味はないし、この光景は申し訳ないが少々怖い。そうそうに帰らせてもらおう。

俺は指示を出す

「レナ、よろしく」

「任せて下さい」

だが、フランケンシュタインはこちらに気づくと辺りをきょろきょろと見渡した。マジックハンドを探しているのかな?

リクが叫ぶ

「レナ、急いで」

「はい」

光がフラスコの破片を包み込むと、フラスコは完璧に修復された。

俺は声をかけてあげた

「ほら、丸底フラスコは直ったぞ」

フラスコに駆け寄るフランケンシュタイン。

「よし帰ろう」

なにしろ、フランケンシュタインは丸底フラスコにハグしている。邪魔しない方が良いだろう。

城へ直行すると王様は寝ていたので翌日に改めて訪れた。

 「よくぞフランケンシュタインを討伐してくれた。何か褒美をやろう」

俺たちは人探しをしていることを伝えた。

「それならば、ミモールへ行ってみると良い。あそこなら腕のいいファッションデザイナーがいるはずだ」

ミモールはこの世界でもっともおしゃれな街だ。確かにあそこなら腕のいいデザイナーがいるかもしれない。俺たちはお礼を言って城を後にした。

それでは、ミモールに向かってしゅっぱーつ!































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