短編集

姫川翡翠

幸と不幸

「ぼくは君と不幸になりたい」

 あなたは言った。

「わたしはあなたと幸せになりたい」

 わたしは言った。

「どうして幸せになりたいの?」

 あなたは訊いた。

「いけないの?」

 わたしは訊いた。

「幸せはつらいよ」

 あなたは答えた。

「幸せはしあわせだよ」

 わたしは答えた。

「不幸は楽なんだ」

 あなたは教えてくれた。

「幸せは楽しいよ」

 わたしは教えてあげた。

「幸せには限界があって、人はいつか必ず不幸になるんだ。そして幸せであればあるほど不幸がつらくなる。だったらはじめから不幸でいいじゃないか」

 あなたは諭した。

「幸せには限界なんてない。少し幸せかとても幸せのどちらかだよ。不幸になんてならない。ならなくていい」

 わたしは諭した。

「幸せにだって、人は慣れてしまう。いつも幸せでいたら、そのありがたみに気づけない。不幸でいれば小さな幸せにいつだって感謝できる」

 あなたは反論した。

「いつも不幸だなんて思いながら生きていたら、いくら探しても小さな幸せなんて見つけられない。ましてや大きな幸せになんて出会えない」

 わたしは反論した。

「また決着はつかなかったね」

 あなたは笑いかけた。

「そうだね」

 わたしは笑いかけた。


 こたえが出るまで、一緒にいようか。

 

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