意識不明──赤井葵

 テストが終わり、放課後の教室は歓喜の声で溢れていた。


「やっとテスト終わった! 葵ーわたしも部活ないし、早速みんなとカラオケいこ!」


 このテンションの上がった声の主は……もちろん結衣だった。


「ごめん。今日はちょっと無理かも。最近寝不足で体調悪くて熱っぽいし……それよりも結衣テスト大丈夫だった?」


 結衣との約束に遅刻したのを悪いと思ったわたしは、その日の夜と次の日の夜、結衣に電話をして数学などを教えていた。

 今回のテスト範囲は複雑な応用問題が多い。さすがに2時間だけの勉強では心もとなかった。

 でも、夜に勉強したせいか湯冷めして風邪をひいてしまったようだった。

 体調を崩したのは自業自得だ。今日も本当は微熱があったけどテストなので無理をしてきていた。


「そっか……早く治してよね。テストは葵に教えてもらったから大丈夫。ありがと!」

「ありがと。みんなとのカラオケ、わたしの分まで楽しんできてよね」

「もちろん! たくさん歌うぞー」

「結衣って意気込みだけはあるんだから。そろそろ帰るね。また明日」

「また明日!」


 結衣に手を振ると、わたしは教室を出て靴箱へと向かった。

 廊下に出ると足早で部活へと急ぐ人、今回のテストについて話している人で混雑していた。

 数学の最後の問題解けたー? 全く解けなかった、やっぱり数学難しいわー。

 風邪をひいたわたしには周りの話し声が頭にガンガン響いて痛かった。



 わたしの家は学校の目の前にある駅から3駅分離れた青空駅という場所の近くにある。近くといっても10分くらいは歩かなければいけない。

 学校を出て100mほど歩くと電車の駅がある。駅までは一本道になっているので、わたしの学校の生徒が歩くのを目にすることが多い。

 学校前の駅は白を基調とした比較的新しい外観だ。学校が出来た時にその記念で駅も作られたと聞いている。

 学校前の駅に着くと軽い吐き気がした。微熱の影響だろう。

 何とかして、駅の前に置いてある自動販売機でスポーツドリンクを購入する。

 蓋を開け、口に冷えたスポーツドリンクを流し込んだ。


「何とか収まった……」


 一人で呟き、安堵する。


 駅の改札を抜け、ホームで電車が来るのを待っていた。

 駅のホームにはテスト終わりの高校生が大勢いた。

 この電車は上りの終点まで行くとショッピングセンターや映画館、カラオケなど比較的施設が整っている街へと出る。

 多分この人たちは今から友達と遊びに行くのだろう。わたしはもっと体調管理しておけば良かったと少し後悔した。

 メールを確認しているうちに電車がやって来た。車内には高校生が多く、混雑していて座れそうにない。仕方なくつり革に手をかけ電車に揺られる。

 自宅から最寄りの駅に着いたところで電車を降りた。

 混雑していて空気が悪い中電車に揺られてたからかすこし頭が痛くめまいがする。でも、駅に留まることは出来ない。

 わたしは仕方なく家を目指すことにした。

 駅を出るとよりいっそう頭が痛くなり、視界に映っている街路樹がゆらゆら揺れる。

 このままではまずい。

 帰り道にある公園ですこし休憩することにした。

 空を見上げると灰色の雲が空を多い尽くしている。今にも雨が降り出しそうだ。

 そのためか、公園には普段遊んでいる子供たちもいないし犬の散歩をしてる人もいない。

 少し休憩して帰ることにしよう。

 視界が揺れるのをなんとか乗り切りわたしはベンチに座った。



「赤井さん、大丈夫か?」


 どこからか声が聞こえる。

 目を開けると白い肌に際立つ黒髪、そして、どこか寂しげな瞳。

 そこには細川君が立っていた。


「細川君? なんでここに……」


 尋ねているうちにまた意識が飛んでいく。もはや細川君の瞳によるものなのか、熱によるものなのかもわからない。


「なんでって赤井さんがここで寝てるから」


 どうやらわたしはいつの間にかベンチで眠ってしまったようだ。

 そしてまたいつの間にか意識を失っていた。

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