偽装学級 -卒業ー

@inori0624ayagi

第1部 通りすがりの殺人鬼

卒業を間近に控えた1月。

雪も本降りで寒い。靴下2枚履きしないと足が凍るレベルだ…


俺は北海道桜川高校に通う3年生、 吉仲 晴太(よしなか はるた)。

桜川高校はなかなかの田舎高校で、外部受験はまず珍しく集まるとすれば地元の人間。


全学年1クラスずつしかない。俺のクラスは15人だし他の高校と比べれば少ないほうだと思う。

その分、すげー平和な高校生活だったけどね。


ーーただ、このクラスには1つだけ気になることがある。

「3年A組裏情報☆」まあ、所謂いわゆる裏サイトってやつだよね。

こんな田舎高校にそんな裏情報存在すんのかよって感じだけど(笑)


でも無事大きな問題もなくここまで来れたから、あとは卒業して彼女と大学でラブラブキャンパスライフを送るだけなんだよなぁ…


「晴太、鼻の下伸びてるよ(笑)」


笑いながら現れたのは 秦 蒼佑(はた そうすけ)俺の大親友。

幼稚園からずっと一緒で腐れ縁みたいなもん。すげー温厚で怒っているのを見たことがない。最近はもっぱら推理もの?サスペンス?が好きらしくていつも小説を読んでいる。頭の回転が速い。

「あ、ばれた?(笑)」


「おーい!おっはよー!」

「おはよう!」

仲良く2人で駆け寄ってきたのが俺の大好きな彼女 安西 ゆみり(あんざい ゆみり)と その幼馴染の 街田 朱里(まちだ あかり)。

朱里は元気印って感じで常に明るく、流行に敏感なイマドキ女子。ゆみりはフワフワ系の雰囲気を纏っていて気遣いのできる優しい子だ。


いつもはこの4人で自然に集まって行動している。


「最近、授業も卒業に向けての話ばっかでつまんないよねー。」

と朱里が机に伏せる

「あはは、しょうがないよ~ でも少し刺激は欲しいよね」

ゆみりが朱里をなだめながら言う

「何か面白いニュースとかないかな~イケメン俳優電撃婚!とか」

「UFO発見!とかね」


午後の休み時間で眠たそうに話す2人を見ながら、この光景もあと少しか~なんて柄にもなく寂しくなる晴太。


放課後は大体4人ともバイトか部活かで、奇跡的に4人とも休みが合えばカラオケに行くのが日課。

今日はその奇跡的な日なので、もちろんカラオケに行ってファミレスでゆっくりしているところだ。



「ねえ、もうそろそろ卒業なのに近さん、来ないよね。」

としんみりした顔で朱里が言う。


近 梓(こん あずさ)は3年生に上がってすぐ、不登校だ。

なんでも心を病んでしまっているらしく、隣町の大きい病院まで通院しているらしい。

電車に乗っているのを俺も見かけたことがある。


「梓ちゃん、大丈夫かなぁ…学校では普通にお話ししたのにな。卒業式も来ないのかな…?」

ゆみりはみんなと仲良くできるようなタイプで、聞き上手だ。

あまりクラスに馴染んでいなかった近さんとも、よく話していた。

ゆみりの分け隔てなく接する態度に、近さんも心を開いていたらしい。

俺もゆみりのその性格が大好きだ。惚気じゃないぞ。



「さすがに卒業式近くなったら先生も家庭訪問したりするんじゃないかなぁ」

「そうかな~あのセンセー、案外のんびりしてるからわかんないよ~?」

「そういえば俺朱里に聞きたいことあったんだけど、ド忘れしたんだよね」

「何それ!気になる~!思い出してよ!!」


くだらない話題で、みんなで笑う。

こんな変哲もない日常だけど、このメンバーに出会えて幸せだなーとつくづく思う。

卒業、寂しいなぁ。




…なんて考えていた俺は呑気だったんだ。あんなことが起こるなんて、思ってもいなかったんだ―――――



ある日の昼休み、”それ”は突然起こった。


「えっ!ねえみんな見て!うちらのクラスの裏サイトが更新されてる!!」

突然校内一のギャル 古田 ユリ(ふるた ゆり)が叫びだした。

裏サイト…?あぁ、あったなそんなの。


「え~!ユリ、なんて書かれてるの?」「私にも見せて」

ユリの取り巻きともいえる二人 木村 紗枝(きむら さえ)と 持田 祥子(もちだ しょうこ)が駆け寄る。


「何でいきなり裏サイトなんて見たんだ?」

俺が素直な疑問を投げつける。


「だってもう卒業だしさ、裏サイトって前から話題にはなってたけど動いてなかったし、気になって今朝見てみたんだ~!」

ユリは気になっていた裏サイトが更新して凄くワクワクしている様子だ。


「なになに、え~っと… 

投稿者:『通りすがりの殺人鬼』だって!あはははは!何この名前!ダサッ!

はははっ…えっとなになに?

『卒業まであと少しですね。そこで卒業を記念してこれから毎日みんなの裏情報を更新していこうと思います。ぜひ、通知オンにしてお楽しみください。』

だって…!よかったじゃん朱里!これで退屈しないで済むんじゃない?」

朱里が退屈そうにしていたことを言っているんだろう。


「バカ言わないでよユリ(笑)そんなニュース求めてないって」

朱里とユリが笑いながら話す。


「あ、ねえもう更新されてるよ?」

気になっていたのか、ゆみりがスマホを見ながら言う。

それにしてもタイムリーな更新だな。


「何か物騒なこと書かれてるよ?

投稿者:『通りすがりの殺人鬼』

『今夜、このクラスの誰かが殺されます。』

…だって。でも殺すってどうやって?」

裏情報とかではなく、いきなりの殺人予告に一瞬空気が張り詰める。


「やだな~ゆみり、こんなの本気にしないほうがいいよ!ただの遊び感覚でしょ~

アタシたちも遊び感覚で更新見ていこうよ(笑)」

「えー…本当だったら怖くない…?」

「ゆみりってば超怖がりかっ!大丈夫だって(笑)」

少し怯え始めるゆみりに励ますように朱里が笑う。


「え、でもさ…ゆみりちゃんの言う通り、これ本当だったら…どうするの…?」

クラスでも大人しくあまり発言をしない 小松 加奈子(こまつ かなこ)が話し出す。


「もし…今日本当に誰かが…殺されたら…?一応先生に言っておかなくていいのかな…」


「大丈夫だろ、加奈子今日は一緒に帰ろうぜ!でもなんかこの投稿キモいし、家まで送るわ」

加奈子の彼氏である 室谷 将太(むろや しょうた)は見た目はチャラ男の雰囲気を醸し出しているが、実はチャラくなり切れない、根は真面目ないい奴だ。


「ごめんね、ありがとう…!将太」

飛び切りの笑顔で言う。将太曰くあれが「天使の笑顔」らしい。

「あぁ…可愛い…」

将太は今にも天に召されるようだった。


「もう完全に2人の世界だな」

「だね」

俺と蒼佑は呆れながらも羨ましい気持ちでいっぱいだった。


「まぁイタズラに過ぎないと思うけど、俺はゆみり送って帰るよ」

「そうした方がいいかもね、俺は朱里送っていくよ」

「サンキュー蒼佑」

こうして俺はゆみり、蒼佑は朱里を送って帰ることにした。


―――――――――


「送ってくれてありがとう、晴くん」

「おう、また明日な あんま考えるなよ?」

「うん、晴くんも気を付けてね?」

「わかってるって。すぐ家入れよ!」

俺はゆみりのおでこに軽くキスをして駆け足で帰った。


その夜、4人のグループメッセージの通知が鳴った。

朱里『みんな大丈夫?』

晴太『おう、俺はもう寝るだけー』

朱里『よかったぁ、アタシも!ゆみりと蒼佑は?』


ーー10分後

朱里『おーい、蒼佑、ゆみり?』

蒼佑『ごめん、風呂入ってた』

ゆみり『遅れてごめんね、ご飯食べてて…今から弟塾にお迎えに行くよ!』

朱里『もう、返信遅いと心配するじゃん!ってかゆみり外出るの?!やめときなよ、おばさんに頼みなよ』

ゆみり『大丈夫だよ、電車使うから安全だし。お母さん今腰悪くしちゃってて、あまり動けないの。』

晴太『俺も付いていこうか?』

ゆみり『大丈夫だよ、晴くんありがとう。すぐ帰ってくるね!』

朱里『本当に気を付けてね!』


大丈夫なのか…?

イタズラに過ぎないと思いながらも、あの投稿が少し気になっていた。

いや、大丈夫。大丈夫。

そう言い聞かせながらベッドで横になっていると、途端に眠気が襲ってきた。

あ、やべ…眠い………


―――――――――――――


「晴太ー!起きなさい!いつまで寝てるの?」

「…へ?」

毎日のことだが、母さんの大きい声に起こされる。


あれ?今何時だ?朝か…?

「やっべ!!」

時計を見ると8時10分だ。学校には8時25分までに着いていなければならない。

「あー遅刻確定かよ…ってかゆみりからメッセージの返信ないし。」


どうせ遅刻ならまだ寝ていたかったが、ゆみりのことも心配だったので急いで向かうことにした。


「あー着いた。ギリギリ遅刻だがな!」

全力で自転車を漕いだが惜しくも遅刻だ。息を切らしながら自転車を置き教室に向かう。


「はよー」

気だるげに教室のドアを開ける。教室の雰囲気がいつもと違うことにすぐ気づいた。


「晴太…」

目に涙を溜めて声を掛けてきたのは朱里だ。

「どうしたんだよ」

「うっ…ひっぐ…」

泣いているだけで何も答えない。いや、答えられないといった感じだ。

ユリは顔を引きつらせている。紗枝や祥子も何かに怯えているようだ。


加奈子も大粒の涙を流している。ただ事ではない。


「蒼佑…何があった?」

「……」蒼佑も口をつぐむ。

「おい。黙っててもわからん。」


「……だ。…死んだ。」

「え?」



「ゆみりが死んだ。」



―――――――は?


「え、どういうこと?何言ってんだよ?

ゆみりが死んだって?なんかの間違いだろ。」


「間違いなわけねえだろ!!」

そう怒鳴ったのは 安達 俊介(あだち しゅんすけ)だ。

有名な話だが、中学時代からゆみり一筋で、俺とゆみりが付き合ってからはいつも睨まれていた。


「ハハ、ゆみりが死んだ?あり得ないだろ?だって昨日だってゆみりの家まで送って…普通に帰ったんだ。

一体死んだならどこで死んだんだよ」


「逆にこれが嘘だと思うのかよ?それにお前はゆみりちゃんが死んだとき何してたんだよ。一緒にいなかったのか?裏サイトにあんな書き込みがあったんだから普通一人で行動させないだろうが!」

俊介に一気に責められる。言い返すどころか頭も回らない。


―――嘘だ。ゆみりが死ぬわけない。あの『通りすがりの殺人鬼』に選ばれたのがゆみり?そんな馬鹿な。


「…昨日の夜言ってたじゃん。4人のグループラインで弟を塾に迎えに行くって。その時にホームで電車を待ってたら、後ろから誰かに突き落とされたらしいんだ。」


「死体は損傷がひどくて身元特定に一晩かかったって。先生に連絡来たのも今朝だったって。」

蒼佑と朱里が説明してくれるが、なにも頭に入ってこない。


「誰がやったとか、可能性があるヤツもわからないのか?!

警察ってそんなもんなのかよ!それともお前らの中の誰かがやったのか?!なぁ!」

もう何も考えられない。自分でも何を言っているのかわからなくなってくる。


「落ち着けよ!」

蒼佑と将太が止めにかかる。


「今の吉仲君…すごいダサいよ。」

ボソッとスマホをすごい速さでいじりながら言ったのは 相田 元樹(あいだ もとき)だ。

アニメオタクで、ユリや紗枝達からは気持ち悪がられている。


「そんな吉仲君が暴れたってどうにかなるわけじゃないのにさ。

それに暴れるなら一人でやりなよ…」

確かに相田の言う通りかもしれない。だが、今の俺は激怒した。


「うるせぇよオタク!!お前はスマホと喋ってろ!!」

「やめろ晴太!」

蒼佑たちに押さえられる。自分で自分をコントロールできなかった。


「……取り込んでるところ横から口を挟んで申し訳ないんだが、『突き落とした』って何でわかったんだ?」


クラス1の秀才、藤巻 翔(ふじまき かける)が口を開いた。


「防犯カメラを見たらしいんだ。人が多かったみたいだけど、明らかに誰かに背中を押されたようだったらしい。その後の足取りは不明だって。」

蒼佑が説明する。


「警察の情報か?」

「いや、警察はまだ世間には事件だって発表してないみたい。防犯カメラのことは…先生が教えてくれたんだ。」

「そんな話してたっけか。」

腑に落ちなさそうだったが、先生が来たので会話はそこで終わった。


「今日の授業は全部自習だ。先生達は終日職員会議に入るからな。気も動転しているだろうが、余計な詮索はするな。なるべく静かに過ごすように頼むぞ。」

そう言い残してあっさり先生は教室を出て行った。



「…ねぇ、みんなはあの裏サイトの投稿がマジだったと思う?」

珍しくユリが少し怯えた口調で話し出した。

「しかも毎日投稿するみたいなこと言ってたじゃん。あれが本当だったら、今日また何か起こるってことでしょ?次は誰なんだろ…これから毎日怯えて暮らすことになんのかな?」


「ユリ、うちら3人でいれば大丈夫だよ!帰りも毎日一緒にいよう!何かあったら助けるから!」

紗枝は張り切ってそう言ったが、ユリには何も届いていないようだった。


「裏サイトの仕業とは断言しにくいが、関わっている可能性が大きいと思う。…だから今日も何か起きると思う。それが殺人か、裏情報かは分からない。」

翔は考えた様子でそう言った。



「…ねぇ!裏サイトが更新されてるよ…!」

震えながら加奈子が言う。

またクラスに緊張が走る。


「加奈子、見るな!俺が見るから!」

加奈子が見ようとしていたのを止めた将太は裏サイトを開く。


教室が静まり返る。響いているのはスマホをいじり続けている相田の音だけだ。


「…読むぞ。

投稿者:『通りすがりの殺人鬼』。

『昨日は皆さん驚かれたことかと思います。これはショーです。そう身構えず、楽しんでいきましょう。

…それより皆さん知っていますか?小松加奈子の腕や太ももには無数のリストカットの跡があるんですよ。なんと小さいころから親に激しい虐待を受けてたみたいですね、実際に見てみるといいですよ。あ、一応画像も添付しておきますね。閲覧注意ですよ。』

加奈子…これ本当か?」


「……え?あ…な、なんでこれ…」

加奈子の顔がみるみる真っ青になる。


「うわ…」

「え…グロい……」

クラスがざわつき始める。


「あ、だから加奈子ちゃんっていつもスカート長いんだぁ!」

張り詰めた空気を壊すような明るい声でそう言ったのは 椎名 美織(しいな みおり)だ。

小柄で明るく女の子らしい言わばぶりっ子系キャラだ。


「美織やめとけって~今はそんな空気じゃないぞ!コラッ!」

甘々な言い方で注意したつもりでいるのだろうか。美織の恋人の 館道 広(たてみち ひろ)は場の空気をもっと悪くした。


「加奈子…一旦別の部屋で話そう。」

将太が加奈子と移動しようと手を取るが、加奈子は振り払う。


「話してどうするの…?慰めるの?それとも傷見て、もうやめろよとか言うの…?

ごめん将太。今は何も話したくない…。でもね、これだけは言えるよ。

裏サイトに書いてあったことは事実。写真も私。あなたの彼女は傷だらけだよ…?」

そう言って目に涙を溜めた加奈子は教室を飛び出していった。



「あっ…加奈子!!将太、追いかけなよ!」

朱里が焦ったように言うが、将太は立ち尽くしたままだ。

「ハハハ…俺、加奈子の何見てたんだろうな。」

そう言って将太もゆっくりと教室を出て行った。


「あ~あ、メンヘラちゃんかぁ。美織、メンヘラ苦手なんだよね。

あの子普段から暗かったし、そもそも好きじゃなかったけどぉ♪

もしかして、今日その『殺人鬼』さんの犠牲者は小松さんかなぁ?」

終始煽り口調の美織は空気なんてお構いなしのようだ。


「アンタ、本当におかしいんじゃないの?何言ってるかわかってるの?」

朱里が怒る。美織は広の腕にしがみつく。

「広クン、この人こわぁ~い。でもさぁ今日のターゲットは小松さんだし、美織たちは助かるんだよ?

朱里チャンだって実はラッキー♪って思ってんじゃないのぉ?」


「コイツ…」朱里が拳を握りしめる。

「お、おい…朱…」

「ほ~ら美織、そこまでにしておけ^^」

俺が止める前に広が仲裁に入るが、このカップルの空気の読めなさはレベルが違うな…。


クラスの空気は悪いまま、あっという間に放課後を迎えた。


「朱里。アイツが言ってたこと、気にしないほうがいいよ。」

ユリがまだ怒りのおさまっていない朱里に声を掛ける。

「ん。ユリありがと。美織があんな子だったなんてね。」

「この状況を楽しんでんでしょあのカップルは。

きっと自分の裏情報が流されたら泣きついてくるタイプだよ(笑)」


「…だね(笑)その時はガツンと言ってやるよ!」

「アハハ!その意気だよ、朱里。じゃまた明日~♪」


ユリが笑い話にしたことで朱里も落ち着いてきたようだ。

ユリって見た目ギャルで怖いけど、良いヤツだな。


「…俺らも帰るか。」

蒼佑と朱里と歩き出す。当たり前にいたゆみりがいない。なのに実感がわかない。


「将太と加奈子ちゃん、何も無いといいけど…」

蒼佑が心配そうに言う。


「裏サイトって事実なのかな…昨日はゆみりが…今日の投稿に関しては加奈子が事実って言ってたし…

でもいったい誰がどうやってそんな情報を仕入れてるんだろ。そもそも何で流すんだろ。」

「朱里、今は考えても仕方ないよ。将太が加奈子を救ってくれることだけ祈ろう。」

不安そうな朱里を蒼佑がフォローする。本当に蒼佑はこういう時気が利いていいヤツだ。


「だね…あれ…?

晴太、蒼佑。加奈子からメッセが来てる。」

「え?加奈子ちゃんから?なんて?」蒼佑がのぞき込む。


「えっと…

『朱里ちゃん。突然ごめんね。あとさっきは教室の空気を悪くしてごめんなさい。裏サイトのことについて朱里ちゃん達に聞きたいことがあります。みんなが良ければでいいんだけど、今夜の7時に港公園で待ち合わせできないかな?』

だって。蒼佑、晴太今夜大丈夫?」


「俺は大丈夫だけど。でもその前にゆみりの家に寄っていきたいんだよな。

まだ実感わかなくて。ゆみりに一目会いたいんだ。」

晴太は俯きながら言う。


「俺も今夜は大丈夫だよ。そういえば、先生が言ってたけどゆみりの遺族からの申し出で暫く面会はダメだって。お葬式も近親者のみだってさ。」

蒼佑が言いづらそうに説明する。


「え…?俺らもダメなのか?」

晴太は唖然とした。幼馴染も恋人もゆみりに会えないのか?そんなことってあるのか?

「そんなこと言ってたの?ゆみりのお母さんならむしろ来てほしいって言いそうなのに。

アタシ達も行っちゃダメなんて…」

朱里も同じように違和感を感じているようだ。


「まあ、遺族が言うんだから仕方ないよ。今俺らが行っても辛いだけだろうし。我慢しよう。」

蒼佑は至って冷静だ。その冷静さが今となっては羨ましいくらいだ。


「とりあえず、いったん解散して着替えよう。制服のままだと何かと不便だしね。」

「だな」「だね」

蒼佑の提案で解散することになった。

今は1人になりたくないんだけどな。



――――加奈子の家


あの事知っているのは…ゆみりちゃんだけ…

でもゆみりちゃんは昨日…

なのにどうして?誰かに言ったの?

もし言うとしたら…あの3人しかいない。


スマホの画面が光る。将太からだ。

加奈子はスマホの電源を切る。


「ごめん将太。でもこれは私のことだから…

誰が知ってるのか…自分で突き止めないと。その後に将太に本当のことを話そう。」


時計の針は午後6時30分を指している。

加奈子はスマホだけを持って家を出た。



――――――――――


ゆみりとの写真を見ながら家でぼーっとしているとスマホが鳴る。


朱里『みんな、ちゃんと起きてる?アタシそろそろ家出るよ!』


「あれ、もうそんな時間か…

じゃ、行ってくるよゆみり。絶対お前を殺したヤツ見つけ出すから。」

写真にそう告げ、俺は重い体を何とか持ち上げて、支度をする。


「途中で蒼佑と待ち合せようかな。」

蒼佑にメッセを送ってみる。返事がない。

「アイツもしかして寝てるんじゃ…」

あり得る。蒼佑のルーズさは待ち合わせの時間に家を出るレベルだ。

来なかったら来なかったで後から話の内容説明すればいいし、まぁいいか。


「あ、やべもうこんな時間だ」

気づけば約束の10分前。晴太は急いで向かった。



――――朱里ちゃん達、来てくれるかな。


時間に余裕もあり、加奈子は約束の公園まで裏サイトのことを考えながらゆっくり歩いていた。

将太、どう思ったかな?

気持ち悪いって思ったかな? 引いたかな?


もう、愛してもらえないのかな…


考えていると泣きそうになってくる。

……そうだ、後で話があるってメッセしておこう。

立ち止まって将太にメッセージを送る。


「あ…のんびりしすぎちゃった。急がなくちゃ。」

加奈子が少し走ろうとした時、

「?!」

後ろから思い切り腕を引かれた。あまりの反動に尻もちをついて転んだ。


「痛っ……誰…?」

振り返って加奈子は驚いた。

「え………あなた―――ッ!」


鈍い音と共に地面に倒れこむ。


あれ……何か温かい。……血?

殴られた…の?

体が重い。うまく動かない。声もうまく出せない。


「…けて……助け…て…。将…」

意識はそこで途切れた。



――――――――――――――


「俺が1番乗りか。」

走ったせいか1番に着いた。それでも約束の時間を5分過ぎている。

「意外にみんなルーズなんだな。加奈子は意外だけど。」

しばらくブランコに乗りながら次は誰が来るのか予想でもしていようと思ったときに、朱里と蒼佑が来た。


「あれ、晴太、早いねー!アタシが1番に出たはずなのに~」

「早いね、晴太。」

「おう…全然時間過ぎてるけどな。てか蒼佑。待ち合わせでもしようと思ってメッセしたんだぞ?返信ないから寝てんのかと思ってたわ。」

「あ、ごめん。スマホ忘れて来たんだ。ゆみりのこともあったし、朱里迎えに行こうと思って結構早くに出てた。」

蒼佑はバツが悪そうに言う。


「そうそう、蒼佑来てくれたんだ~晴太より全然紳士!」

「紳士じゃなくて結構ですー。

なんだ、でも2人一緒でよかったわ。

それより、加奈子が来ないんだよ。時間には1番ちゃんとしてそうなのにな。」


そうこうしているうちに約束の時間を20分過ぎていた。


「ほんとだね…加奈子から呼び出しだったのにね。」



そこから1時間待ったが、加奈子は来なかった。

不思議に思いながらも、寒かったのもあり、解散することにした。



――――――ここは、どこ?


外だ。凄く寒い。頭も痛い。

出血量が多かったせいか、意識が朦朧もうろうとする。


「あ、起きちゃった?」


頭上で声がする。私はとにかく助けを求めようと手を伸ばす。

「助け…て」

伸ばした手も虚しく、払われる。


「そんな汚い手で触るな。汚れる。

あ~あ、起きなきゃ痛い思いせず一瞬で死ねたのに。」


「…え?」

何を言っているの…?私たち…クラスメイトだったよね?

逃げようとするが、体が持ち上がらない。


「いいよ、無駄な足掻きとか。めんどくさいから」

「やめ…て……」

「大丈夫、そのまま任せてくれればいいから♪」


ドカッ―――


「……っ!」

横っ腹に鈍い痛みを感じる。思い切り蹴られたのだ。


「あ~まだか。小柄だしすぐ落ちると思ったんだけどな。あと2回くらいかな」

「落ち…る…?」


「1か~い!」

体が転がる。意識が遠のいていく。


「あ、次で終わりだね。じゃあ、バイバイ。小松加奈子さん♪」

「あ……」


「2か~い!」


蹴られて転がった瞬間、体が宙に浮く。

―――あれ?


「将……太………」



――――――グシャリッ


「わ~凄い音。

田舎だから10階までの建物しかなかったけど十分だね。

いや~でも傑作だなぁ。写真撮って帰ろ♪」




その頃、将太は寝転がりながらスマホと向き合っていた。


加奈子から、明日話があるとメッセージが来た。

何の話だ?別れ話か?


裏サイトに書いてあったことなんか気にしないのにな。

むしろ俺のほうが言いたくないくらいダセー過去持ってるっつの。


加奈子はいちいち気にしすぎなんだよな。


あー明日、緊張するな。


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