恋の色を教えて

【お世話になりました】そうま

私には色鮮やかな世界が見えないらしい

 平日の昼下がり、誰も居ない公園、日陰にあるベンチ、心地よい風、揺れる雑木林。


「本当に、別れるんですか」

 彼は相棒のカメラを触りながらボソッと呟く。付き合い始めた頃はフリッカーばかりで緑の影が酷かった。でも、どんどん上達していく彼と写真の話をすることはとても楽しかった。この前会った時に彼に上手くなった要因を聞いたら「恋をすると世界が鮮やかに見えるんですよ」と言われた。それを聞いた私は、別れを決めた。彼と私は同じ景色を見ていたようで、違う景色を見ていたようだ。

「貴方のこと、かっこいいとは思う。でも、ずっとそれ以上の感情が生まれないの」

 友人たちに話してもこの感情を分かってもらえたことはない。「運命の人に出会えていないだけ」なんて何度も言われたけど、その言葉が未だに腑に落ちていない。


 好意を寄せてくれた人とは全員付き合った。でも、誰とも触れ合いたいと思えなかった。相手に触れられても世間が言うようなドキドキ? ときめき? みたいな気持ちは分からなかった。

「今までありがとうございました。カメラ、続けても良いですか?」

「それは私が決めることではないわ」

 太陽はキラキラと輝きながら高い所に居た。手に届きそうにもない、遠い所に。

「仕事で会ったら話しかけても良いですか」

「良いわよ」

 そう言って彼を見ると、木漏れ日に照らされた無理やりな笑顔は輝いていた。


 平日の昼下がり、私しか居ない公園、日陰にあるベンチ、無風、黙りこくった雑木林。私が鮮やかな世界を見られる日は、今の所来そうにない。

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