第7話 ご飯の材料に

 私は焦っている。

 何故かって?それは襲われているからだよ。



 木を切り倒して薪を作り、地面に数本の木を並べてスコップで一叩きする。そんな単純作業の繰り返しだが、意外と体の負荷となる。いや、まぁ元の体だったら大変なことになってると思うが。

 

──パチパチ


 火の粉が飛び散る中、シルは伏せの状態で動かず。《クレル》は、私の頭の上で、溶ける溶ける、とブツブツ呟きながら数十分は私の頭の上にいる。

 水は火に強いんだから、溶けるんじゃなくて、溶けさせる側だと思うんだけど。あ、蒸発するってことなのかな。まだ沸点に達してないのかな。


 そんなことを考えながら、私はシルが加えていた肉を焼いている。


 え。これ食べても大丈夫なのかって?大丈夫らしい。《クレル》が言っていたから。

 信用は出来ないが、これからこれを食べるって言うのにそんなことは言わないだろう。勿論腹を壊したり、何かあれば全て《クレル》のせいになるがな。

 

 うーん。やっぱり眠くなってくる。

 火ってなんか眠くなるとかの効果があるのかなぁ。

 中学校の頃のキャンプファイヤーとかで、火をずっと見てたらウトウトしてきたし。


「クゥーン」


 シルが鳴いた。寂しいんですか?それとも眠いんですか?それか、大きくなれないから自分が怖いのかな?


「だいじょーぶだよ。私も、野宿してるの怖かったけど、シルが居てくれて安心したんだよ~」


 優しく愛撫する。

 そのシルの顔は、目がおっとりとしていて今にも寝てしまいそうな感じだ。私の言葉には一切反応してない感じー。


 寝てはダメよ。


 お肉が焼けるのだから、寝てしまえば食べられなくなるからな!

 私は知らねーぞ、自己管理だ。そこら辺はな!寝ても起こしてやらないからな。

 私は脳内で悪魔の囁きを繰り返し唱えて、自分の食べられる量を増やしていこうと企んでいる最中です。


 サイテーな、私だ。


 まぁ、自分でもわかりきっております。こんな性格だから、彼氏が出来ないのよ、と母に愚痴を言われた経験もありますからね。

 はぁー。年齢=付き合ったことない、ではなかったから良かったけどね。


 ククッ。


 あー。嫌だ嫌だ。こんな性格を直していきたいのに。

 私は今、悪い笑を零しているだろう。


 お、そろそろいい色になってきたぁ~!食べ頃かな?茶色色に染ってきた。これって中がしっかりと焼けてなくても、食中毒とかにはならないよね?


「《クレル》~。これって、食べ頃かな?」

「ん?おー。美味そうだ。確かにこれは、食べ頃だね」


 よし。


 私は肉を火から取り上げた。そして、先程作った串から抜いた。

 お皿になりそうな草を、採ってきてそこの上に乗せる。

 

「うひゃあ~。初めての実体化からの初めての食事だぜ!」


 なんでお前が、興奮してるんだよ。

 普通は、私が興奮する場面なんじゃないかな?

 

 シルが寝そうになっていたのを、必死に起こしている《クレル》。


 なんか、萌えるわ。

 あーいかんいかん。こんな所で、そんな想像をしてはいかん!


 目を覚ますのと、頭の整理をするために両頬を両手で叩く。


「早く食べようよ~、お腹減ったよ~ボク」


 お前は駄々をこねる子供か!


 そんなツッコミをしている場合ではない。早く食べなければ、冷めてしまう。


 泉の水で、綺麗にスコップを洗って肉を3等分する。


「はい。出来ましたよ~」


 声を2人にかける。

 すると、シルはすごい勢いで起き上がって肉を食べ始める。

 《クレル》は、一口食べて止まった。


「この肉って……」

「クゥーン?」

「ストラレイドラゴンだったりしちゃう~?」


 は?何それ。てか、ドラゴンってついている時点でやばそうな感じしかしないんだけど。


「子供の肉?」

「クゥン!」


 イエスの返事なんですかね。シルくん。

 んー。そんなにやばいんですか?子供って親が守ってくれそうな感じの奴?


「食べちゃったよォー!ボク死ぬぅーー!」


 あーあー。うるさいよー。そんな叫んだって助けは来ないんだからねぇ~。こんな夜に叫んだって、モンスターがよってくるだけだよ。



──ギュアキュユアアアーー!



 謎の生物の雄叫びが聴こえる。きめー鳴き方だな。

 HAHAHA。なんかやばい感じがしてきたお。

 だがしかし。だがしかしだなぁ!私には、チートと言っていいほどのスコーップがあるのですよ~。


 焦りで変な思考回路になってしまった。大変なことが起きる気がする。


 声の聞こえ方からして、遠くにいる感じなんだけど。

 近づいてこないかの確認も兼ねて、息を殺しておこうと決めた。


 シルは、呑気に寝てんだけどな。

 

─数分後─


 完全に包囲されました。

 なんで逃げなかったの!って普通の人は思うでしょう?

 案外、腰が抜けちゃって歩けなかったりする人がいたのよ。


 まぁ、私しか足が生えてる人いないんですけどねぇ。


 笑い事じゃねぇよ、はい。


 んー。緊張と焦りがデカすぎて、逆に冷静になっちった。


──キュギャァァァア!


 そのモンスターは、二本足でたって尻尾が地面についていて恐竜時代に生きている奴みたい。

 なんだっけ。忘れたわ。まぁ、いい。


 とりあえず私は焦っている。ものすごく焦っている。

 狙われているのが私ではなくても、すごく焦っているのである。


 スコップを震える手で握る。


「《クレル》。どうすればいいの!?」

「あはは。肉を食べた、ボクとシルが狙われてるんだがら、くるさんは逃げたら?」


 なるほど。


 私だけ逃げていればいいと、そういう事だな。

 よし。決めた。逃げよう。


 え?仲間?そんな人いないからね。

 逃げようと、現実に目を向けると包囲されていることを忘れていた。


 《クレル》からの冷たい視線を感じた。


「逃げろって言ったのどこの誰でショーか」

「逃げれないでしょ。どのみちね。ふっ…」


 鼻で笑われました。初めてです。他人に、しかも目の前で笑われました。

 だが、確かに正論だ。こんなに包囲されていて、しかも何をしてくるかわからないモンスターを前にして逃げられるわけがない。


「はぁー。ここで死ぬんか」


 日は既に落ちている。

 シルがソワソワし出す。すると、


「クゥゥーーーン!」


 と、遠吠えをする。

 助けを求めても無駄さ。こんなヤツらに勝てるモンスターなんて居ないよ。


──バキッ バキッバキッ


 またなんか、モンスターが増えてませんかね!?気の所為ですか?応援が来ている気がしますけど。

 

 私の周りには、ストラレイドラゴン、その奥に暗くて見えないけど何かがいる。

 多分、ストラレイドラゴンだと思う。


「クゥン!」


 シル、命乞いをしたって無駄さ。だーれも助けてはくれないんだよ。

 シルの鳴き声に反応するかのように、似た声が聴こえる。


 もしかして、シルの仲間だったりする?


 期待しておこう。期待するだけ無駄だろうが。


「シルの、仲間かなぁ~?」

「クゥン!」


 イエスの返事ですね!そうなんですね!


──グワァァァアッ


 狂った犬のように、ヨダレを垂らして飛び出てきた。

 よく見るとシルの大きくなったバージョンが飛び出してきて、複数匹ストラレイドラゴンに噛み付いていた。

 噛み付かれたストラレイドラゴンは、抵抗する暇もなく死んで行った。

 

 数匹ストラレイドラゴンは、残っていたが怖気付いて逃げていった。


 《クレル》はポカンとどこか遠くを眺めている。

 私も、何が起こったのか、頭の整理が追いついていない。


「はぁー、おっきいねぇ。しかも大群だ」


 目の前で捕食しているシルの仲間を、感心した目で見る。

 だって、助けてくれたんだしね。


「これが、ムーンウルフの晩御飯ですか」


 ムーンウルフって、なんなんだ?そして、晩御飯ってどゆこと?

 頭にハテナを浮かべていると、奥の方から老いたシルの仲間がやってきた。

 一際大きく、存在感が凄かった。長みたい。勝手な想像だけどね。

 現れたと同時に、他のシルの仲間は捕食を中断して犬の#躾__しつけ__#で言うお座りの体制をとっていた。


「グゥルルルル。グゥルル」


 会話しているのだろうか。全く理解できないのは、当たり前だけど。

 すると、シルの仲間の長のような大狼はこちらを向く。


「へぇーっ。凄いなぁ」


 感心した視線を送ると、少し視線をそらされた。


「今夜は、済まなかった」


 ハンサムボイスだ!かっけぇ。存在感があって、迫力がある!

 なんで謝られているのかは、分からない。


「謝らないでください!」


 ありゃ、そう言えば喋ってんなー。長さん。


「あー、その、子供を迎えに来たのだが」

「子供?そんなのはウチに…」


 いましたねー。

 汗をダラダラと垂らす。ニッコリと笑っているが引きつっているだろう。


「い…ますね~。あはは」


 口では笑っているけど、顔は笑っていません。

 殺される!誘拐されたと思われたら、絶体絶命の危機ですよ。


「食事のためではなくて?」


 《クレル》ー!余計なことを言いやがって。

 だが、それは図星のようだった。

 

「済まない。適当な言い訳をして。実際は晩御飯のための、飯の材料だよ」

「自分たちで!?…………作るんですか?」


 しまった。自分たちで配合して、作って食べるということに驚いてしまった。

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