異世界転生者にゴマすってたら思いの外懐かれすぎてしまった件について。
50嵐
序章 成り上がりたい市民の噺
第一話
アザナは、自分のことを良く居る平凡な人間だと自覚している。
母親譲りの日光に弱い白い肌に、癖のついた黒い髪。
村では唯一、彼だけしかいない薊色の瞳くらいしか誇りの無い少年だった。
容姿も至って平凡であり、貧乏ゆえに薄っぺらい体を考えれば寧ろマイナスに寄るだろう。
目つきの悪さだけは酷く父親に似てしまい、そのことで理不尽に父親に殴られることが日常的であった。
街から往復で二日かかる田舎村の一軒家に住んでいて、そのボロ家の屋根裏がアザナの部屋だ。
室内には大量の本が積み重なっていて、布を何重にも敷き詰めた布団の上が寝床だった。
裕福ではない家庭なので、室内に転がっている本は全て塵捨て山から拾い集めた古本だ。
川二つ分越えた山からこつこつと書き集めた本が、学校に通えないアザナにとっての教科書で、読めない文字は村の中でも学校に通った経験のある老人達に教えを乞うた。
村には広場があり、そこには国から派遣された村役場の職員や老人達がたむろしているので、そこに馬鹿なふりをして近づけば、地面という羊皮紙を使っていくらでも書き方と読み書きを教えてもらえた。
アザナが考える未来において、文字の読み書きがきちんと出来さえすればある程度問題無いと判断していた。――主な知識を古本で得ていた事によるデメリットが判明するまでは。
――アザナは自分が平凡な、この世界では一般的な平民だと自覚している。
父親との仲は酷く悪いが、村の仕事も頑張ってなんとか懸命に生きていけている。
だからといって、未来永劫その現状で満足しているわけにはいかないのだ。
いつか――具体的には成人してから村を出て、街に行って、冒険者になり、二流くらいの冒険者に媚び売って取り入り、そこそこ安定した暮らしをするのがアザナの理想の未来だ。
一流だとか、勇者である必要はない。寧ろそこまで強い人の中に紛れこもうとなるとアザナ自身もかなり強くなる必要があるので、本当にそこそこ強いパーティーに上手く潜り込めればいいのだ。
安い宿屋に安定して泊まれるくらいの金銭が稼げればアザナにとっては大満足だ。
「……ふふ、もうすごしぇ。わんもせいじんゃげな」
もうじきアザナは十五歳になる。
十五歳になれば、成人として自由を得る。
村を出て街に行き、そこで冒険者として登録してしまえば、アザナはもう父親の所有物ではなくなるのだ。
そうなれば、強い人間にゴマを擦って生きていけばいい。
老人達にそうして、文字の読み書きを教わったように、上を見上げて手を捏ねていればなんとか上に登れるだろう。
アザナはそれを惨めな事だとは思わない、ひ弱なアザナにとってそれがもっとも確実に生き永らえる事の出来る確かな方法だからだ。
「――……そうしたら、ちゃんと喋れないと駄目でありますね」
アザナの住む村は、少々方言が〝キツイ〟
村役場にやってくる国から派遣された職員の綺麗な言葉遣いを思い浮かべながら、真似るように声をあげる。
「はよ、成人なれ゛んかぇ……」
アザナのうっとりとした声は、室内に溶けるように消えていった。
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