Facili® 長編 ver.
和五夢
第一章
プロローグ1
「AIは人の大脳――つまりニューラルネットワークを模したアルゴリズムにより機械学習が可能となっています。ディープラーニングはこの機械学習をさらに発展させたものであり、ここへビッグデータを適応することで、AIが自動でその特徴やパターンを学習し、役割を持ったプログラムへと進化します」
何度口にしたかわからないフレーズが奇妙なほど滑らかに舌を動かす。
彼らに細かい理論の説明などは求められていない。
だから、やや
パワーポイント上で映し出された映像とまるでワルツを踊るようにピッタリと息を合わせ、神経細胞が次の細胞へパルスを受け渡していく様を追いかける。
「……つまり、AIの質は理想的なビッグデータと学習の質に左右されます。そこで当社は……」
そこからは自社製品が如何に魅力的で、他社よりも優れているかを雄弁に語った。
終始笑みを忘れず、身振り手振りを交えて自信満々に。
そうして持ち時間の15分がちょうど経過したところで「ご清聴ありがとうございました」のスライドが表示されてフィニッシュ。と、同時にささやかな拍手が沸いた。
満足げに持ち上がった取引先の重役の口角。
手応えとしては悪くない。
そこからさらに予定15分だった質疑応答の時間を15分も延長して終わった商品プレゼンは大盛況の内に幕を閉じた。
小さな会議室を借りて行われた些細なショー。その撤収作業をしていた時。
「真鍋君と言ったね。君のプレゼンは何というか……そう、心が揺さぶられたよ」
50代後半の白髪が似合う重役はまるでミュージカルを見た後のように高揚しながらそう言った。
「恐縮です。当社の製品を魅力的に感じていただけたなら幸いです」
と、俺はまんざらでもないかのように笑って答える。
すると重役はさらに目を輝かせ、
「君からは本物の熱意を感じるよ。今後ともよろしく頼む」
そう言って差し出された右手を握り返すとやけに熱くて。自社に戻り、定時が過ぎて帰路につくその時も、まだその温かさが纏わりついているような気がした。
俺は右手をのぞき込んで思う。
……本物の熱意か。
はっきり言って俺にそんなものは無かった。
プレゼンの時の俺はただのショーマン。
理想的なプレゼンテーターを演じているだけに過ぎない。
本当の俺は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます