「父」のち「息子」
燦然と輝く光と共に現れた男は、鋭い眼光をレインに向け。
「初めましてか、ただ俺はあんたをよく知っているぞ?レイン」
レインは無言のままジッとその男…紅月未来と名乗った人物を見つめ。
「……紅月?もしかして、あなたは…」
僅かに逡巡した後、目を見開いて言葉を投げ掛ける。
「……ミスった」
先程までの堂々とした態度を一変させ目を泳がせる未来。
「……?」
思案顔のままレインもただ未来の様子を見つめ、そこへリリスが。
「もしかして、祐真さんのお父さんですか?」
直球を投げた。その発言にレインは瞠目し。
「……?!生き別れの兄弟かと思った」
「まぁ、見えなくも無いですが…ギリ、無しでしょう?」
「……言われてみれば」
若干中傷を受けつつ二人の少女にキラキラとした視線を向けられ。冷や汗を流す未来、そして仰々しく両手を広げ声を張り上げながら。
「俺は……紅月ではない!俺は……南斗最強の拳を極めし者…この体に流れるのは帝王の血!おれは聖帝だ!」
劇的に彫りの深くなる未来。目が点になり口を開けたまま呆けるリリス、そして一人小刻みに打ち震える猫耳少女。
「……ぇっと、この人何言って…ってレインさん?!」
半ば呆れながらレインの方へと向き直ったリリスは驚愕する。また劇的に彫りの深い表情に変質したレインは。
「……もぅ既に飛ばず、貴様は翼をも捥がれたのだ」
「––––––?!翼をも捥がれたか…だが、おれは帝王…退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」
彫りの深い二人の間に静かな間が訪れ。
「あのぉ、お二人とも?今結構緊迫した空気というかですね…失礼ですが、マジで何やってんの?」
しかしリリスの声が二人に届く事はない…声以上に今二人は見えざる絆で繋がったのだから。
そして無言のまま歩み寄り、グッと硬い握手を交わす二人。
「なかなか、やるな…レイン」
「……お父様こそ、不束者ですがよろしくお願いします」
「俺のコレを返せた奴は妻を除いてお前が初めてだ……祐真の事を任せられるのはお前しかいない」
「……?!光栄ですお父様…!」
謎の信頼関係が構築される中、エステル達と異形の争いは苛烈を極め。
「ちょっとぉ!レインちゃん、元気なら手伝ってくださぁいって、誰ですかその人?!」
「…ん、ゆうまのお父様」
「お、おと?!ちょっと何言ってるかわからないですけどっ!きゃぁ」
「エステルちゃん!」
意識がそれた一瞬の隙をついて異形から生えた黒い手に薙ぎ払われ後方に吹き飛んだエステルをアルベルトが受け止める。そしてレイン達のいる方向に向き直った異形は大口を開きながら突進––––––。
「レイン、行けるか?」
「……勿論です、お父様」
二人は静かに迫り来る巨躯を見つめ徐に指を突きつけると。
「「……お前はもう、死んでいる」」
しかし異形は「あべし」とも「ひでぶ」とも言う事はなく無情にも肉薄して。
「あんた達、ホント何やっているんですかぁ?!」
リリスが目の前に迫った異形に慌てふためき、盛大に突っ込みを入れる。
「やァ兄さん…今日こォそ死んでくペェ!?」
刹那、異形の口が縦に裂けセリフを言い終える事なく。
「俺の弟は死んだって言ったろ」
虚空より取り出した双剣を振り下ろしながら未来は告げ。
「……しつこい、お父様との触れ合を、邪魔するなっ」
間髪入れずに、重力を纏った拳の連撃を異形に叩き込む。レインの猛攻を全身に受け、べこべこと窪みながら後退し。すかさずレインの猛攻が止んだタイミングを見計らって割り込んだ漆黒と純白の双剣が乱舞する。
漆黒の剣が振るわれれば、その太刀筋の範囲は無かった事のように跡形もなく消滅し。純白の剣が異形の表面を撫ぜる時、陽光の輝きが無数に舞い、輝く光から放たれた極光によって焼き尽くされる。
見る者に美しさすら感じさせる創造と崩壊の剣舞は瞬く間に異形の全身をそぎ落とし、焼き払い、強制的な沈黙へと誘った。全身を飛散させ禍々しい塊となった暴食の悪霊…アレク。
「……さすがお父様」
「す…すごい……」
レインとリリスは圧倒的な未来の力を前にただただ刮目し息を呑む。
「凄まじいな…貴方は一体…」
「うへぇ…すごいですねぇ……もしや、魔法剣士さんですか?!」
そこへエステルとアルベルトも近づいてきて。
「気を抜くな…これくらいでこの悪食は死なない」
言うなり未来は純白の剣を地に突き刺し異形の残骸が残っている周辺に壁を出現させ真空状態を作り出す様に囲い込んだ。
「これで、少しは時間が稼げるか……」
「……お父様、ワタシにはとても生きているように見えない」
「どうかんですねぇ、流石にこれで生きていたらお手上げですよぉ」
レインとエステルは異形のいた場所を見つめながら訝しんだ様に未来へ問いかける。
「もうこれ以上あの化け物を見たくないですね…アレを見ていると何だかとても苦しい気持ちになります」
「そうだね、私にもリリスさんの言う事が分かる気がするよ……アレは歪だ」
リリスは徐に胸の辺りを押さえ悲壮に満ちた表情を浮かべ、同調するようにアルベルトがその場所を一瞥し未来に向き直る。
「…アレが何か貴方は知っていらっしゃるのですか?それと祐真君達の姿が見えないのは一体…」
「まあ、待て同時に聞かれても困る…先ずは今の状況から説明するか……」
一同の視線が未来へと集まり。
「……だが断る!」
上体を僅かに反らし右腕の肘を曲げながら人差し指を突き出して。
「な、何を?!」
三人が困惑し反応に戸惑う中、猫耳をピクピクと震わせ羨望の眼差しを向ける少女。
「……完璧だ…肘の角度、指先の位置、程よく反らした上半身……完璧な『立ち』だわ……これはもぅ芸術の域」
「…あのぉ、この人達何言ってるんですかねぇ?」
エステルがポカンとした表情で口元に指を当てリリスを見つめ。
「私にもわかりません……ただもし、私に力があるなら限りなくぶっ飛ばしたい気持ちでいっぱいです」
「あぁ、わかりますぅ!あたしがブッ飛ばしちゃいましょうか?」
うな垂れた様子で、しかし沸々と怒りの拳を握りしめるリリスに同調するエステル。
「……エステルでも、お父様への不敬は見過ごせない」
そこへレインが腕を組みエステル達の前へ立ちはだかる。周囲の状況がカオスと化してきた所で。
「まぁ、冗談だ…だがレインは流石だと言っておこう」
「……お父様」
キラキラとした空間で見つめ合う二人。
「もう、わかったので早く進めてくませんかね?!」
リリスがキレ気味で突っ込み始め、気を取り直し説明に入る未来。
「まず、エステルの質問だが…俺は魔法剣士だ」
「ま、まじですかぁ?!」
「ぃや、そこからかいっ!」
エステルの表情が喜色満面に満ち溢れ、先程と打って変わり羨望の眼差しを未来に送り。何故か突っ込みキャラへと収まり始めたリリスが肩で息をしながら鋭く切り込む。
「そろそろ、本題に入っていただけませんかな?あまり時間もないのでしょう?」
様子を伺っていたアルベルトが見兼ねてフォローに入り。
「アルベルトさん……有難うございます」
リリスはやっと出たまともな意見にホッと胸を撫で下ろし。
「おじいちゃんは黙ってて、私は魔法剣士のお話が聞きたいの!」
「エステルちゃんの好きにしなさい、だからおじいちゃんを嫌わないでおくれぇ」
「てめぇも同類かぁ!?」
リリスの突っ込みが沸点を超えてキャラを崩壊させ、辺りが静まった所で息を荒げながら咳払いを一つ。
「もう、いいです…とりあえず未来さん、私の質問にだけ応えてください」
「あぁ、わかった…それでいいぞ」
「では、まず祐真さんと…ぇりやくん…は何処に?」
「何かエリヤってとこだけ妙にしおらしいな?」
「べ、別にいいでしょう?!とにかく教えてください」
「あいつらは、俺の創り出した別の空間に居る」
「そう…ですか、無事なんですね?」
「無事…とは言い難いかもな」
「ぇ?!どう言う意味ですか!」
「まぁ、落ち着け……あまり時間もないから端的に言うぞ?」
「一番時間を無断に浪費した人に言われたくありませんが…」
「まず始めに話しておく事……それは、あんたら全員に礼を言いたい」
未来の意外な言葉に瞠目し静まり返る一同。
「俺は、ずっと祐真の中に眠っていた…と言うか意識として存在していた…と言うべきか、だからあんた達の事はずっと見えていたんだ」
「だからあんた達が、アイツに向き合ってくれた事…本当に感謝している」
言いながら未来は深々と頭を下げ。
「最初に名乗った通り、俺は祐真の父親だ。ただアイツ等はまだその事を知らない…出来れば知られたくないんだ」
顔を上げると何処か物悲しげな視線で遠くを見ながら言い聞かせるように呟いた。
「……お父様、ゆうまはきっと喜ぶ」
レインは憂いを宿した空色の双眸でそっと未来を見つめ、気遣うように語りかけ。
「……アイツは、今そこでぶっ壊れている化け物に母親を殺された」
「––––––?!」
怨嗟の籠った視線を異形のいた場所へ向けながら歯噛みし、一同はその事実に目を伏せ俯く。そして絞り出すように未来は。
「その時に暴走した祐真の力が自身の霊魂も呑み込んでな…だから俺は自分の命と引き換えに祐真を回復しようとした…だが、上手くいかなかった」
力無く言葉を紡ぎ、肩を落としながらレイン達を見遣る。
「ぇ?でも祐真さんはちゃんと…」
そこへリリスが疑問を口にし。
「あぁ、ここで誤解を解いて起きたい…レイン、お前には少し酷な話しになるかもしれないが」
未来は軽く頷きながら応えると、レインに向き直り静かに語り始め、その言葉にレインも口を開く事なく耳を傾ける。
「……」
「俺は自分の命を媒介に失われた祐真の霊魂を復元しようとした……しかしそれは、俺が記憶を捏造した全く別の人格……レイン、お前の知る『祐真』がこいつだ」
一同に僅かな驚きが走る、しかしレインはその顔色を変える事なくただ未来の言葉を聞いていた。
「……」
「そして、ある事件……レインはわかるな?」
「……ん」
「その事をきっかけに祐真本来の人格…霊魂が目覚めた。それが、リリス…お前がエリヤと呼ぶ存在」
「……ぇ、てことはえりやくんが本当の祐真さん…」
リリスが目を見開き、未来は頷き返すとレインに目を向け。
「すまない、レイン…お前にとっては複雑な––––––」
「……関係ない、ワタシにとってゆうまは、ワタシの知っているゆうまが全てだから……過去は関係ない」
レインは真っ直ぐに未来を見つめ、ブレる事のない心根を告げ。そんなレインをまた、未来も暖かく見つめ返す。
「そうか…アイツも救われる……ありがとう…精神がまだ不安定な所もある…どうか支えてやってほしい」
「……ん、任せて」
「あと、少しばかりお前の姿を利用させてもらった、すまないが後でフォロー頼む」
「…?ゆうまの事は任せて」
未来の言葉に逡巡するも、力強く頷き返しその瞳を輝かせる。未来は安堵する様に息を吐くと一同を見渡し。
「そして『エリヤ』ってのは本来の俺の名前だ……」
「アルベルト、あんたならわかるだろ?」
意味有り気な視線をアルベルトに送り、一瞬思案した後アルベルトの表情が驚愕に染まる。
「まさか、貴方は?!」
アルベルトが信じられないと言った様子で未来に問いかけると、未来は応え。
「あぁ、俺の名はバベル・フォン・エリヤ」
「……なんと、聞き覚えのある名だとは思っていたが…貴方が…背信の王」
「おじいちゃん?」
未だかつて目にした事のないアルベルトの取り乱し様に思わずエステルも焦燥を顕にする。
そんなアルベルトの様子を静かに見つめながら未来は。
「そしてアルベルト、色々言いたい事はあるだろうが今は……俺を信じて欲しい」
真剣な眼差しでアルベルトを見据えた。
「…背信の王、このセカイの敵を信じろと」
「…詳しくはギデオンに聞いてくれ、アイツは信じてくれた」
驚き口を紡ぐアルベルトは顎に手を添えしばし沈黙した後。
「……なら私に言う事は何もありません、彼がそう判断したのなら、それは私にとっても信じるに値する何よりの根拠です」
冷静さを取り戻しこの場に居ない盟友の意思を、ただしかし確信を持った面持ちでアルベルトは深く頷いた。
「……助かる」
そんなアルベルトの判断に今一度深く頭を下げる未来。
「アイツの…祐真の身体には俺を含め三つの霊魂が存在していた事になる……」
「だが、そのおかげであの悪食に取り込まれずに済んだ…だが肉体と霊魂を切り離された祐真は仮の肉体に閉じ込められ傀儡にされていた…悪趣味な苦痛と死を与えるために」
「本来ならば荒唐無稽すぎて信じ難い話ですが…我々は実際にアレと対峙している…信じざるを得ません、そして貴方が悪食や暴食と呼ぶあの異形は一体…」
アルベルトは顎に手を当てながら逡巡し未来に視線を送る…そして未来も応える様に一度深いため息を吐き。
「これもな、ギデオンには話したんだが……アイツは初代バベル王国の国王にして…俺の弟だった者…アレクサンドラ…と言えばわかるか?」
「––––––!?」
想像を絶する応えに言葉を失う一同。
「まぁ、そうなるよな…俺も何故そうなったか原因はわからない…だがアイツは『暴食の悪霊』と言う因子を宿し全てを喰らう悪食になった…俺はそう理解している」
「暴食……七つの大罪の事か……それは伝説の悪魔族と関係が…」
「おそらくな…だが今はそれよりも重要な事がある……なぜ奴は祐真の肉体から霊魂を切り離したか…それは肉体が何らかの力によって保護され手を出せなかった……レイン恐らくお前の力だ」
「––––––?!」
「あの悪食は捕食した肉体と霊魂を取り込み、身体の一部として使役する…構造はわからんが、奴の体内は亜空間の様になっているのだろう、そして祐真の本来の肉体がそこにある。レイン…お前は守ったんだ祐真を」
レインは空色の瞳を見開き無意識に溢れた涙が頬を伝う。
「……お父様」
口元を押さえ俯くレイン。その背中をリリスとエステルがそっと撫で、その様子を見つめながら未来は続けた。
「ただ、霊魂を切り離された事を考えると力が弱まっている可能性がある…だから、どうか奴の体内から祐真を助け出す事を手伝ってくれないだろうか……頼む」
それは、誰でもない…ただ一人の父として我が子を救いたい…その一心で未来は両手をつき頭を下げ。
「頭を上げて下さい……どうやら歴史は歪められている様ですな、この様に我が子の為、頭を下げる事が出来るお方が…『背信の王』である筈が無い…私はそう感じます」
「アルベルト…」
「ぇりやくん…じゃなかった、えっと祐真さんのお父さん」
リリスが気恥ずかしそうに未来の顔を覗き込み。
「いや、そのまま呼んでやってくれ…複雑だが、アイツはそれを望む筈だ……」
「は、はい、わかりました。私は皆さんの足を引っ張るかも知れません…ですが、ぇりやくんを救いたい気持ちは誰にも負けないつもりです…私にできる事…やらせて下さい」
「ありがとう、リリス…お前は何というか、恵光……アイツの母親にどことなく似た雰囲気を持っている」
「ぇ……私がですか?」
「ぁあ、お前は誰よりも強い…その意思は誰にも折れない。祐真は過去の記憶を取り戻していない…ただいつか過去と向き合う時が来る……その時は、アイツを支えてやってくれないか?リリスにしか出来ない事だ」
「お父さん……はぃ!私なんかが、ぇりやくんの役に立てるなら」
瞳に力強い光を宿し頷いたリリスを、優しく懐かしむ様な視線で見つめ。
「エステル」
未来は向き直りエステルの名を呼んだ。
「は、はぃ?わたしが呼ばれるのは場違いな様な?」
「ぃや、お前が居てくれなかったら正直危なかった…礼を言う」
「……?よくわかりませんが…受け取っておきますねぇ」
真剣な面持ちで頭を下げる未来に、なんの事かわからないと言った表情のエステルは、ただ、深く詮索する事もなく和かに未来へと微笑み返し。
「お前には先輩魔法剣士として一つ助言をやる」
「へっ?!は、はいっ、何ですか?!教えて下さい!」
予想だにしていなかった未来の言葉に驚きながらも破顔し瞳を輝かせ食い入る様に未来へと詰め寄る。
「エステル、お前は…剣を剣として扱うな…剣もまた魔法の一部だと考えろ」
「ぉお…何やら深いですねぇ……剣を魔法…ムムム」
「いつかわかる時が来る、励めよ?魔法剣士」
エステルは眉根を寄せ考え込むが、許容量を超えた為思考を放棄。
「はぁい!魔法剣士エステルは最強の魔法剣士になります!」
ニコッと小首を傾げ全身でその感情を表現しながら腰の剣を抜きポージングを始める。そんなエステルを他所に未来はアルベルトへと耳打ちし。
「あと、アルベルト頼みがある……」
「……ふむ、なるほどそれは私に任せて下さい」
それから一同は状況を再確認、祐真の身体奪還を第一にその後の撤退も視野に入れ認識を統一した。
「あの変なのはどのくらいで復活しますかねぇ?」
エステルが不穏な空気の漂う未来の創り出した『壁』によって閉じられた空間を凝視し。
「もう、いつ壁を破って出てきてもおかしくないな……そろそろやっとくか」
鋭い眼光でその場所を一瞥した未来は徐に天を仰ぎ。
「……?やっとくって何を––––––」
「くそ牛やろぉおおおっ!」
疑問を投げかけたリリスに応える事なく、天に向かって不可解な雄叫びをあげ…未来の奇怪な行動にアルベルトを含む全員が顎を落とし未来を「まぁ、色々あったから…ね」と哀れむ様な視線で見つめ。
「み、みらいさん…?一体なにを?」
ちょっと遠慮気味にエステルがやんわりと投げかける。
「まあ、保険だ」
『保険』と言う聞きなれないワードに一同困惑する中、意味を理解していたレインが、しかし意図は理解出来ないと言った表情で。
「……保険?いまのが…いやお父様に穴はない、これにも深い訳が…」
「レインさんは未来さんを崇め過ぎな気がします…」
目を細め強引に納得しようとするレインにリリスはそっと突っ込みを入れていた刹那。
大気がひび割れる様な振動と共に未来が創造した壁に亀裂が入り、全員がそちらに意識を向けた瞬間壁は粉々に砕け散った。
「やっぱ意味ないか…一応かなりの圧はかけていたんだけどな……壁を壊せても反動で木っ端微塵、そんな簡単じゃないよな」
苦笑いを浮かべながら未来の見据える先には、今までの球体の様な姿…では無く。
禍々しい紫黒の靄を全身に纏った身の丈三メートルは有るであろう巨躯で悠然と立ち尽くす人型の異形。
顔であろう部位には六つの目が並び、背中からは無数の黒い手が生えている。
「兄さん、僕が悪かったよ…出来る限りの苦痛を味わって生意気な息子が絶望する姿に悶える兄さんを食べたかったんだけど……もういいや、死になよ…エリヤ」
その声色に以前の様に粘着質な不快感は無く寧ろ明瞭に響き渡るそれは、そこに居る全員に怖気を覚えさせる程静かに全員の死を確信して疑わない悪辣な声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます