無清音

エリー.ファー

無清音

 並べ立てた言葉が、異様に僕を傷つけようとするので、そのまま放置することでしか、自分を維持できない。

 分からないとは思う。

 僕はずっとそんなことを思いながら、砂嵐のテレビ画面を見つめていた。

 人類が滅亡して、当然テレビ局はついえて。

 文化としてもなくなって。

 僕の知る限り、娯楽らしい娯楽もなくなって。

 それでも人間がこの地球で生き続ける意味も中々見出しにくくなった昨今。

 僕は砂嵐だけを見つめている。

 最初はたいしたことでもなかったのだ。

 地球をある惑星の波が通る。その間は電化製品の稼働はやめておいて欲しい。そういうお達しだった。実際、その波が通ることでどのようなことが起きるのかなど分かるはずもなく、あくまでできる限りのことをしておこう、それだけの意味だった。

 そんな感じだったから。

 結果として守らない者が出て。

 地球は滅亡した。

 何人か残ってはいるらしい。

 生き物もちらほら。

 たまにレシーバーが音を拾って来て、そこから人の声が聞こえてくることはある。

 でも、僕はそれでも外には出ない。

 元々、引きこもりではあったし、ずっとこの中で生きていくと決めていたのだから、それが地球が滅亡したところで変わらない。

 本当に、だが。

 本当に、たまに思うのだが。

 これは嘘なのではないか、と考える時がある。

 実際、僕はいつもテレビの砂嵐を見つめながら、過ごしていた訳で。それは地球が滅亡する前も後も変わらなかった。つまり、本当に地球が滅亡したというのを目で確認できていないのだ。

 一応、なんとなく、何かが起きたことは音で分かった。

 しかし、それ以上のことは僕には分からない。

 本当に、分からないのだ。

 いつか、出ようとおもう。

 でも、そのいつかが今日ではないということを毎日毎日続けている。

 そして。

 これは地球が滅亡する前から変わっていないことでもある。

 中学生の時、母親が同級生の父親と不倫をして、刺された。小さな町だったから、噂はまたたくまに広がり、僕は外に出られなくなった。

 母親は、と言えば、そんな僕を不憫に思ったのか。持ち前の美貌を活かして、金持ちをおとした。つまり、一生お金に困らない生活ができる環境を僕にプレゼントをすれば、僕が許してくれるだろうと思ったのだ。

 僕は。

 僕は自分の母親のことが大好きだったし、今も好きだ。

 ただ、どこかその日、心の底から諦めたことを覚えている。

 テレビの枠に収まる程度の砂嵐は、地球を支配することはできないだろう。噂まがいのことでしか侵略できない状態なら、いっそ廃れてしまえばいいとすら思う。

 僕の知る限り、世界はもっと狭くて、もっと手の届く範囲にあるべきなのだ。

 引きこもりの分際で何を言うか、と思うだろうか。

 でも、実際そっちの方が効率的であるし、その方が人間は人間らしくあることができるのだと思う。

 僕はそんな、自分の中で作っていた、地球滅亡ごっこをやめることにする。

 そうして、扉を開けて、引きこもりを今日でやめてしまおう。

 そうすれば、このままの状態から脱することができる。

 部屋のドアノブに手をかけて回してみる。

 しかし、動かない。

 前にも後ろにも扉は動かない。

「嘘にしたのに、本当のままなのは何故。」

 レシーバーからそう声が聞こえた。

 この世界線の僕が嫌いだ。

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