ベジタブルジャンクフライヤント

エリー.ファー

ベジタブルジャンクフライヤント

 ニンジンとしてもの申したいことは幾つかある。

 まず。

 キャベツがうるさい。

 なんで、あいつらはあんにも、もまともではないのだろう。喋ることが沢山あることは問題ではないと思う。俺もニンジンとして喋りたいことはある。けれど、キャベツ同士になるとそのときの会話量が一気に跳ね上がるのだ。最早、何か薬でもやっていなかったらそうはならないだろう。というレベルである。

 本当に。

 本当に本当に。

 本当に本当に本当に。

 嫌になるから。

 殺した。

 ニンジンの先は尖っているから。

 そこでキャベツの芯を貫いて殺した。

 確か、殺したキャベツは間もなく結婚を控えていた女性だったそうだ。

 そもそも、キャベツに男とか女とかがあるとは到底思えないが。

 とにかく殺した。

 警察はやって来たが、正直有能そうな感じは受けなかった。

 基本的に、事なかれ主義で、できればこれが事故としてかたが付けばありがたいというようなことを冗談交じりに呟いていた。おそらく冗談ではなく本気でそう思っているのだと思う。

 そう感じた。

 しめじが近づいてきた。こちらを見つめてくる。警察は全然、興味を示さなかったのに、やけにしめじは、話しかけてきた。

「お前、殺しただろう。」

 ニンジンは嘘をつくときに白い汗を流すそうだ。そうして、そこから落下していく汗を集めるとキャロットスープになり、それがキャロットスープの始まりだと言われている。

 そんな迷信がある。

 実際、今まで嘘をついてそんな汗が流れたことが一度もないからだ。

「白い汗が流れてるぜ。」

 黙った。

 声が出なかった。

 自分がしてきた行為を全て見透かされているような気分だった。

「やめなよー、そういうこと言うの。」

 マスカットがよこから茶々を入れる。

 その日は、どうにかなった。

 それだけだった。

 そうやって気が付けば、キャベツが殺されたことは何となくそれで、終わった。

 八百屋の主人がロールキャベツにでもしたのだろう。そうなれば、処理も簡単だし、最終的に売り物にならなかったこと自体を隠すこともできる。八百屋の御主人は店長ではあるが、一番、権力を握っているのはその奥様だ。

 奥様に、歯向かえば、野菜もご主人も一握りだろう。

「キャベツってうるさかったよね。」

「分かる分かる。死んで当然じゃない。」

「そう思う。そりゃ、手伝ってもらったこともあったけどさ、そういうのを今更出されても困るしねぇ。」

「そうそう、そういうことじゃないじゃん。分かるじゃんそういうの。そういう感じのことが分からないからキャベツなんだけど。」

「まぁ、もう、いいじゃん。死んだんだし、あぁ、本当に気持ちがなんかすっとした。あぁ、良かった。」

 次の日。

 新しいキャベツが入荷された。

 何種類かの野菜が押しつぶされた、床に破片が散らばっていた。

 夜中の内に行われた犯行は、誰の視界にも入っていないため、結局はこれ以上何かが分かることはないと結論付けられた。

 ただ。

 本当は皆が知っていたし。

 皆は口をつぐんでいた。

 次の日も。

 その次の日も。

 そのまた次の日も。

 野菜は少しずつ消えていった。

 警察も最早来なくなった。

 もう少しで、俺も押しつぶされる日が来るだろう。

 野菜のことなんて誰も気にしていない。

 そういうことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ベジタブルジャンクフライヤント エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ