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それは降り出した雪のせいなのかもしれないし、音楽を作り出すほどの力を持つ風が止んでしまったからなのかもしれないし、単純に小唄の耳が寒さで聞こえなくなったからなのかもしれない。……理由はわからない。でもとりあえず小唄の世界は無音になった。無音の世界の中を小唄はひたすら歩き続けた。小唄の頭の中にはなんの音楽も流れてはいなかったし、こういうときに、どんな音楽が流れたら良いのかを、小唄は判断できるほど音楽に興味も知識も持っていなかった。小唄はそのことを少しだけ後悔した。もっときちんと音楽のことを勉強しておけばよかったと思った。もっとたくさんの音楽を楽しんで聞いておけばよかったと思った。そうすればこの無音の世界の中でも、小唄は音楽を奏でることができたはずなのだ。
小唄は足を止め、その場で一度、空を見上げた。
そこに星は見えなかった。睡蓮さんの教えてくれたさそりの星はどこにもなかった。しかし、それは当然のことだった。空からは雪が降っている。『雪が降っているということは、空に星は見えない』ということだ。それは当たり前のことだった。だけど睡蓮さんは星を探せと小唄に言った。『暗闇の中に光る星』を見つけろと言った。小唄は睡蓮さんに星を見つけると約束した。だから小唄は雪の降る夜の中でも、……ずっと星を探していた。
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