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 ……でも、とくん、とくん、と聞こえてくる睡蓮さんの一定の鼓動を聴いていると、次第に小唄の心は恥ずかしさよりも、一種の安らぎのような感覚を覚えるようになっていった。それはとても不思議な気持ちだった。

「これからとても大事なお話をします」と睡蓮さんが言った。小唄は「はい」と睡蓮さんに返事をした。

「人間は後ろを振り返った人から、だんだんと死んでいきます。だから小唄くんは前だけを見続ければいいのです。生きることは本来、そういうものなのです。後ろを振り返るのは、それができるようになってからで構わないのです。前を見ながら後ろを振り返ろうとしてはいけません。そんなことをすれば小唄くんの心はきっと、『根元から二つに切り裂かれてしまうでしょう』。……それは絶対にいけないことなのです。どんなに辛くても、そんなことをしては絶対にいけないのです。いいですか?」

「はい」と小唄は睡蓮さんに返事をした。

「……人生は辛いものです。また、自由という言葉もとても厳しいものですね。自由と孤独は同じもの。そして孤独とは死、そのものです。誰しも後ろを振り返れば、そこにはいつも死が待っています。死は後ろを振り返った小唄くんにきっと優しく微笑みかけるでしょう。小唄くんをそっと抱きしめてくれることでしょう。そして小唄くん自身がにっこりと死に向かって微笑みを返してしまえば、死もにっこりと笑って、小唄くんのすべてを包み込んでくれることでしょう。それで、すべてが終わります」

「終わる?」

「はい。すべてが終わるのです」

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