13
列車はベンチに座っている小唄目掛けて突進してきた。小唄はその光に息を飲んだ。
……このままこの場所にいつづければ、僕はこの列車に引かれるかもしれない。小唄は心の中でそう思った。かんかんという音は今ではとても大きくなって、本来の役割である警告音の役目を立派に果たしていた。綺麗だと感じた光は洪水になり、小唄はそのまぶしさに恐怖を覚えた。ぶおー、という音がした。それは列車を引く機関車の煙突から勢い良く煙が発せられた音だった。でも小唄にはその音がまるでなにか巨大な獣の咆哮のように聞こえて、自分の身を小さく震わせた。
……僕はここにいてはいけない。この場所から一時でも早く逃げ出さねばらならない、と小唄の心が叫んだ。だけど体はちっとも動かなかった。やがて列車の走る振動を体に感じ、巻き起こる風が小唄の前髪を揺らし始めるくらい列車が小唄に接近してきた。
……ここで僕の人生は終わる。僕はここでこの列車にひかれて、死んでしまうのだ。……でも、それでもいい。そうなってしまってもいいんだ。小唄は巻き起こる恐怖を心の奥底へと押し込めていた。体の震えは止まらない。光が小唄を飲み込んでいった。
小唄はぎゅっと目をつぶった。
直後、きーーーーーー、という音が小唄の直ぐ近くで鳴り響いた。それは耳をつんざくほどの奇声だった。小唄は思わず両手で自分の耳を塞いだ。なにが起こったんだろう? 小唄はそんなことを疑問に思った。
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