61【告白、そして】※
間宮遥香、彼女は言った。
「これがわたしの覚悟。わたしは遊びで漢路君に付きまとってる訳じゃない。本気で漢路君のことが好きなの。ま、盛大にフラれたけどね」
遥香は涙を流す事はなかった。ただ、少し遠い目で騒つく会場に視線を送ると苦笑いする。
「これでまたラブレターが増えちゃうかも。なんてね。それで、暁月さん。貴女はどうなの?」
「……ど、どうなのって……なんだい……」
「貴女も漢路君が好きなんでしょ?」
「そ、それは……」
海月は目を逸らし言葉に詰まった。
「伝えないと、伝わらないんじゃないかな。わたし、最初はともかく、リリィの恋を邪魔したいとかそんな気持ちはもうないの。自分に、嘘をつきたくなかっただけ」
「あたしだって……そんなつもりないよ。だから、言わないんだ。いいんだよ、鈴木君とリリィが幸せならそれで。二人共、あたしの大切な友達だから」
「……大切な、友達……」
遥香は押し黙り、海月の言葉に耳を傾ける。
「そう、君だってそうだよ間宮さん。だから傷付く前に諦めたらいいんだって思った」
「……わたしは……漢路君の優しいところが好き」
「……え?」
「わたしは、すぐに手を取れない優柔不断な漢路君が好き。全校生徒の前で学園一の美少女をフッちゃう、そんな、漢路君が好き。決して男らしいわけじゃないけれど、誰よりも優しい、鈴木漢路君が、大好き」
そう言った遥香の表情はとても清々しく、海月にはとても輝いてみえた。
「貴女は、漢路君のどんなところが好き?」
「……キ、キラキラ、してるところ……」
言葉を漏らし、はっと両手で口を押さえる海月に遥香は優しく微笑んだ。
「なんだ、ちゃんと言えるんじゃん」
「うぅ……意地が悪いぞ間宮マングローブ……それでもあたしは見守るんだよ。それがあたしの覚悟、あたしの生き方なんだ。
……フワフワしてるよな。伊達に名前がクラゲじゃないや」
「やっぱり馬鹿だよ、暁月くらげさん」
「う、うるさいな〜」
二人は吹き出すように笑った。
「あの二人ならきっと上手くいくよ」
暁月の言葉に嘘や妬みなんてものはない。
「そうだね。だってさ……」
「「漢路君だからね」」
彼が相手なら誰でも幸せになれる、なんて事を考えているのか、二人は声を合わせて言った。
……
一方で、屋上に通じる重い扉を開いた漢路の目に外の光が射し込む。漢路は思わず目を細めた。
その視線の先、ポツンと添えられた悪魔を発見した漢路は一歩足を踏み出す。
「……来ないでよ、ふん……」
リリィの尻尾はいつものようにピンと立ってはおらず、力なく萎び切っていた。どうやら相当落ち込んでいると一目で分かるくらいにフニャッと。
「リリィ……えっと、ごめん……」
「何が?」
「う……だから、その……」
「ぷんっ……」
とは言いつつも尻尾がピクンと反応するリリィは漢路に背を向けたままだ。
「リリィ……聞いてくれ!」
「……な、何よ……き、聞くだけなら……いいわよ。か、勝手に喋りなさいよ馬鹿」ドキドキ
あからさまに反応しているリリィは平静を装っているつもりだ。
チラチラと漢路を見てはすぐにプイッと前を向いてを繰り返している。
尻尾もゆっくり左右に揺らしながら。
漢路は大きく息を吸い込んでは吐いてを繰り返す。
「……ふぅ……よ、よし……」
「……」ドキドキ
「……すぅ……はぁ……よ、よし……」
「……っ!」はわわわ
「…………すぅ……」
「って、いつまでやってんのよっ、この馬鹿かん……っ!?」
痺れを切らしたリリィがパッと振り返った、それとほぼ同時に漢路が言葉を吐いた。
「僕はリリィが好きだっ!!」
「……あ……は、はいっ……」
……沈黙
……沈黙
顔を真っ赤にした二人はじっと無言で見つめ合い、瞳を瞬かせた。
「あ……えっと……ごめん」
「な、なな、何がよ?」
「すぐに手を取れなくて……ごめん」
「ま、まぁ……それがかんじの良いところ、だし?」
と、リリィは細い身体を小さく振り上目遣いで漢路を見上げる。しかしこの上目遣いは狙ったものではなく、ただ小さなリリィが漢路の目を見るには見上げるしかないのである。
「……僕は……リリィが好きだ」
「ちょ……な、何でもう一回言うのよ!?」
「あ、ごめん」
「謝んなくてもいいわよ……も、もう一回、い、言ってみなさい?」
「……え、何で?」
「ちょっ……何よその顔!?」
「もしかして言って欲しいとか?」
——玉砕っ!!!!
「ぐべすらぁっ!?」
漢路は強烈な膝蹴りを股間に喰らいあえなくダウン。屋上のコンクリートで出来た白い地面に仰向けで倒れる。
そんな漢路に飛びかかるように跨ったリリィは漢路の耳元で艶やかな声を漏らす。
「……ねぇ、かんじ……?」
「ぬぁっ……リリィ!?」
「する?」
「いや、そんな……ここ学校だぞ!?」
「大丈夫だって、誰も来ないわよ」
リリィの表情はとても楽しそうだ。まるで新しい玩具で遊ぶ子供のような瞳で、悪魔的な言葉を放つ。
「サ、サキュバスってるぞ!?」
「サキュバスだし。ほらほら、誰も来ないって」
二人が戯れあっていた、その時だった。
「それ〜が、来ちゃうんだよね、うん」
独特なトーンで放たれた二人以外の声にリリィの身体が硬直する。
見回すと、二人しか居なかった屋上だった筈が、いつの間にか三人、いや、四人になっていた。
真っ赤な紳士帽子を被った細身で長身の男、そしてグラビアアイドル顔負けプロポーション、赤髪ロングのパッと見、若そうな女。女は尻尾も生えていて、見るからにサキュバスといった所だ。
そしてその肩には、
『オオキニ、ゲンキシトッタカ?』
「あ、あの時のっ……」
漢路は息を呑んだ。
「お祭りの夜の……使い魔……!?」
そう、あの夜リリィが掬いあげた巨大な出目金使い魔だった。
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