35【xs】


「ふぬぬぬ……」プルプル……



 うわぁ……かなりプルってるけれど話しかけて大丈夫だろうか?


 リリィは尻尾をピンと張り、ある一点を見つめては震えている。もとい、睨みつけている。目線の先には……可愛らしい淡いピンク色の水着、か。

 もしかして、あのフリフリの女の子らしさマックスな水着がお目当てなのだろうか。


「おーい、リリィ。水着は決まっ……」

「ひゃんっ、すずきっ!?」

「いや……そんなに驚かなくても。その水着にするのか?」

「ア、アンタには関係ないでしょっ……す、すずきのくせに憐れみの視線を送らないでよバカ!」


 えー……別にそんなつもりは……


「み、見てんじゃないわよ……」

「ツンツンするなよ」

「ツ、ツンツンとか言わないの!」


 リリィは膨れて横を向いてしまった。けれど視線は先程の可愛い水着から外れていないみたい。


「この店試着出来るし一回着てみれば?」

「……ど、どうせサイズ合わないわよ」

「なら子供サイズで探す?」

「アンタ私に殺されたいのかしら……?」

「と、とにかく着てみろよ。シャツの上からでいいから。」


 リリィは頬を赤らめ腕を組む。残念ながら何一つ寄るものがない胸元をピンと張り尻尾を左右に振るリリィは口先を尖らせる。


「わ、わかったわよ。すずき、アンタも来なさい」

「え……何故にそうなりまする?」

「マリアとは入って私とは入れないのかしら?」


 こ、これは有無を言わさず、だな。

 リリィなら拒否反応も出ないし大丈夫か。いや、僕が大丈夫でも他人の目が大丈夫じゃないというか……女子の視線が痛い。



 そして試着室内。


 リリィは薄いシャツの上から水着のトップスを着用して見せる。シャツの上からでも少し余りがあるように感じるな。


「……わ、笑いなさいよ……ふんだ……」

「ま、まぁ……まだ全てが終わった訳じゃないさ」

「終わりよ……はるかのバカにまた笑われるだけよこんなの。はぁ、すずきの精○で少しは成長したかと期待した私がバカだったのよ……ふん……もっと栄養価の高いやつ出しなさいよ役立たずなんだから」


 あーぁ、尻尾まで萎びちゃったよ。というか、役立たずはないだろ。

 とはいえ、何とかならないものかな。この水着、値段はお手頃だし確かに可愛らしいからなぁ。


 ん?


 サイズ……Mか。もしかしてSとかあるんじゃ。


「リリィ、諦めるにはまだ早いぞ。僕に任せろ」


 僕はカーテンを少し開けて店員さんを呼んだ。カオスな状況に店員さんは一瞬怯んだけど、サイズの有無を問うと笑顔で応えてくれた。

 どうやらこれより下のサイズもあるみたいだ。


 暫くすると店員さんが同じデザインの水着を二着持って来てくれた。SとXSだ。

 結局リリィは最小サイズのXSに落ち着いた。

 余りもなく、小さな胸もしっかりホールドされた。


「良かったな、リリィ」

「ななっ、何よすずきのくせに……えっと……ま、まぁ、あ、ありがと」




 こうして何とか水着を入手した僕達だった。




 帰り道、僕とリリィはいつもの商店街を歩き自宅へむかう。暫く歩くと駄菓子屋が見えてくる。

 その駄菓子屋から一人の女の子がてくてくと出てきたのが見えた。美味しそうにチュッパチャプスをチュパっている。幸せそうな表情だな。


「……ア、アンタは……!?」


 リリィの尻尾がピンと伸びる。その声に反応した女の子はこちらに向き直り口元を緩める。その足元には……


 ……影猫……!?


『久しぶりだにゃ、人間。ご主人がお前達に用があるみたいだにゃ』


 ご主人……つまりこの影猫の主人って……このちびっ子なのかな?

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