33【夏といえば海とか誰が決めたのよ】


 朝から蝉が五月蝿い。夏の風物詩が泣き喚いていて寝てやいられない。蝉からすればやっと来た晴れ舞台なのだろうけど、普通にいい迷惑だ。


 ベッドの上では布団に潜り尻尾だけをピンと立てるリリィのおしり。


「あーもうっ、すずき! 何とかしなさいよ!」

「仕方ないだろ、僕だって我慢してるんだ。夏なんだから蝉くらい鳴くだろうに」

「うるさい、うるさい、うるさーい!」


 リリィは布団に潜ったまま大声で悪態をつく。そんなリリィの影からひょっこり姿を現したゼムロスさんは、ピンと羽を伸ばすようなポーズを取ると朝からハイテンションに部屋を飛び回る。


『ヒャッハァ! 夏だぜお前らっ! 夏と言やぁイベント盛りだくさんだぜ!』


 正直、このテンションは朝には堪えるな。


「夏なんて暑いだけじゃない……暑苦しいから喋らないで、使い魔のくせに」


 そう言ってリリィは顔を出し膨れて見せた。


『こんちくしょーめ、口癖みたいに使い魔使い魔と罵りやがって。おい兄弟、お前もなんとか言ってやれい!』

「オーダー、とりあえず起きろ」

「……い……や……よっ……ぐぬぬっ……」


 言葉と反して身体はムクッと起き上がる。僕を見るリリィは普通にめちゃくちゃ怒っていた。


「ほら、明日皆んなで海に行くって決まっただろ、それでリリィの水着を買いに行くって間宮さんが言ってたじゃないか。暁月と小野も来てくれるしマリアの馬鹿もくるみたいだぞ?」

「な、何よ……そんなの公開処刑じゃない。はるかのやつ、絶対私を笑う為だけに来るんだよきっと。ムカつくムカつく〜っ!」


 どうやら自分のプロポーションにあまり自信がないみたいだ。とはいえ、初対面の時はほぼ水着だったじゃないか。僕がそう言うと、


「あれは私服よ。私服と水着は違うの!」


 そんなものか?

 リリィはピンと尻尾を立てると膨れてみせる。


「すずき、アンタも付いて来なさい?」

「え〜……間宮さんと二人で行けばいいじゃないか……」

「ふん、誰があんな女と二人で。いいから黙って付いてくるの、すずきのくせに生意気なんだから」

「へいへい……」



 こうして僕は半ば無理矢理に夢咲モールへと駆り出された。道中、間宮さんと合流したが、どうやらマリアももれなく付いて来たみたい。


「やぁ、ボクのリリィ!」

「アンタのじゃないわよ!」

「ボクがリリィの控えめボディにピッタリでチャーミングな水着を選んであげるからね!」


 体育祭の後、間宮さんは眼鏡をコンタクトに変えて髪をばっさりカットした。その姿もはっきり言って天使級の可愛さだ。

 その代わりと言ってはなんだけど、性格はオープンになり、リリィとまではいかないがクラスの男子、いや学校中でも恐れられる存在に成り上がった。……成り下がったのか?


「漢路君、わたしの水着も選んで〜?」

「え、ちょっと間宮さん……」


 き、拒否反応が……


「本当に漢路君って……なんでリリィだけはベタベタ触っても何にも起きないのよ!」


 間宮さんは膨れてみせた。


「そんな事知らないよ……リリィは……その……」


 僕はリリィの控えめボディに視線をやる。リリィはハッと赤くなり僕を睨み付けた。


「な、何よ……どうせ私は女性的じゃないわよ悪かったわね!」

「はっは〜、リリィはぺしゃんこだから可愛いんだよ〜、恥じらう姿が最高だね〜っ!」

「放しなさいっ、キモいからマリア!」


 何だか先が思いやられる。こんなのでまともに買い物が出来るのだろうか……


 それにしても間宮さんは何故僕なんかを好いてくれるんだろうか。


「ほらすずき〜、ボケっとしてないで行くわよ!」


 おっといけない。

 仕方ないから付き合ってやるか。


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