10/22 愛してるのかもしれない

 僕は人間が得意な方ではない。

 色々な経緯をえて、人間が得意ではなくなってしまった人も多いと思うが、自分もその一人であると思う。

 一時期、本当に狭い世界でしか生きたくないとトグロを巻いたことがあった。

 人に騙されたとかではなく、ただただ疲れてしまって、人間不信人嫌いとは到底言えないレベルではあるのだが、人が受け付けなくなった時期がある。

 何がきっかけかは忘れてしまったが、そんな自分の様子を当時聡い彼女に話したことがある。

 ポロリと口から出てしまったと言った方がいいかもしれない。

 確か、彼女に自分の人間が苦手な部分を言い当てられたからだった気がする。

 言い訳染みた、ただの弁明の様なものだったかもしれない。


 人が得意ではないのだ。苦手なのだ。もしかしたら嫌いかもしれない。


 集団の中に中々入れず馴染めず、そんなか自分が酷く滑稽で疎ましくなる。そもそも人に興味が持てなくわかない。そんな幼子の言葉をつらつらと並べてしまった。

 すると彼女は君にはそのきらいが前があった。しかし、本当に君は人が嫌いなのか?と返してきた。

 なんだかその言葉にお前の前にいるのも人間だぞと言われている気がして、言葉を濁した。

 彼女のことは好きだった。

 彼女だけじゃない。他にも気の合う友人のことは嫌いだとは思えなかった。

 だけど人が嫌いだと思えた。自分の中でも矛盾していることだと自覚があり、それが到底いいこととは思えなかった。

 嘘ではないとはいえ、取り繕うように勿論君のことは好きだよ。と、言葉を紡ぐが発した本人でさえ今この場でその言葉はないだろうとも思った。

 彼女は笑いながら、そうじゃない。君は本が好きだろ? と、言葉を僕に投げかけた。

 僕は間髪入れずに勿論だとも。と、答えた。

 本は好きだ。本こそ、愛しているものだ。

 人と関わらずとも本は様々なことを自分に教えてくれる。物語はどんな世界にでも自分を連れて行ってくれる。当時は慈愛と言う言葉そのものだと、僕は思っていた。そんなものを愛さないわけがない。

 そんな言葉を聞いて、また彼女は笑った。


 人間が書いたのに?


 と。

 君は人間が嫌いだと言うのに、興味が持てないと嘆くのに、君は人の作ったものを愛し過ぎている。人が嫌いなら人と関わりたくないだろう? でも君は積極的に関わっているように見えるよ。人の作ったものを介してね。

 今度は本当に自分の口から言葉がなくなってしまった。

 まさしくその通りだと思ったからだ。


 君は人を好きになるどころかむしろ愛しているんじゃないか?


 ますます言葉がなくなった。

 その時手の中に収まっていた本は奇しくも友情なのだから人生というのは面白い。

 


 疲れていて、上手くいかないことばかりで、新しい環境に摩耗して、人が嫌いと言いそうになる時、彼女の言葉を思い出す。

 何も得れなくても、小説を書くのを辞めても、上手くいなくても、本は好きだ。

 人が書いた文字が好きだ。

 本だけじゃない。人が作ったものが、考えたものが好きだ。

 きっと何処まで道が進んでもそれは変わらないだろう。

 人が嫌いではない。僕は人を愛しているのかもしれないなと、言葉を置き換え踏みとどまる。

 そんな秋の夜長が嫌いじゃない。

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