第2話 マガイダー、夢でいきさつを振り返る

 「行くぜ、福ちゃん! 合わせろよっ♪」

 白と銀のカラーリングで天使を思わせる鎧を身に纏い銃と剣が一体化した武器を構えた戦士、シルバードが俺に指示を出してくる。

 

 「福ちゃんって言うな、お前が俺に合わせろ!」

 こいつの軽いノリが嫌いだが、やるしかない。

 俺は俺で柏手を打って両掌を引き離し武器を取り出す。

 

 長さは日本刀、刃は分厚く幅広で赤く光り切っ先が鎌の様に曲がりナックルガードが付いたうなぎ鉈と言う異形の武器、マガイダーブレードを中段に構える。

 

 「相変わらず、子供が怖がる武器だよなそれ? 玩具化とかされねえよ?」

 シルバードが人の武器にダメ出ししてくる、仕方ないだろこれしかないんだから。

 ってゆーか、ヒーローが玩具化とか商売っ気出すなよ。


 何故俺がこのシルバードと組んだかと言うと、偶然にも、互いに別の場所で同じゴクアックの奴らを相手にしていたからである。

 同じ敵を相手にしているうちに遭遇し、成り行きで一緒に戦う羽目になった。


 それからというもの登録しているヒーロー組合からも、同行して解決する案件を定期的に回されるようになってきた。


 一緒に戦うようになったら、世間からは俺とあいつが比べられるようになりいつの間にやらシルバードの二号ヒーロー扱いされてしまっていた。


 プライベートでも、ちょくちょく飯食ったりと行動を共にする事になったがライフスタイルの違いとかまあ色々めんどくさい奴だったので付き合いづらかった。

 

 例えばから揚げを食う事になった時、俺はあればポン酢で食う派だ。

 だが、他の食べ方を否定はしないし食える。

 

 それに対して、シルバードの野郎はと言えば飯の席ではとんでもなかった。

 「から揚げはレモンが一番だぜ♪ ほら♪ 福ちゃんも、レモンかけてやるよ♪」

 と、同行者の意見も聞かず他人のから揚げの皿にもレモンをかける。


 俺でなければ戦争ものである、人間は食い物の好みでさえ争うと言うのを知らん奴だった。

 「福ちゃんぐらいだよ、友達で俺と飯一緒に食ってくれんの♪ 後輩とか飯に誘っても付き合ってくれねえんだよ、ひどくね?」

 などと喜びながら愚痴っていたが、そりゃヒーロー業界の後輩とかには避けられるよな。

 あの人性格キツいんです、人気はあるのにとか言われるのもわかる。

 

 そんな俺とシルバードのコンビがいるのは、ピンク色の肉の壁で出来た玉座の間。

 ゲームで言うならボスの居場所、悪の組織ゴクアックの基地ゴクアック城。


 この城のある場所自体が異世界だった、仲間のヒーロー達が異次元へのゲートを開けて維持してくれている。


 目の前にいる巨大な三本角の灰色の魔神こそ、キングゴクアック。

 俺達の倒すべき敵だ、こいつを倒せばしばらくは休める。


 そして、シルバードとのコンビを解消しフリーのヒーローに戻るんだ。

 こいつとの疲れる打ち上げよりも、一人で孤独のグルメを楽しめる日が来る。

 この時まで俺はそんな事を考えていた。


 「ついに来たか、シルバードとマガイダー」

 キングゴクアックの奴は、俺よりもシルバードを睨んでいた。

 非情に腹立たしいが俺の事は、おまけ扱いなんだろう。


 キングゴクアックが小手調べ感覚で出してきたビームを、俺達が武器で打ち返す。

 「へ~イ、ピッチャービビってる~?」

 シルバードがよせばいいのに、キングゴクアックを煽る。


 「愚か者が!」

 キングゴクアックが、壁になってる肉塊を投げて来た。

 

 「うっわ、気持ちワリっ!」

 飛んできた肉塊は、壁に耳ありどころか目も口もあった。

 「バカ、マガイダーキャノンッ!」

 俺は、膝から巨大な火球を発射して肉塊を粉砕した。


 「フン!」

 肉塊を貫いてキングゴクアックの方へと向かった火球を、鼻息で消された。

 「……マジかよ」

 か~な~り頑張って、高威力を出した技を鼻息で消されて俺は心が折れかけた。


 「あいつも悪魔の類だから、福ちゃんの攻撃通じねえのか?」

 シルバードが予想をする、敵の親玉と一緒にしないでもらいたい。


 キングゴクアックの奴は、弾除けシューティングゲームのボスみたいにビームや火の玉をガンガン撃ってくるのを俺が弾いてシルバードが反撃する時間が続く。


 やがて、キングゴクアックが玉座から立ち上ると同時に景色が玉座の間から広大な荒野に変化した。

 

 「小手調べは終わりだ、全力で相手をしてやろう」

 弾幕で攻めるだけでは埒が明かないと判断したのであろう。

 「ずいぶん、長い小手調べだな!」

 相変わらずシルバードは、敵を煽る。


 家一軒分位の拳が振り下ろされ、大地が爆ぜる!

 俺は直撃は避けたものの、衝撃波で吹き飛ばされて背中を地面に打ちつけた。

 「がはっ! 直撃しなくてよかった」

 マガイダーブレードを杖代わりに立ち上がる俺、シルバードはどうしたかと見回せばあいつは相変わらずだった。


 「デカけりゃいいってもんじゃねえぞ~♪」

 キングゴクアックを煽りながら空を舞い、逃げ回りつつ武器から光の砲弾を撃って戦っていた。


 俺も休んではいられない、マガイダーブレードを脇に構え足に力を入れる。

 足裏を爆発させてロケット噴射で飛んで行き、獲物を振ってキングゴクアックのアキレス腱をぶっ叩いたっ!


 気持ち悪い音を立てて奴のアキレス腱に、刃が食い込む。

 

 「ギャ! おのれ、小虫がぁっ!」

 キングゴクアックが、俺を振り払おうとシルバードから目をそむけた隙を突いて

 「くらえ、エンジェリックバスター!」

 シルバードが、胸部装甲を展開し赤いレンズを出して白く光り輝くビームをぶっ放した。


 その光線はキングゴクアックの目を撃ち抜き、奴に苦悶の声を上げさせた。

 俺も樵の如くマガイダーブレードで奴の足を切倒し転倒させる。


 奴の倒れた衝撃は空まで響いた。

 「よっしゃ♪ 行くぜ福ちゃん、合体技だ!」

 シルバードが倒れたキングゴクアックの心臓を狙い剣を構える、それに合わせて俺もマガイダーブレードを構えて俺達は互いの武器にエネルギーを流し込んだ。


 光輝く白き刃、赤雷を纏った黒い闇の刃、二振りの刃から放たれた光線が遺伝子の如く二重螺旋を描きながらキングゴクアックの心臓を貫き奴の体を爆破した。


 そして、景色は気持ち悪いピンク色の玉座の間に戻る。

 「へへ♪ やったぜ♪」

 勝利を確信し喜ぶシルバード。


 「いや、油断すんなよ!」

 俺はまだキングゴクアックが滅んだと思っていなかった。

 案の定俺達に続いて奴が戻ってくる、目を射抜かれ片足を切られ心臓を撃ち抜かれて爆散したはずなのに傷跡を残したままその巨体が復活していた。


 「ゲゲッ! まだ死んでなかったのかよ!」

 シルバードの嘆きには同感だった、まだ戦うのか?

 「我は滅びる、だが貴様らも道ずれだっ!」

 キングゴクアックは天井にブラックホールを開くと同時に、その体が砂となって崩れて行った。


 そして、主人の死に追従するかの如く玉座の間も崩れだして来た。

 だが、ブラックホールは開いたままでどう閉じればいいのかわからなかった。

 「勝ったけど、こんなのってアリかよ! 逃げるぜっ!」

 シルバードは我先にと逃げ出していた、こういう時だけは行動が早い奴だ。


 「いや、ちょ、お前先に逃げるなよっ!」

 シルバードの奴を俺が追いかけた時、俺の目の前を巨大な肉塊が落ちてきて道を塞ぐ。

 「くそっ! 殴ってもブヨブヨして壊せねえ!」

 道を塞ぐ肉の壁は殴った拳を跳ね返して、俺を逃さなかった。

 そんな事をしている内に、俺はブラックホールへと吸い込まれて行った。


 これが、俺の地球での最後の戦いの記憶だった。

 「……夢か、あの野郎一人で先に逃げやがって許さねえ!」

 爽やかな朝、簡素だが整えられたベッドの上で俺は目を覚ました。


 「あのブラックホールが、このルミナースの世界に通じていたのは運が良いやら悪いやらだな。これからどうしよう?」

 

 地球からやって来たダークヒーロー、マガイダーの新しい朝がやって来た。

 


 


 


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