第3話 シェリルの術式の威力
アホロテへと向かっていった風は、強靱な鎧であるはずの鱗をいとも簡単に切り裂いた。術式を解放させた本人であるアンドレアルフスはひゅぅっと口笛を鳴らす。
「やっるぅ!」
暴風が収まれば、アンドレアルフスの足下にばらばらとアホロテの残骸が転がった。黄みのがかった灰色の砂地は、赤黒く変わる。
突然の事に、アンドレアルフスの片足を砂の中へと誘っていた個体も離れていった。
アンドロマリウスが彼のそばへ近付く。アンドレアルフスは興奮した様子で振り向いた。
「彼女すごいな!
この術式でこんな威力、俺は初めてだ。
しかもこれ、シェリルの魔力切れまで使えるんだろ?」
アンドロマリウスが力なく首を振る。何体かのアホロテが地上へと現れた。だが、囲っているだけで大した動きはない。
様子を見ているのだろう。
「お前が最大で解放したからだろ。
この術式の使い方はそうじゃない。
あとシェリルが魔力切れを起こすほど使ったら地形が変わる」
「分かってるさ」
分かってると良いながら軽く剣を振り回す。小さな風が刃のように舞い、砂を抉っていった。新しいおもちゃを見つけた子供のようである。
「いい具合に集まってきたな」
「おい、まさか――」
アンドロマリウスが彼の肩に手をかけようとしたが、その手を振り払ってシェリルの方へと体を向けた。
「シェリルー!」
大きく手を振アンドレアルフスに、シェリルも手を振って反応する。
「おい!」
「結界、壊れないようにしっかり張っとけよ!」
アンドロマリウスの言葉を無視して叫びきった。アンドレアルフスとシェリルの間に割り込むようにしてアンドロマリウスが相対すると、アンドレアルフスは楽しそうな表情で笑っていた。
「マリウス、ちゃんと避け切れよな」
「……」
「シェリルは大丈夫。
自分の作った術より堅い結界なんて楽勝だろ」
アンドレアルフスは、アンドロマリウス越しにシェリルが結界を張り直している様子を確認した。自分の力量をしっかりと把握している彼女に、心の中で合格を出す。
アンドロマリウスは事も無げに言うアンドレアルフスをキッと睨みつけ、彼と離れる為に背を向けた。途中アホロテの間を堂々とすり抜けたが、何もしてこなかった。
アホロテの頭脳はあまり発達していない。獲物を感じれば追いかけ、危険を感じれば動きを止めて様子を見る。今アホロテが警戒しているのはアンドレアルフスだ。アンドロマリウスに興味はないのだろう。
アンドロマリウスはそのまま歩いていき、シェリルの結界とアンドレアルフスの丁度真ん中辺りで槍を構えた。
「ここで相殺する」
「ご勝手に」
アホロテはアンドレアルフスを警戒している様子で、地上へ顔を出したまま未だに待機している。それでも、人一人分の身長よりも高い位置に目があった。かなりの巨体が砂中へ隠されているのが分かる。
確かにこれだけの大物を一体ずつ倒すのは苦だ。動きのない今の内に、一網打尽にしてしまった方が良いに決まっている。
アンドロマリウスは、アンドレアルフスの考えが正しい事を理解していたが、気は進まなかった。
「んじゃ、覚悟は良いか?」
小さく呟き、アンドレアルフスは剣に力を込めた。相変わらずシェリルの術式は光を放っており、魔力の解放を待っている。重心を下に落として構えをとる。アンドレアルフスが横一線に剣を薙いだ。
魔力の風が刃となってアホロテの群へと向かっていく。それを最後までは見届けず、彼は剣を返しながら体の向きを変え、もう一閃する。
アンドレアルフスの放った魔力の刃は、ほとんどのアホロテを切り裂いた。残っているのはアンドロマリウスがいる方向の数体だけである。身を守る為の防衛と言うよりは、一方的な暴力と言った方が正しい。
残ったアホロテは、一気に仲間が減った事に腹を立てたのか、地上へと胴体を晒し始めた。
「的が大きくなって結構!」
そう言うなりアンドレアルフスは容赦なく剣をふるったのだった。
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