第7話 すてきな招待状
回避不可能だと悟った二人は、諦めてアンドレアルフスのテーブルに近付いた。
リリアンヌは主の後ろに控えている。そしてアンドレアルフスの向かいには二つの椅子が空いていた。まるで、この事を想定していたかのような配置である。
「ほら、そこに座って」
案の定、アンドレアルフスから指定される。顔を見合わせた二人だが、素直に座った。
「リリアンヌは仕事が速いから助かるな」
「いえ、私が見つけたというよりは、見つけていただいたという方が正しいので……」
シェリルはそんな会話を聞き流しながら、内心で首を傾げる。人混みの中であるせいか、アンドレアルフスからの得も言われぬ恐怖感を感じない。
アンドレアルフスといえば、恐怖。そんな印象を持っているシェリルには、恐怖を感じない事の方が違和感となったのだろう。
「シェリル、この子を助けてくれてありがとう。
んで、何でそんな変な顔してるんだ?」
そう言う彼の表情は、にやにやという表現が当てはまるくらいに口元が歪んでいた。目を見れば、からかいの色を目に宿していた。シェリルの表情の原因を知っていて、わざと聞いていると分かる。
目の前の悪魔は狡猾な面を持つ、変わり者の悪魔だ。懐に入れた相手には面倒見の良さを見せるようだが、すぐに人の心を試したがる。どんな反応をし、どう選択するのか、知りたがる。
観察力に長けていて、自らの力に自信があるからこそできる事だが、毎回試される方にしてみれば迷惑な事である。
「いつものオーラが減ってるなと思ったのよ。
きっと、その奇抜な服装のせいね」
シェリルがそう嫌みを言えば、楽しそうな表情を浮かべる。そんなアンドレアルフスに、アンドロマリウスが険のある声を出す。
「もとの姿見が目立つからといって、それ以上に目立つ服装にするか?
相変わらずお前は意味が分からん」
「良いんだ。
俺はこの世界であんまり力が使えないからな」
確かに目立つ容姿の事だけならば、目くらましの術を使えば簡単に解決する。しかし、アンドレアルフスはこの世界にこっそり居候している身だ。簡単な術ですら負担があるという。
目くらましは簡単な術であるが、それを使い続けるとなると、大きな負担になる事は想像に難くない。苦肉の策かとシェリルは思ったが、それにしては彼の表情は晴れやかだった。
「これぐらい派手でも、俺は似合うからな。
まあ、普段質素な装いなのは、俺の美しさを際立たせる為だし」
元から装うのが好きな質だったようだ。苦肉の策でもなんでもない。ただの趣味だ。シェリルの視線に、残念な人を見るかのような意味合いが強くなる。
「目立ちたがり屋な孔雀は、装っても本命には見向きもされないぞ」
「良いんだ。
俺はこれを楽しんでるし、本命なんていないしな」
アンドレアルフスが朗らかに笑う。アンドロマリウスも口元を緩めた。互いに会話を楽しんでいるのだろう。どちらもシェリルと話をする時とは明らかに表情が違っている。
皮肉を含めた楽しそうな応酬が繰り返されていく。
何となく、シェリルは二人の間柄を見せつけられた気がし、口を閉じてしまっていた。
「ところでマリウス。
お前たち、カリスの殿下から何か言われたんじゃないか?」
テーブルにひじを突き、尊大な態度で問う。行儀は悪いが、妙に似合っていた。
どうやってそんな情報を手に入れてくるのかは分からないが、面白そうな情報には敏いのだろう。
「すてきな招待状を頂いた」
「俺たちも貰ったんだ。なんか嫌な感じするだろ?」
いつの間に出しのか、その手には書簡があった。
「商館の主とその花形殿、噂はよく聞いている。
その街を離れるのは不本意かと思うが、そこまで噂される程を見てみたい。
とか、まあそんな感じの事が書いてある」
皮肉った言い方をしたアンドロマリウスも、会話を面白くなさそうに聞いていたシェリルも真面目な表情になった。リリアンヌは会話が始まった時から表情を消していて、今も変わらない。
そんな中、アンドレアルフスだけは、楽しそうな表情を浮かべている。
「目的地は同じだし、一緒にカリスまで行こう。
その方が絶対楽しいぞ」
アンドレアルフスの誘いに、二人は顔を見合わせたのだった。
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