第6話 想定外な地下牢
力関係で言えば、シェリルよりもアンドロマリウスの方が上だ。命を掛けたとしても、殺せるか分からない。
だから彼女は、そんな相手にできる最大限の事をしてやろうと思っていた。尊厳を踏みにじり、名のある悪魔である誇りを失わせてやろうと、そう考えていたのだ。
「――何を、やっているの」
地下牢の中を見たシェリルは目を疑った。記憶のない時に何が起きたのだろうと、気になってしまう。地下牢の中では、アンドロマリウスが鎖に繋がれていた。
胡座をかくようにして座っている彼の両腕は上げられ、その両腕に絡みつくように、鎖がじゃらじゃらと繋がっている。
鎖はあったが、こんな量の鎖はなかったはずだ。
それに、彼女の記憶では錆だらけで使えそうになかった。
彼女自身、あれだけの術を使ってここまで用意する力が残っていた自信はなかった。
「……封じると言っただろう?」
「言ったわ」
できうる限りの屈辱を与えようと思っていた悪魔が、こうなっているのが当然、といった風に堂々と捕らえられている。
確かにこうする予定だった。だが、シェリルの想像とは違う。違和感しかなかった。
シェリルの眉間に皺が寄る。
「これは、私がやったの?」
最初に確認しようと思っていた事だった。シェリルが自力でここまで実行する事ができたのか、確認したかった。
「――……いや、お前は俺に術を放った直後に倒れた」
「は?」
意識がなかっただろう事は想定内だった。だが、最初から動いてすらいなかったのは想定外だ。ならば、この状況は悪魔がもたらしたのだろう。
「意味が分からないわ」
これがシェリルの本音だった。
「術は完成して、無事に俺に適応された。
だから、倒れたおまえをベッドに運び、封印されるにふさわしい場所を探した」
「……それで、どうしてこんな風に?」
やはり、想像していたのと違う。シェリルはどうして良いか分からず、続きを促した。
「俺は封じられて、ロネヴェを殺した罪を購うのだろう?」
シェリルが想像していたのは、全く逆の状況だった。
シェリルが彼の身動きを限定し、彼は無理矢理受け入れるという状況となる事を想像していたのだ。彼の存在意義を否定してやろうと思っていた。
だが、今の会話で、彼女はそんな風に階段を下る最中で考えていた事など、一瞬で吹き飛んでしまった。
自らの意思で地下牢に繋がれている悪魔。
この状況はインパクトが強すぎた。
「――……そんな、従順さをアピールしても無駄よ。
勝手にここで縛られてなさい」
シェリルは想定外の動きをするアンドロマリウスに頭がついていかず、この場を離れる事しかできなかった。
一旦彼から離れれば、再び鬱々とした気分になってくる。想定外の事ばかりでやっていられない。
そもそも、ロネヴェが死んでしまった事自体が想定外だった。更に、封じた悪魔が自分からそういった状況を作り出して居座っている。
全く、意味が分からなかった。
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