第3話 今の関係
「――なんか、探している時よりも……町に戻ってきてからの方が疲れた」
「あの女性は、話したい気分だったのだろう」
家の扉をくぐるなり、シェリルがため息とともにぼそぼそと呟いた。アンドロマリウスは扉を閉めて施錠する。物理的に閉めた上に魔術で固定するこの方法は、安易にシェリルが狙われないようにする為のものであった。
「こういう捜し物とかの依頼、あなたのおかげですぐに見つかるから楽だって思ってたんだけど、こういう事もあるのね」
彼女が広間の椅子に座ると、アンドロマリウスかお茶を淹れ始める。数分経てば、近くの机に飲み物が置かれた。香りが控えめな茶葉で淹れたお茶に、香りの強いアルコールとはちみつを一匙垂らしたそれは、シェリルの好きな飲み物の一つだ。
「ありがとう」
「……いや」
一口、口に含めば程良い甘さがのどを潤す。温まって立ち上がる香りが鼻孔をくすぐった。シェリルが満足げに鼻をすんと動かせば、アンドロマリウスは自室へと下がっていった。
シェリルはほう、と息を吐いた。彼の淹れるお茶は美味しい。彼女は疲れが癒されるのを感じた。
全て飲みきり、調理場の桶へとカップを入れる。明日起きてから洗うつもりなのか、彼女は桶へと水を入れてカップを浸した。
その足で浴場へ向かったシェリルは、温かな湯で満たされた浴槽を見て苦笑する。真っ直ぐ自室へと戻ったものと思っていたが、どうやら彼は浴場の支度をしていたらしい。
とても甲斐甲斐しく動き回る彼は、シェリルの恋人を殺した悪魔とは思えない。
湯船に浸かった彼女は、浴槽の縁に肘をついた。
ロネヴェを失ってから、おおよそ百年が過ぎた。人間が生まれてから死ぬのに十分すぎる時間が経ち、シェリルは自分が変わったのを実感する。アンドロマリウスはロネヴェを殺した悪魔であり、確かにシェリルは彼を縛り付ける事に成功した。
シェリルは彼を飼い殺して、生き地獄を味合わせてやろうと思っていた。そのつもりで術を完成させたのだ。
それがどうして、個室を与えた上に相棒として生活してしまっているのだろうか。周りからは、有名な悪魔を従属させた召還術士として認識されている。
そういう認識になるだけの要素はある。だが、シェリルが望んでいたのはこんな関係ではなかった。
そもそも、始まりからおかしかったのだとシェリルは思い返した。
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