第3話 昼下がりの決着

 そうして、今はロネヴェの作った結界に閉じこめられて身動きがとれなくなっている。私が色々と持ち出した札や護符は、使う事さえできやしない。

 こんな状態で、不安にならない訳がない。嫌な予感がしない訳がない。時に相手を殴り、時に相手に殴られる。拳で殴り合ったりするだけじゃなく、たまに爪を鉤爪のように変化させているのか、血飛沫が飛んでいる様に見える。それがたまらなく怖い。

 いつもと違う。それだけで、私の不安を煽る。今までは、彼が悪魔と対峙したら、あっけないくらいにさくっと終わっていた。


 ロネヴェがアンドロマリウスの羽根を毟ったのが見えた。それと同時に、ロネヴェの翼が切り裂かれた。ロネヴェの蝙蝠のような翼は、がっしりとしているように見えるけれど、その真逆で繊細なのを知っている。

 翼が切り裂かれてバランスが取りにくいのか、ロネヴェの動きが鈍くなった。それを見逃すほど相手は甘くない。彼の翼ばかり狙うようになる。

 嫌な汗がでる。いつの間にか、手が冷え切っていた。心なしか、くらくらする。ロネヴェの死が近付いてきているのを感じているかのようで、気持ちが悪い。


 彼の翼が折れた。大きな翼はだらりと引きずられる。アンドロマリウスから大きく離れると、彼はその使えなくなった翼に手を伸ばし、引き千切った。片翼となったロネヴェはちらりとこちらを振り返って、余裕もない癖に……いつもみたいにふにゃりと笑いかける。

 それは、無言で別れを告げているかのように見えて愕然とした。そんな風に判断して、冷静であろうとする私が気持ち悪い。嫌だ、ロネヴェが死んじゃう。

 焦れば焦るほど、彼らの戦いぶりは把握できるのに、それ以外に頭が回らない。思わず震える手で結界を叩く。

「……ロネヴェ、だめ……っ」

 叩いたって、無駄なのは分かっているけど、止まらない。彼の作った結界は、私を守りたいっていう気持ちが伝わってくる。叩いたって、私の拳は痛くならない。何にも感じない。


「いや、いやよ……そっち、行かせてよぉ……」

 ロネヴェが吹っ飛んだ。どんどん視界が歪む。足の力が抜け、結界の前に座り込む。立ち上がった彼は、左手を顔に押しつけているようだったけれど、すぐにその手を外して攻撃に転じた。


 その左手が、アンドロマリウスのわき腹をかする。同時に、信じられない光景が目に入った。

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